なんて馬鹿な両想い



「夏は書き入れ時よ、柴犬君たち。夜になると無駄に外をうろうろしているオッサンが多いでしょう、何でだかわかる? エリー、答えて」
「えっ……」

 こういう時は必ず自分が指名されるので、いい加減答えを用意しておかなきゃと思うエリーではあるが変化球をつけてくるので一筋縄ではいかぬ。それがこのスカーレットというバ……お姉さんである。

「暑いからっすかね。夜は外って涼しいんで」
「相変わらず何の捻りもない回答だ事、典型的な今時の若者ね。まあ正解なのだけれど、もう一つあるわ。……それは何か刺激を求めているからよ」
「……刺激……まあ超解放的にはなりますよね」
「その通り。夏は出会いの季節って言うじゃない、貴方もヤンチャしてそうだから分かるでしょう? 気持ちが盛り上がって火遊びしたくなるこの気持ち……」

 基本、彼らはこの街から出られないので遊ぶも何もあったもんじゃないのだが、とエリーは言いたい気持ちを抑え込み(ああ、俺も大人になったなあここへ来て……)適当にうんうんと相槌を打つ事にした。

「いい事!? 夏は性欲全開の季節よ、世の中の男女全てが出会いを求めているわ! 男も女も一緒! うろついている人間全てに声をかける勢いで全員に声をかけまくりない!」
「あのーぅ、俺達もキャッチみたいな仕事しなきゃいけないんですかぁ〜? いちおー高級娼館がそんなふつーの風俗店みたいな真似して格が下がりませ……」
「このチャンスをものにできなくてどうするの、利用できるものは全部利用し尽くしなさいっ、ポッと出のちっちゃい他店如きに出し抜かれてたまるもんですかッ、経営は営業力が資本よ! 西川きよしだって言ってるでしょう、小さな事からコツコツとしなきゃいけないの!」
「スカーレット様って、なんかそういうところとかまじ昭和っすよね」

 小声で呟いたつもりだったが思いっきり拾われていたらしく頬をぶたれました。……で、と、エリーが視線を動かした先にいるのはキャンギャル仕様に衣装チェンジした我らが護衛隊長のアンネである。
 彼は仕事には熱心なので仕事だ、と言えば大体何でも引き受ける。夏なので夏らしくミニ丈の浴衣に身を包み肩を露出したその姿は金髪あいまってかギャルっぽくも見える。頭には狐面の代わりにピンクの花飾りが彩られてる。完全に飲み屋の姉ちゃんである。片手にはポケットティッシュのいっぱい入った籠を下げて、アンネは道行く人に笑顔を振りまいている。

 絶対にドンキで買った安物のコスプレ衣装だ、これ。

「お前、完全にそれスカーレット様に遊ばれてるんじゃないの」
「え? 何がだい?」

 不思議そうにアンネは聞き返してくるのだが、何とも思っていないのだろうか今の自分の状態に……。すると、履き慣れていない靴にずるっとずっこけたアンネをサッとさりげなく片手で支えたのは日頃浮いた話のない男、スミルノフである。

「大丈夫ですか、アンネ」
「! あ、ありがと……ごめんね、何か踵が高くてこの靴……」

 眼鏡を神経質そうにクイクイっと持ち上げて、スミルノフはそつなく「いえ」とだけ呟いてさっさと離れてしまった。世が世なら外回り中の営業マンのような出で立ちの彼ではあるが、そんな真面目そうな彼もスパークする瞬間はあるのだろうか。というかむしろ、過去はオラオラしてきましたなんて話かもしれない……どうだろう。人は見かけによらない、特にここにいる連中ならば尚更のこと……。

「しっかし今の触り方どことなくいやらしいものがあったような……なあリリーちゃん、あいつら絶対なんかあるよな? 仲間内の恋愛は禁止だってのによ、こうなったら俺達も何か既成事実作らない?」
「うるせーキモい、殺すぞ」

 さりげなくリリーに絡んだものの当然の事ながら秒で却下される哀れなエリーであった……。

「やっと半分なくなったね、やっぱりみんな中々受けとってくれないんだなあ。配ってる人達の大変さが分かったよ」
「そうですね」

 生来の癖なのだろう、このスミルノフという男は気付くと敬語になっている事が多い。アンネとしては普通に話して貰いたいのが本音なので敬語じゃなくていいよ、なんてたしなめつつ自分も思いっきりため口で話しかけちゃったりする。それがちょっぴり寂しいのが本音だったりもするのだけど、と一息ついた時である。

「その、大変ですね、その服装」
「え?」

 思いがけず彼から言葉が続いたのでやや驚いたのが本音である。

「だってアンネだけじゃないですか、俺達はそのままですし」
「ああ! うん、まあ仕事だからね。僕がみんなをまとめているんだしこのくらいは平気……」

 言った傍から露出させていた肩部の布がズルッと落ちてエロ漫画のハプニングみたいになってしまった。こ、これが俗にいうラッキースケベ現象ってやつか。アンネは慌ててしゃがみこみ、脱ぎかけた服を手繰り寄せている。

