ゆらりと揺れながら表れた白く大きな獣は、奴良組の面々が見つめる中、スッと目を細めると獲物と定めたそれに噛みついた。
その瞬間カッと光が溢れ──力量の違いを見せつけながらそれは祓われた。
「お前は──…」
感じた覚えのある気配。それに気づいた氷麗と青田坊がリクオの前に出る。昼間は害がないと判断して見逃したが、敵であるならば──と、不信感をあらわにしていると。
「──…あれ?」
その場に場違いな呆然とした声が響いた。声の主は、その獣の背に乗っていた昼間見た少女だった。
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「あはは、少しばかり妖に襲われる原因がありまして。今回それで──巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
「襲われる原因があるとは──何とも物騒じゃのう」
折角の家族旅行だったのに結局友人帳を狙う妖に襲われて、塔子さんたちを巻き込まないようにこっそりと宿を出た。走って走って人気のないだろう場所で先生と一緒にその妖と対峙した時に出会ってしまったのは昼間出会った彼ら。
その中に昼間見た眼鏡をかけた男の子がどう見ても別人だと思われる姿だったのに驚いたのも束の間。話を聞きたいと、奴良さんって人のお屋敷に連れて来られ。
──で、そこで待っていたのはこの家の主であるお爺さん。優しく笑っているのにどこか油断できないタイプに見えて、とりあえず相槌を打ってニコニコ笑うだけに留めて会話する。友人帳だとかの事情なんて簡単には話せない。
曖昧に浮かべる笑みの意図に気づいたのかお爺さんは話題を変えた。
「──しかし、お主の顔をどこかで見た覚えが」
「おい」
……覚えがあると言おうとしたのかな?途中で昼間の男の子、えっと、リクオさまだっけ?が低い鋭い声で遮った。ナンパなんてするななんて、うん、多分違うと思うわ。
そんなわけで口を挟むことにする。
「ええっと、会ったことはありません──が、」
「が?」
「祖母が知り合いかもしれないですね。夏目レイコって言うんですけど」
だって、この言い回しだもの。何度も聞き覚えがある質問だし。チラッと先生を見ればどこか呆れたように遠くを見てる気がする。あー、やっぱり。どこまで知れ渡っているんですか、レイコさん。この調子だと日本中に知り合いの妖がいそうだ。
「夏目レイコ!?」
「何だ、知ってんのか?」
まぁ、思ったよりも反応があった。お爺さん以外にも周りが騒めいてる。何となく若そうだと思われる面々は首を傾げているけど。
「まあのぅ。……なるほど、それが襲われる原因か」
納得し、興味深そうに私を見たお爺さんはそうして視線を私の手元にやる。つまりニャンコ先生へ。
「で、お主が用心棒しておるのか」
「私は強いからな」
ニヤリとドヤ顔を決めた先生にお爺さんは楽しそうに笑った。それはしっかり先生の実力を見抜いているようで。うん、やっぱり侮れないわ。
境界を飛び越える為に
(レイコさんご存知なんですか?)(まぁ、いろいろあってのぅ)(おい、何の話だ)
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ナツさま、この度は企画にご参加くださりありがとうございました。
リクエスト内容は『わざと気づかない振りする私に、彼は気づいているの続き』ということでしたが如何でしょうか?
ぬらりひょんである彼とレイコさんがどの様に知り合ったのかは──想像の中でお楽しみください。私の技量ではこれが精一杯でした。すみません。楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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