02


 緊張からか僅かに汗を掻いているのであろう、すぐ傍で感じるヒロシの肌が微かに湿り気を帯びている。汗ッ気を帯びたせいなのか彼が制服に使っているんであろう柔軟剤の香りが、いっそう強くなった。

「う、ぁあ゛、っ……!」
「ほらほらちゃんと呼吸して〜、吸ってぇ吐いてぇ! 暴れるともっと痛いんだぞ!……深呼吸して感じてみるんだよ、自分の中に入っている異物を。――どうだいマツシマ君? お友達のアナルの締め付け具合は? きっと初めてだろうからさぞかし気持ちいいんだろうねえ、君の早漏ちんぽはどこまで耐えられるかな! よーし僕が数えてあげよう!!」
「っ……く、……ん!」
「おやおやマツシマ君、必死に耐えて感じてないふりかな? 健気に耐えてるねえ、見直したよ僕、君の事! もっと自己中心的で利己的な子かと思いきやそうする事でヒロシ君のプライドを守ってあげてるんだね、うふふ」

 歯を食いしばるマツシマの背後から、ルーシーは今度は彼を優しげな手つきで抱き締めてあげる。それから頬、耳、首筋を扇情的に舌で撫でるようにして舐めた。もっとも、状況が状況であったなら、官能的とも言えたかもしれない。

「――ほら、見える? マツシマ君のこの角度なら接合部分がしっかり見えるでしょう? 君の粗末なチンチンをしっかり咥えこんでる様子がじっくり分かるでしょう。というか僕にも見えてますよ、うふ。うふ、ふふ、ふへ」
「ン、っ、九十九、もういい、もういいって! どけって、どけってば!!……んっ、あ……ッ……ぁ」
「う……っ、ん」

 痛くないわけがないのだ、しかしヒロシはすっかり従順な様子で健気にも自ら上下に動いている。少しでも早くこのバカげた祭り騒ぎが終わりを迎えるように、只それだけだ。
 ルーシーが観察するようにまた肩から顔を覗かせ、そしてクスクスと笑った。

「あはっ……可愛い僕の玩具達。ヒロシ君のおちんぽももうぬるぬるしてる、初めてなのに興奮しちゃって、もう、男って馬鹿だなぁほんと」

 可笑しそうに喋り、それからルーシーがマツシマの顎を掴んで頬に一つ接吻を落とした。

「ち、ちくしょう……こんな事許されるわけねえだろーが……ッ、ん!」
「何? 僕が許せないの?――でもねえマツシマ君、君は大きな勘違いを一つしていると思うよ」
「何がだよ!!」

 懸命に持てる限りの憎悪を掻き集めたような声と顔で叫ぶと、ルーシーは意にも介さずに紳士的に笑う。紳士を絵に描いたような微笑み方だったが、その実態はこれなのだから世の中何を信じていいのやら、である。
 身体を左右によじってみたりもするが、摩擦が生じて却って快感が生まれただけだった。マツシマはそれでまた上擦ったような声を鼻から漏らした。

「彼をよく見て。よく見るの、マツシマ君?」
「っ……」
「ヒロシ君は今、絶望でいっぱいの顔をしていると思う?――違いますよね、今の彼は『マツシマ君のちんぽとっても気持ちいいの〜』って、顔、してますよね? どう? 僕は間違ってますか?」
「ち、違っ……!」

 反論を寄越して首を横に振るヒロシだったが、その言葉に反応したのかは定かではないが今しがたマツシマのそれを咥えこむ箇所がきつく締まったせいでマツシマには悟られたのかもしれない。

「おっとぉマツシマ君! 目を閉じたり顔を逸らすのは反則だぞぉ!」
「っ!!」

 ルーシーは再びヒロシの方へと向かうと、次はヒロシの腰から手を伸ばし下腹部へと触れた。

「ふふ、中でしっかり勃起させちゃって。さっきまでは二回も無理なんて言ってやっぱり欲望には勝てないんですねえ、うふ、ふふっ。ヒロシ君、ほら、僕も一緒にお腹越しに伝わるちんこにこうやって触れてるからね。僕も一緒に犯されてる気分になってあげるよ。一人じゃないよ? 犯されてるのは君一人じゃないんだよ?」
「う、あ、ああっ……」
「どう? 届いてる?……どんなに理性が拒否したってねぇ、一度リミットが外れちゃったら止めようがないんですよね、しょうがないですよ〜。人間誰しもがそうでありますよ、どれだけ! 高名な! 何かの賞を取るような立派な偉人でさえも!!――そう、この快楽には逆らえないんですから! だからそれを否定する必要はないんですよヒロシ君?」
「あっ……んっ、く、ぁあ!」

 ヒロシの背中が弓なりに反って、いよいよ切なげにその眉根が潜められるのを見てマツシマも、だめだ、と何か理性が決壊していくのを覚えた――拒否できない、感情。そうだ。やっている事は知らんが、こいつの言っている事は正しい。穴にちんぽ突っ込んで、あまつさえこんな顔されて、それでもまだ正常を保っていられる奴なんかいるわけないだろ、とマツシマは心の中で唾を吐いた。

