アンパンマンが顔を水で濡らされてパワーが出なくなる現象と一緒だ。
「……そ、そんなおとーちゃんと同じ台詞で俺の心を抉らなくてもいいじゃない……」
「は?」
「お、俺だってさぁ! ちゃんと勉強に集中できるような奴だったらそりゃ真面目に来てたかもしれないけど! でもダメなものはダメなんだもん! やれやれ言われたら一気に逆らいたくなるってーかもう何でこんな事強制されてんの!? って考え出して無理なんだよ!」
「……はぁ?」
「畜生! もういいよ、俺みたいな邪魔者いなくなっちまえってみんな思ってるんだ! だったら辞めてや……」
「わ、分かった。何か知らんがちょっと落ち着け」
出て行きかけた創介の腕を掴んで戻し、サージェントが扉を閉めてもう一度創介を座らせるのであった。念の為かサージェントは扉の鍵を閉めてからこちらに戻って来た。
「あのな。……うん、何かまあ、言いたい事は分かる。分かるがな。……俺も頭冷やすか、悪いな。お前をいじめる為にここへ呼びつけたつもりじゃあないんだよ」
ややため息混じりのサージェントは創介をなだめるような調子になって続けた。
「……ふー……、ちょっと煙草吸うわ」
「え!? いいんですか!?」
「ダメに決まってるだろ、極秘だ。お前も吸うのか?」
「ご、極秘ってアンタ教師の癖して……。いや、俺は吸わないしこれから吸うつもりもないですよ」
「そうか、中々いい心がけだな」
「だって……金出してまで健康損なってしまうんですよ。何がいいんですか、それの」
「お前そういう物の見方はいい線いってるのにな、何で真面目に勉強しないんだか。勿体無い」
「????」
眉間に皺を寄せていると、サージェントは冗談とばかり思っていたが本当に煙草に火を灯して吸い、ふーっと紫煙を吐き出した。
「――話してて思うんだ、お前多分頭は悪くないぞ」
「えっ、学校辞めろとまで今さっき言われた俺がですか……きゅ、急にその変化球は一体何ですかね。今までストレート投球だったのにいきなり豪速球、内外角投げ分けてきたかのような……」
「野球好きなんか?……まぁいいか。いや、ハッキリ言って社会というかどこに出ても通用するだろうな、覚えが早いっていうのか頭の回転がいいのか……それは多分お前が持って生まれた才能なんだと思うぞ。だからこそ俺としてはもう少しこの学校っていう場所で、真剣に学んで欲しいんだよなぁ」
「……」
あれ。あれれ。次は俺が手の平で転がされる番ですか――創介は計算でやったが、多分この先生は違うんだろう。だからこその破壊力、天然物にはやはり適わない。
スマートにそんな事、さらりと言われて嬉しくないわけがないじゃないか。
「? どうした、そんな泣きそうな顔……」
「先生っっっ!」
がばっと教え子に突然抱きつかれて、困惑しないわけがない。
「急に何だどうした……って、そして何故腰をすりつけてくる! 犬かお前は!」
「先生ぃいいい! 俺、真面目に通いたいですっ! 先生の元でお勉強したいです!!」
「……本当か? お前。そんな奴に限って最初は……」
「う、嘘じゃないですこの気持ち! 何かそういう事言われたの初めてで嬉しくて……ていうか父親もそんな事言ってくれた事なかったですしマジで」
「分かったから泣き止め、ほら」
ガキかお前は、と呆れたように笑われれば年上男性にころっと落ちる女の子の心情というのが即座に理解できた。
成る程、今まで「ごめん、私年上が好きなの!」と創介の告白を断ってきた女の子達の気持ちってのはコレだ。こういう包容力に、きっとするんと落とされてしまうんだな。
創介は年上のお姉さんが大好きなんだね
だから年上のお兄さんも好きなんだね
という無理やりなこじつけ。
創介にあえて女性で恋人を組ませるとしたら
10歳近く上の人がいいと思うんだけどね。
20代後半くらいのしっかりした。
そうじゃないと創介はすぐどっか
ふらふら〜って行くからなぁ。
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