「わっ、やだなあもう。人前じゃなくて良かった……っ」

 無言でそれを直してあげるのを手伝っているスミルノフの姿は、恐らくアンネにとっては『頼れる先輩』のように映っていたのだろうが――いけない事につい先日の情交を思い出し、頭がいっぱいになってしまったのである。あの時は暗くてよく見えなかったのもあり、ちょっと興奮してしまったので、うんぬんかんぬん……。

「す、スミルノフ?」
「はっ……」

 普通ハッ、とか口に出すもんじゃないのだがそうするくらいには気持ちが上がっていたらしい。

「ののの、の、残りももう少しですからっ!! 一気に終わらせてしま、」
「ね。ねえ……これで仕事、戻るの?」

 見るとアンネの視線はスミルノフの股間に注がれている。そう、外から見ても分かるくらいギンギンにおっ勃っている。何と恥ずかしい、かっこつけていた結果がコレだとは。

「こ、これは、その、違いますよ、別にへへへへ変な事をアンネさんのギャル浴衣に何かあれこれ妄想していたわけではなくてですね」
「(アンネさん……)ねえ、これ見せて」
「は!?」
「だ、だからその……見せて、くれない……?」
「何を?」

 素に戻って聞き返すと、アンネはちょっと頬を染めつつ逸らしがちに告げた。

「だから!……そ、の、お、おちんちん……、僕に見せて」

 一体何を言い出すのか、とスミルノフはポカーンと呆気に取られていたが、すぐさま眼鏡を掛け直し取り繕った。キリッとしても下半身がコレなので説得力がないのは悲しいが。

「何故そのような真似を」
「時間がないんだよ、スカーレット様に怒られていいの!?」

 見せてどうにかなるのか、と不思議にもなったがアンネに押し切られるように、あとは下心半分でズボンに手をやった。

「……わ、わあ、すごい、あ、明るいところで見るとすっごいんだね」

 完全にメスの顔をさせながら、というか自分にもあるだろうと突っ込みたくもなるが、二つの意味で……。って、外でチンポを晒しながら何を真顔で考えているのだろうか。上目遣い気味に見上げてくるアンネに、どうしたものかと目を泳がせていると。

「く、口でしても……いい……? て、手よりも口の方が、その、いいんでしょ……僕はよく知らないけど……」
「えっ」

 どぎまぎとしながら答えると、アンネがおずおずと手を添えてきた。初めてなんてハッキリ言ってよく分からないまま終わっていくもので、ましてや室内が暗かったのでほとんど明確じゃないというのが本音だっただけに今の方がちょっと緊張する。かも、しれない。

「あっ、い・嫌なら……いいんだけど、そのっ、もし、よかったら……」
「えっ、ん、ええ、いやっ!? あ、ああっ、嫌ではないです……その全然嫌じゃなくむしろ嬉し……じゃなくてっ!……さすがにそれは……悪いです、そんな真似まで、させられませんっ」
「だけど……その方が気持ちいいのかなって……」

 服装も相まって完全に性別おんなのこにしか見えないアンネがそう言うのはやはり破壊力が凄まじいものがある。

「それは――ま、まあ、そうかもしれませんけど……そんなのお願いできませんって」
「嫌では、ないんだよね?」
「……そりゃ、まぁ……」

 お好きです、とは声高らかに言えませんけれどもそりゃアンタ。

「じゃあ、だったら、その、させてくれる……? 強制じゃなくて僕がしたいからするんだよ」
「……」

 どうしよう、と沈黙しているとアンネは返事を待たずに舌を這わせた。根元から先端に向かって恐る恐るといった具合に舌先でお迎えしてきたのであった。はわわ、マジですか、と柄にもないような台詞を吐くところであったがともかく。

「んっ……んむ――っ、」

 アンネは両手を添えて、口いっぱいに咥えると舌と指を一生懸命使いながら拙い奉仕を施している。時々、上目遣いで、こちらのの表情を確認しているのがいじらしい。

(――どうしよう、こんな事するの初めてだから分かんないけどでもなんかすごくどきどきするし……)
(指先舐めるのと一緒なのかな、おちんちん自体ってあんま味はしないんだ)
(我慢汁出てきたらちょっとしょっぱい気がする、好きだから頑張るけど――でもなんだろ、ちょっとえっちな気分になってきた、かも)

「う、あ、アンネ……その、無理しなくていいんですよ……」

 そう言いつつここでやめて、とはちょっと言えないのが悲しい。けど、無理はさせたくないし強引にさせるのは抵抗があるものだ。





アンネちゃん女装しすぎっ!!
マツシマに並んで女装率が高いメス男子だ。
えーとこれはいつだろ、あまり公式に沿った話だと考えない方がいいかな。
というか男性向けってこんな感じでいいのかしら!
最近男性向けの依頼を受けて楽しかったノリでやってしまった。
これ書いてる時にふぃぎゅあっとってエロゲ―のテーマをずっと
聞いてたんですが、サビが「ガチャガチャギューッとふぃぎゅあっと」って
凄い耳に残るんですけど、YouTubeのコメントのところに
ガチャガチャギューッと井手らっきょって書かれてて死んだ。
もうそうにしか聞こえなくなったじゃんかw
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