05、


「……あっ! 忘れるところだったー! ねえねえ、今日ね実は花火が上がるんだよここー! ほら、だからこの部屋にしたの! ここの窓から見えるんだから!!」

 えっへん、と胸を張るミミューの努力が何だか涙ぐましく思えてくる程だ。進展の無い二人を引っ付けるのにここまで身体を張っているのに一向に応えてくれない二人……。
 ミミューは立ち上がると窓際までみんなを呼んだのだった。

「多分そろそろかなー! ほら、ナンシーちゃんもおいでおいで〜」
「ふぇええ! 神父やるじゃん、さっすがエリアマスター」

 凛太郎が目を輝かせながらやってくると、ナンシーの背後から窓の向こうを覗き込んだ。窓から外を覗き込むと、宿泊客か地元民か、成程確かに人々で店の前が賑わっているのが見えた。

「まあ十分程度のしょぼい花火だろうけどさ……ここの町内、お金あんま無いらしいから……」
「そ・そんな世知辛い情報はいらねーよ……」

 ミミューのぼやきに創介が漫画でいうところの汗マークを浮かべた表情で返しておく。宣言通りにすぐさま花火が打ち上げられたのが分かり、一同の目が夜の空に釘づけになった。

「おおおおお〜〜〜〜! ザンボットの人間爆弾思い出すぜぇええ!」
「また意味の分からない事言ってるよ凛太郎君は……一真君を見習って大人しく風流を楽しんだりできないのかねえ」
「打ち上げ花火の筒の中に入って火を点けたらどうなるのかな……全身バラバラかな……」

 一真も一真で別の楽しみ方をしているようなので、あんまり風流を感じているとは言い難いのだが……。ミミューはもういっそ、創介をこのまま押してセラに無理やり密着でもさせるべきかと悩んでいたがその時だった。部屋に戻ってきたその男、有沢はゲロを吐いたのかややスッキリとした感じだが(でも多分酔ってる)ふらつきながらこちらにやってきた。

「あ、おかえり有沢君。どうしたの? 何だかやけに千鳥足……」
「おい、セラ」

 戻るなりに、有沢はセラの元へと真っ直ぐに迎いその足でしっかりと立つようにしてセラを見据えた。何だ、何をする気だこの男は。

 一同の意識がそちらへ集中した矢先、セラが「なに?」と振り返った。

「……」

 ややあってからだが、振り返ったセラの腕をぐっと掴んで立たせると有沢はセラと向き合うようにして真剣な表情のままに言った。

「お、俺は……」
「な、何だよ一体?」

 戸惑い顔なのはセラだけじゃなく、創介と雛木だってそうである。セラはそれからおずおずと元に戻ろうとしたのだが、有沢はその片手を持ち上げるとセラの背後にある壁にドンッ! とその手を置いて彼が戻れないような姿勢を取った。

――か、壁ドン……!?

 見ていた全員の顔が驚愕を浮かべたまま、カットインで表示される勢いであった。絶対酔っ払っているんだろうけど、これ、素面に戻ったら思い出して悶絶する恥ずかしさだぞ! と、一同皆が思ったのだが先行きをやや見守りたい好奇心もあってすぐには行動できない自分もいるのがもどかしい。

 やられた方のセラは胸キュンどころか青ざめている勢いだが、得意の格闘術もこの謎すぎるシチュエイションの前には発動が出来ないらしい。

「な、な、何……、何だよ有沢……っ!?」
「――、セラ……俺は今でもお前の事が……」

 ひいっ、と凛太郎が怯えたような声を出したのが分かった。茫然とそれからの行動を見つめていると、有沢はすっかりもう酔いが回っているのか……いやいや、酔った勢いというよりはアルコールによってその本音が暴露されたという感じに近いか。

 有沢は、セラの顎をくいっと持ち上げると有無を言わさずに天使セラの唇めがけてキスをかわしたのだった。

「あああああああ!?!?」

 何たる悲劇か、好きな男が目の前で同じ男に奪われるとは。これが寝取られという状況なのか、とまあ、創介は流石にこれには動いた。全力で、意識を総動員させて、動いていた。

「死ねこの変態!」

 が、それより早く動いていたのは鬼嫁・雛木であった。雛木は有沢の背後から股間めがけて蹴りを食らわせると有沢がそれでダメージを受けたらしい。その隙に創介がセラを慌てて抱き寄せると、まるで我が子を守る母親の如くセラの小柄な身体を何度も何度も繰り返し抱きしめるのだった。

「だだだだ、大丈夫!? ねえ大丈夫!?」
「み、見たままなんだけど……」

 一方で馬乗りにされながら有沢は雛木に殴る蹴る叩くの暴行を受けている。

「ふざっけんなこの万年発情期! もっぺんゲロしたいかコラ! 吐瀉物だけじゃなくて内臓全部吐き出させたろーかてんめーこのお!」

 ヤクザさながらのドスの利いた声で、雛木は有沢をシバき続けているようだった。急展開ではあるが、ミミューは「ナイス有沢!」とガッツポーズを小さく決めていたのを隣にいるナンシーにばっちり目撃されてしまった。

「創介……」
「えっ!?」
「……痛い……」

 自分でも気づかないうちに思いっきり強く抱きしめていたようで、慌てて創介がその手をぱっと放してみた。それから紳士宜しく何もしませんよ〜とでも言いたげに、上げた両手をヒラヒラとして見せた。

「……よし、ここは僕らこっそりいなくなろうか!?」
「え!? ま、まさかですけど、これってこの為だけの集まり……」

 ナンシーの驚愕の声に、ミミューはシッと皆を静かにさせてからこそこそとその場から離れていく……。




有沢ってこういう恥ずかしい事
ガチでやってそう

←前 次→
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -