そう言う風に笑われたら何も言えないって知っててやってるの?
「ずっと傍にいてほしい」

弟みたいに思っていた子からそう言われたのは、騒動が何もかも片付いた後。
不安そうな、でもどこか期待するように私を見つめる彼は真剣そのもので。

──どうして、こうなったんだっけ?



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私が前世の記憶と呼ばれるものを思い出したのは神託の盾騎士団に入って少ししてからの事だった。そりゃあ慌てた。当然だ。身体を見下ろし、鏡を見て自分が誰なのか気づいたからだ。

──ティア・グランツ。本名をメシュティアリカ・アウラ・フェンデが今の私。

おいおいおいおい、アビスですか?ヒロインですか?成代りですか?私の慌て様を分かってほしい。
騒動を起こすヴァンの妹なんだし、何もしなくても兄の連座でわが身が危うすぎる。当然の如く巻き込まれること必須のキャラじゃないか。前世で荒波に揉まれた事も一緒に思いだした私からすれば今世は平穏に暮らしたいのに……っ。

──だからね、うん!それからはもう、巻き込まれないよう巻き込まれないよう頑張りましたとも!

兄から離れる為に神託の盾騎士団はすぐさま辞めてユリアシティに戻ったし、あんな世界規模の戦いに巻き込まれないようにひっそりこっそり──時々暗躍なんてしたりして──過ごしたわけです。
だって死にたくないですし?わが身が可愛いので勿論私である事は気づかれないようにだけど。ほら、兄に見つかったらヤバいし、面倒事にはノータッチでいきたい。その為にお祖父様はこっそり巻き込んだけれども!

まぁ、結局兄との縁は切れなかったけど──でもでもファブレ公爵家は襲ってないから、あの嫌な感じのパーティには初っ端から入らなくて済んだ。胃がキリキリするわ、あんな所にいたら。仕方ない仕方ない。

──で。

「お前が、ヴァン師匠の妹……?」

「……はい、ティア・グランツと申します」

そうやって基本的に彼らには関わらず生きてみましたが、兄の連座として国に利用される際にお会いしたルークさまは思った以上にボロボロでした。……国に利用されるのは真っ平ごめんですけど、その姿にもう何か罪悪感しか沸かなかった。本当にうちの兄が申し訳ない!

当然最初は警戒されましたよ、ヴァンの妹だし。でもそこまで私、はっちゃけてないし。無茶したくないし。えぇえぇ、自分に害がない限り面倒なことはしない主義です。ヴァンが企ててる何ちゃら計画?そんなものに参加なんてするはずないじゃないですか、ヤダー。めんどくさい。

──だからでしょうか。

「ティア、ティア!」

「はい?どうされました?ルークさま」

そんな私を見ているうちに何を思ったのか、ルークさまは数日後には可愛らしい笑みを浮かべて名前を呼んできて。流石、七歳児!純粋すぎる可愛らしい笑顔に胸キュンしちゃいます。ポーカーフェイスで表には出しちゃいないけどね。キリッとしてますよ、キリッと!
障気蝕害になった時なんて、死んだらヤダって泣くのを堪えててもう本当に可愛らしすぎて苦しみなんてどっかに飛んでいっちゃったわ。名前を呼ばれた時も何でもない、呼んだだけって!笑顔で言われちゃあ、可愛い以外の何ものでもないじゃない!

特に周りには結局関わる事になったメガネやら王女さまやら、てめぇら何言ってんの?って言いたくなるような憎たらしい面々が揃っているから、こんなにも癒しを与えてくれるルークさまは素晴らしい!私にしか笑顔向けないもんね、今じゃあ……って、ん?あれ?これってもしかして優しく接する私に対して信頼出来るって言う刷り込みって奴かしら。周りが悲惨だからこそのね。
あらまぁ、なんて事!一応ルークさまは貴族さまであるわけだし、罪悪感のある身として親切にする様に心掛けてはいるけれど、特別何かしたわけじゃない。こんな簡単に私なんかに刷り込みされてどうする!ヴァンだって懐柔簡単だったんじゃないか?
おい!おいおい!ファブレ公爵家!ご子息さま、チョロいぞ!チョロすぎるぞ!教育はどうなっている!あっ、まともにしてないんだっけ、なんて思わずツッコミを内心で入れてしまっちゃったじゃないか、もうっ!

「頑張ろうな!」

「はい」

とりあえずルークさまに癒されとけって事だよね!とそんな事はポイッと頭の片隅に投げ捨ててその時はルークさまの笑顔を堪能することにしたけども。

ヴァンの討伐は両国の兵士さんたちに任せました。ユリアの子孫としては力を貸すけど、神託の盾騎士団辞めてる一般人の私が戦場でしゃしゃり出る幕じゃないですし?ルークさまとお留守番してました。当然でしょう?他のメンバー?さぁ?行くわよ!とか言って勝手にどっかに行ったけど、私たちの知った事じゃないし。後日──何かやらかして捕まったとか聞いたけど、気にすることないよね!私一般人だし、詳しく知る必要もないしね!

そんな感じでいろいろ巻き込まれたりそうじゃなかったりして、ユリアの預言通りにはならずにすんだ。兄達は捕まったけど殺されてはないわ。いろいろ償ってもらわなきゃいけないもの。ふふふふー、私が頑張らなきゃいけなかったのも元はといえば兄達の所為だしね。当然といえば当然だ!


──と、まぁ。こんな感じに一段落して、ひっそりこっそり一般人に戻ったところに、公爵家に戻ったルークさまからの爆弾投下だもんね。焦るわぁ。

「ダメか……?」

「──っ、い、いえ……」

何これ。首を傾けて縋るようにルークさまに見られて断れると思っているのだろうか。ああぁぁぁぁー、これ素でやってるからたちが悪いんだよ!ツボを心得てますよね!
でもそれより何より、その返事に嬉しそうに笑うルークさまを見てまぁいいかと思ってしまう私も大概なんだけどね……。



そう言う風に笑われたら何も言えないって知っててやってるの?






(しかしルークさま、身分差というものが……)(ティアはあの時以前からいろいろしてただろ?その功績やら何やらで大丈夫だって)(えっ!?暗躍ばれてるっ!!)

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夕月さま、この度は企画にご参加くださりありがとうございました。
リクエスト内容は『TOAティア成り代わりでルーク夢〜』ということでしたが如何でしょうか?
好き勝手に動かした結果、割と自分勝手な主人公になってしまいました。ルーク救済のために奔走……出来てますかね?楽しんで頂ければ幸いです。

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