「九十九、ごめん」
「っ、な、なにがっ……ひあっ」
「俺、動くわ……すっげー気持ちいい」
「なっ……、ぁあ!?」
「あらあらあらあらっ、いよいよ我慢も限界にきました、ね! いいんですよいいんですよ、そのままもっと激しく突いてごらんなさい!……ぁ、ああっ、伝わる〜肌越しに他人様のチンコのひりひりした感触がぁ〜」
「だ、駄目っ、だめだ、やめっ……深、深い、届いてっ……あッ!」

 まさに目の前に餌を置かれて、お預け状態にされた犬。そんな犬が「待て」を解放された時のがっつき方と言うべきなのか、マツシマはヒロシの腰を掴むとガンガンと突き上げるようにして遠慮なくその中を堪能するのだった。
 
「ふふ、イキそう? いっちゃいそうなのかな、どっちも? 僕もここで中出しされる瞬間を感じているから! いいよ、どんどん出して。――ほら、来るよ、ちゃーんと受け入れてあげるんですよ彼のザーメンを! 次は中で!!」
「ひっ……」

 肛門よりも中の内臓に、熱い何かが込み上げてくる。あ、とヒロシが身構えた瞬間には何かが弾けたよう、せり上がってきたものがあった。

「っ……」
「初めて中出しされてキモチよすぎてヒロシ君もいっちゃったんだね?……お、め、で、とう。――絶頂に達した顔も可愛らしい、よく見せてごらん……アハハ。お腹膨らんでますよ……」
「くっ……」
「ほらぁ、お互いイったばかりのちんちんにしゃぶりついて残り汁も全部! 全部吸ってあげなさい、アハハ、おかしい! これはおかしい、久々のツボだ!」

 ケタケタと笑うルーシーの笑い声からは、とてもじゃないが正常な人間のようなものは感じられなかった。丸々狂人の笑い方と喋り方で、しかしまあそれを実感している余裕も双方ないわけで。

「あ、ヒロシ君ッたらはしたない。君のクソ童貞せーえきのせいでマツシマ君の制服が汚れちゃってますよ。ほーら、べっとり」
「おい、なあ、も、もう済んだだろ……これでお終いでいいだろ?」
「え〜……」

 ルーシーに背を預けたまま、だらしなく口を開いて射精後の余韻に浸るヒロシだったが、マツシマの言葉にルーシーが立ち上がった。するとバランスを崩しがっくりと頽れてしまったらしい。

「最近の若い子のセックスの良くない点ですね、イくだけイったらもうお終い。馬鹿ですねえ、大事なのはアフターフォローですよ! 特に初めての子は経験後の喪失感で茫然としちゃってるんですから、ほーら!」
「な、何しろって言うんだよこれ以上……っ」
「君の出したザーメン、今すぐヒロシ君の中から吸い出して飲んでさしあげなさいよ? 男なんですからそのくらいリードしてあげなさい?」
「っ……」

 ぐったりしていたヒロシもそれで意識を取り戻したよう肘を突いて上半身を持ち上げた。

「そ、そんな事、別に……」
「――、」

 マツシマもここまで来てしまった以上は腹をくくるといった心持でいるのだろう、唇を引き結んでじっとヒロシを見つめた。

「い……今、全部飲んでやるからな……」
「ッ……あっ……」

 二発目にしては若干濃い目の精液が、どろりとヒロシの穴から零れ落ちた。マツシマが屈みこんでそれを舌先で舐め取ると、ヒロシの身体が微かに震えた。

「それでまたヒロシ君が勃っちゃったら知りませんよ僕は、とことんまで付き合ってさしあげなさい。それが愛というものですよ」
「九十九……、う、動くなよ。まだ奥に……たくさん残ってる……し……」
「あ、う……ッううっ……」

 もはや何も考えられはしない――恥辱だとか屈辱だとかを感じる余裕もない。意識が浮かび上がっては埋没していくようだ……ああ、早く終わらせてくれ。このふしだらで限りの無い下卑た快楽を。




「っていう夢をまた見たんだけど、よりにもよって恋敵のマツシマ君が出てくるとは思わなかったわ……夢々ってやっぱ変態なのかしらね」
「お前のその頭おかしい服装見てりゃ分かるよ」

 煙草を吹かしながらマツシマがにべもなく答えると、それから夢々は開き直ったようにマツシマを不躾に指差した。言った。

「あ、そうだわ! 今からでもあの眼鏡男子にシフトしなさいそれがいいわ! 夢の中でもお似合いだったわよ!」
「死んでも嫌だ。つーかその状況になったら俺舌噛んで自害する」
「……さっきから何なんですか、貴方達。僕の方指差して何か失礼な事言ってるんでしょうか?」
「何でもねぇよ、只この女が俺とお前がセックスしてる夢を見たとか言うから」
「はっ!?」
「キャッ! ちょっとぉマツシマ君ったらそんな事平然として言わないでよ馬鹿ぁ!」

 盛り上がる三人をよそに、密かにその会話を聞いていたルーシー(地獄耳)は「なるほど、そういうストレス解消もありか」と内心ほくそ笑むのだった。あな恐ろしい。


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