今はまだ遠い掌
「こっ、こんにちは」

ドアを開けるとそこには緒方さんと桑原本因坊が座っていた……って、何だそれ。こんな所で会うとは思いもよらなかったトップ棋士達に驚きすぎて固まったのは一瞬、慌てて挨拶をする。
おいおいおいおい、進藤の新初段シリーズを見に来ただけだぞ?心臓に悪い。

「おい、こっち座ろうぜ」

部屋の隅へ越智を誘う。流石にあの中に入って勇気何て俺にはない。

どうしてトップ棋士がいるんだと越智は俺同様驚いている様だが、俺は何となく気づいた。彼らのお目当てが、名人である塔矢行洋じゃなく、進藤だってこと。そう伝えると越智は少しだけ顔を歪ませた。

「……進藤って何者?」

「俺たちの同期でライバルで仲間!」

俺はそう思ってるし、きっと進藤だってそう思っているはず。あとはのほほんとしてるとこがあるだとか、伊角さんたちよりも時々言動が大人になったりすることがある。進藤の事で知っているといえばそれくらいだ。

「君も彼女に興味があるのかね?」

──そんな事を思っていると、桑原本因坊の声が聞こえた。勿論、質問を投げかけられているのは緒方さんだ。

「えぇ、アキラ君が研究会にも連れてきてましたからね」

頷いた緒方さんに、そういえば進藤が研究会に誘われて行ったことがあるって言ってたのを思い出す。目の前に座る越智は唖然というか、驚愕の表情を浮かべてるけど。
俺も最初はビビったぜ。あの塔矢がだぜ?進藤を名人の研究会に誘うだなんてさ。

「ほほう!ではやはり、囲碁界に新しい波を起こす一人なんじゃな」

ワシのシックスセンスもたいしたもんじゃと桑原本因坊は笑う。

おいおい、緒方さんと知り合いってぇのは知ってたが、桑原本因坊との関係は知らねぇぞ。ぜってぇ、後で聞きだしてやろう!

内心進藤に文句を言いながら、対局が映るテレビを見る。まだ対局は始まってない──と、ドアが開く音がして塔矢が入ってきた。どこで知り合ったのか越智が塔矢に挨拶をしていた。って、それも俺聞いてないんだけど!気になって視線をやるも、越智は見向きもしない。腹立つ。

「アキラ君も彼女が気になって?それとも名人か?」

「二人共です。この対局、父が進藤さんを指名したと聞いて」

塔矢の言葉に驚く二人。当然俺たちもだ。塔矢名人が進藤を指名したって……。

「和谷……、進藤って…」

「ゆーな、もう」

驚きのあまり、越智への答えを俺は持っていなかった。



今はまだ遠い掌






(どうだ、緒方君。どっちが勝つか賭けんか?)

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『主人公がプロになった時の話。特に周り(プロの人)の反応が知りたい』というリクエストでしたので、原作のあの場面を。一応視点は和谷君の、未来IFになります。

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この度は三周年&八十万打企画にご参加くださり、ありがとうございました。

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