両手を口の前で組んだいわゆるゲンドウポーズで、サージェントの目が一瞬だけギラっと鋭い光をかすめたような気がした。

「は、はっきりと言いますと」

 恐ろしい。恐ろしい展開だぞこれは。サージェントはため息を一つついてからその手を解き、今度は腕を組みつつこちらを見据えた。

「白黒はっきりさせた方がいんじゃないかって話だよ、来たり来なかったり中途半端な……高校生ってお前さ、いい歳だぞ? 学生である以上は学校に通うのが義務。嫌ならさっさとやめちまってどっか勤める。これから真面目に来るのかすっぱりやめんのか決めたらどうだ?」

――な、何か怖い事言い出したこのオッサン!?

 少しでも罪を軽くしてもらうつもりが、全然通用しなかったらしい。あ、やっぱ社会人って凄いわ。正直、この人を舐めてたと創介は思い知らされたのであった。

「……だってぇえええ……」

 作戦変更。
 こうなったらとことん甘ったれた自分を放出するしかない。この教師、絶対昔は相当ヤンチャしてた筈だろうと創介は踏んだ。
 だから自分のようなおちこぼれを見ると「俺にもそんな頃、あったけどなぁ」と同情してくれるような流れに持ち込めるに違いない。

「勉強……嫌いなんだもん……そんな関数とか方程式とかややこしい知識で俺の脳味噌を占拠したくないし、っていうか授業つまんないしぃい……」
「なら辞めたらどうだ」
「……えぇ!? そんなあっさりと! 引き止めるとか何か……」
「決めるのはお前だろ。まああえて言うとな、俺がお前の立場だとしたら……そうだな。もう辞める、そんな嫌いなものに金と時間費やしてるより次行くけどな。まあ、俺はその次の段階を考えた上で決断するとは思うが」
「つ、冷たい! 先生、俺の担任の癖して冷たいよ!……お、俺がクラスからいなくなったらさぁ、何か困る事とかあるでしょ絶対!?」
「無い」
「えーーー!? ある、あるよ。あるってば! クラスの女の子達のテンションが低くなっちゃうとかクラスの雰囲気が何かしんみりと暗くなっちゃうとか! 何かあるって弊害がさぁ!?」
「元々そこまで出席しない癖して何が弊害だ、いてもいなくてもそう変わらん」

 流石にこれにはショックだったのか、創介は絶句したようにゆるゆるとその場に脱力していくみたいだった。

「……、ひ、ひどい。ひどいよ先生……」
「ひどいもんか、お前の周りは嫌でも面倒でもちゃんと通ってるんだ、来ないお前が悪い」
「だってぇ、別に将来の役に立ちそうでもないのに化学式なんて頭に入れた所で一体何が起こるのさ俺の身に。大体さー、先生も分かるでしょ? 勉強が全てじゃないって、世の中生き残るのは成績じゃなくて頭がいい奴なんであって……」
「いい加減にしろ!」

 とうとう、サージェントはキレた。

「高校は義務教育だぞ、まだ勉学に励みたいからここへ通うのかそれとも社会に出るのか選ぶのは自由だ。勉強するのが嫌ならとっとと辞めて働くなりして自分を養えこの半人前がっ! いいか、世の中に文句ブチブチ垂れていいのはちゃんと自分の手で生きて行く為の金を稼いでる人間だけなんだよ。のぼせあがるな馬鹿者!」
「うっ……」

――お、俺のオヤジと同じような発言しやがって……

 いやはやこういう事を言われると、全くグゥの音も言えなくなってしまうのだ。

「で、でもぉ。もっとテストの点とかで縛られるような世界じゃなく、こうね、個人を尊重した優しい世界であってほしいというか……」
「お前の願望なんか関係ない、大人はみんな黙って出された仕事こなしてんだよ! この国はそういう風に出来てるんだからそれが嫌ならデモだろうが革命だろうが政府に何でも起こせ」
「……う……う……」
「……」

 何でこう、グサグサとくる言い回しをしてくるんだこのオッサンは……創介の脆弱性を攻撃してきた為かいつもの調子が出せない。






でも創介ってね、
昔から大人と接してきてるし
目上の人への失礼さはないと思うよ
ここはイジっていい部分、
でもここはイジっちゃ駄目な部分、って
線引きが彼の中でなされていると思うんだよね
だから決して頭は悪くない。勉強が嫌いなだけで。
営業させればどんどん上にいけちゃうタイプ、
経済新聞とか隅々まで読みそうだし。



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