「──和宮っ!」
両者から鋭い声で名を呼ばれ、口元が引きつるのが分かった。
学園内で彼らが争っているそれらに何の関心もない和宮は苛立っていた。
向けられる視線はまるでお前はどちらの味方になるんだと問いかけられるようなそれで──どうして僕がどちらかに付くと思っているんだ。それが当然かの様に話を進めるなと言葉にしないまでも苦々しい顔つきになっていて。
「僕に何か用?」
「用って……っ。さっきの話聞いてたでしょ?」
「聞こえてたけど、それが僕に何の関係があるって言うのさ」
彼女の為だけに此処にいるのだから、面倒事は避けたい。だけどこう何度も何度も絡まれれば、いろいろ爆発しそうになる。
ジロリと目の前に立つ彼らに視線を向け、溜息を一つ。
「どっちにも興味がないんだから無関係でしょ?」
前回はいろいろ協力したけれど、それはやっぱり彼女がいたからで。その彼女がいないそれ以外の為に何かしようなんて論外だとさえ和宮は思っている。
しかも今日はあの文化祭当日だ。行くからね!と言っていた彼女がそろそろ到着予定なんだから邪魔をしないでほしい。
「和宮、お前……っ」
「そこのお姫さま守るのは君の役目なんでしょ?精々頑張りなよ」
自分に声を掛けてきた深行に対し、笑みを向けてやる。彼の隣にいるお姫さま──鈴原の家の娘。以前は彼女がいた立場に存在している女。和宮の興味を向ける対象になりえない彼女。それを守る立場にいる深行の行動は和宮にとって滑稽だった。一層哀れに思えるほどである。
──だって彼女は"彼女"じゃない。
「和宮……くん?」
じゃあねと鼻で笑い、改めて背を向けた和宮──に、今度は別の方から声が掛かった。聞き間違えるはずのない、彼女の声が。
「あっ、」
振り返るその先に、やっぱり彼女がいた。変わらない長い三つ編み姿の、車椅子に乗る彼女は間違いなく自分の主である。有馬泉水子。それが今の彼女の名前。
慌てて近寄れば笑みを深くして。
「来てくれたんだ?」
「うん、行くって言ったでしょ?……って、お邪魔しちゃった?」
どうやら声を掛けてきた彼女は木々が死角になっていて深行たちの存在に気付いていなかったようだ。以前の知っている顔だけに彼女の顔には少しだけ動揺が走ったが、それと気付かせないように彼らの視線を遮る様に和宮は身体を割り込ませた。
──泉水子が関わらないと誓っているのなら関わらせる必要はない。
「まさか。花さんは?」
「和宮くんが見えたから私一人で大丈夫って兄さんとあそこで待ってもらってるの」
指された方には手を振る男女の姿がある。泉水子の兄である光亨と有馬家のお手伝いをしている花だ。花はきっと気を利かしたとでも思っているんだろう笑顔だ。うん、別にいいけどと和宮は苦笑する。
「用は済んだから合流しようか」
「……いいの?」
気まずそうな表情をした彼女に笑いかけ、車いすごと反転させる。もともと和宮に取って用などない。
「じゃあ僕は行くよ」
もうこれ以上巻き込まないでねと振り返り釘を刺したが──彼らは何やら呆然とした顔でこっちを見ている。何か文句あるのかと、それを少し不快に思ったが何を言うでもなく顔を正面に向けて車椅子を押す。
和宮に取って今は彼女を案内するのが最優先だから──。
世界と引き替えにしても守りたいひと
(あー、まさか来て早々深行くんたちと再会するとは思わなかった)(ごめん、迎えに行くべきだった)(ううん、大丈夫。ちょっと吃驚したけど思ってたより──…)
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匿名さま、この度は企画にご参加くださりありがとうございました。書き上げるのが大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした!
リクエスト内容は『以前ネタにあったRDG』が読みたいということで泉水子逆行を書かせていただきましたが如何でしょうか?
実は他の漫画からこそっと拝借してしまったキャラなど勝手に暴走のまま書いてしまいました。しかも主人公は完全に和宮くんになっております、ごめんなさい。楽しんで頂ければ幸いです。
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