03、


 後日流されたミミューからの連絡網によれば、飲み会は無駄に規模を拡大して単なる居酒屋ではなくて風呂やカラオケ付の宴会場に近い広い場所だと言う。

「そんな事言うからてっきりラブホでやんのかと思ったよ〜。あと、よく浮気で使われる風呂付カラオケ」
「違うよ創介君〜! ここ!」

 宿泊施設付のいわゆるスーパー銭湯とされる場所だが、結構大きくて建物も綺麗だ。家族連れやカップル、仕事帰りの若者なんかも訪れるという地元じゃあそこそこ人気のナウなスポットである。

 女性専用のスパなんぞ洒落た部屋も用意されているので、若い女の子もキャッキャ言いながら歩いていくのを創介は別に変な下心はなしに見送っていた。

「彼の事は僕が見張っておくから安心してね、ナンシーちゃん」
「いででっ、神父ちょっと加減が……」

 首根っこをミミューに引っ張られて創介は無理やり輪の中に押し戻される格好となった。ちなみに今日の神父の謎Tシャツの模様だが、赤色に黒文字で『昭和生まれ』と書かれている……謎だ。

「へへへ! 風呂場でサバゲーしようぜサバゲー!」

 言いながら凛太郎が担いでいるのは全長五十センチほどはありそうな、マシンガン型の水鉄砲である。割と凝ったデザインで本格志向なようだが、ミミューが慌てて止めに入るのであった。

「こ、こら! 他のお客様もいるんだぞ! 貸し切りじゃあるまいし公共の施設では駄目です!!」
「えー、何でだよ! みんなで旅してた時はしょっちゅだったじゃねえか」
「それはその時だからなの! 今は平和でしょ? ほらさ、例えば凛太郎君が一人でお風呂に入っている時に他のお客さんが大声で突然サバゲー始めたらどうだい? 一人でゆっくり風呂に入ってる時にだよ? イラっとするでしょ!?」

 たしなめるミミューに凛太郎は不服気にブーブー何か言い続けたが、凛太郎は育ちが育ちなのでやや内面的に幼かったりもする。しょうがない。

「……お前さっきから誰だと思ってたけど雛木かよ……」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐミミューと凛太郎から視線を外し、振り向きざま目に入ったのはキャスケット棒を深く被り物凄く地味な装いの小柄な……一見すると女の子でしかないが、とてもじゃないがあの雛木だとは思い難い印象である。服装そのものは地味だが、腕を組んでジリジリと放つそのオーラは高飛車そのものなので、相変わらずの雛木様といったところか。

「有沢君が無理やり着せるからしょーがなしにでしょ! 好きでこんなクソダセェ服着てんじゃねえんだよ、こちとら!」
「う、うん、まああの格好で歩いてたら捕まるからね」
「しっかし窮屈だなあ〜、どうせ中入ったら脱ぐんでしょ? だったらもう脱いでいいよね?」

 断りなく雛木はその場でシャツをがばっと上げて上半身丸出しになったので、ミミューが慌てて戻ってきてそれを差し止めた。

「だーーーーから! 駄目! 駄目だよ! 君ら本当に世界が普通に戻ったらダメな部類の人間ばっかだね!?」
「僕は人間じゃないし」
「屁理屈ごねないの! 社会人は屁理屈とか言い訳しちゃ駄目なの!」

 引率者よろしく走り回るミミューの姿が、何だかやけに無闇な平和を連想させる……。

「――なんか、こういうの久しぶりだね」

 それまで、騒々しい事態をいつものジト目で見守っていたセラだったがやがて肩を竦めながら零すように呟いた。

「しばらく一人でいたから何か懐かしいよ」

 セラの声に、一同がしみじみとしたように静まり返るのだった。創介とて例外ではない――セラの言った一人でいた、の言葉は何か創介の頑なな純情ハートに深く沁みた。ミミューがにこっと笑って、セラの肩を叩くと明るい声で言った。

「だから今日はみんなでゆっくりしよう。セラ君は事情が事情だからセレブな創介君が全負担するから気にしないでいいよ! ごちそうさまでーす」
「え!? そ、そうなのッ!?」

 聞いちゃいなかったのだが、何となく想定内というか、少し不安に思っていた部分ではあったので何気に持ち合わせのある自分が悔しい。ここでそんなに持ってないよ〜とか言えたら良かったのに。

 宴会の前にとりあえずひとっ風呂、って事で風呂に直行する一同だが一部それを拒む者がいた。有沢とセラである。

「まあ、怪しいからあんま目立ちたくないだろうな」

 凛太郎が小声で呟いたのが聞こえて来た。本人に面と向かって言わない辺り、まだ少し空気が読めるようになったのかもしれない。セラは何でなのだろう、何だかあえて有沢と二人きりになりたがっているように見えた。気のせい――気のせいなのか……強烈な胸騒ぎがするのは、これまで何百人と女遊びを繰り返した創介の野生の勘なのか?

「……創介君」

 二人去っていくセラと有沢の背中をぽか〜んとした顔で見送っていると、背後からミミューにドンッと肘打ちされた。

「いいの? セラ君無理やり引っ張っていくくらいの男気見せなくて」
「い、いや……だってセラが嫌って言ってるのに……無理やり戻していいの? いい流れなの?」

 ある意味、ターニングポイントとも言えるミミューからのその最終警告というか――試されているようなその問いかけにも、創介はぐっと言葉を詰まらせるばかりで意気地なしと罵られても仕方の無いような情けない顔をしている。

「……い、いいよ。セラがそう言うんなら……」

 ぼそぼそと消え入るような声で漏らす創介に、ミミューがまた肘打ちを、今度は強めに一発かましてきた。

「何か創介君つまんなーい! そんなつまらない男だっけ!?」
「そ、それしょっちゅうあらゆる人から言われるんだけど……」
「もー! もー! じれったいなー!」

 ミミューがタオルを振り回しながら叱り飛ばしてきたが、何だかやけに自暴自棄な気分だ。




イベント後のアフターの打ち上げに使われるよね、
カラオケ付のそーゆーラブホ改造した場所。パ●ラとか。
一回映画系の同人誌出した後は、サークルで直行して
ホラー映画大会だったよ。楽しかった、もっかいやりたい。


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