「おめでとうございます」


そう言って笑ったわたしの顔は、酷く不細工だったと思う。作り物の笑顔を浮かべて、心にもない台詞を吐いて。真っ白なウエディングドレスに身を包んだ夏未さんに花束を手渡した。「ありがとう、なまえ」10年前と変わらぬ声色でわたしに声をかけた新郎の円堂さん。円堂さんの顔を見ることは、どうしても出来なかった。

一ヶ月前、夏未さんから一通のメールが届いた。"結婚しました"メールの件名を見て、ケータイがわたしの手の中からするりと零れ落ちた。"円堂くんと結婚しました。結婚式に、来てくれるかしら"メールの内容を見て、思わず涙が零れた。これは、きっと嬉し涙だ。絶対そうだ。あの憧れの夏未さんと円堂さんが結婚したのだ。夏未さんは中学の頃から円堂さんの事が好きだった。わたしもそれを知っていて、応援していた、はずだ。それが結婚に繋がったのだ。大好きな先輩の幸せを喜ばない後輩がいるわけがないだろう。「、おめでとう、・・・ございます」ケータイの画面を見ながらひとり、呟いた。

結婚式の会場には、中学の頃の先輩や同級生がたくさん集まっていた。お決まりの音楽とともに入場してきた新郎と新婦。真っ白なスーツの円堂さんを見た途端、何故か胸がざわついた。隣に居る夏未さんは、とても綺麗だった。指輪を交換したあと、誓いのキス。二人の唇が重なった途端、一筋の涙が頬を伝った。



ずっと、好きでした。








、夏未さん。


作り笑顔と眩む視界
20120206
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