そして、すぐさまに先程の刺客は追いついてくる。
何より既にここはハイヌウェレの術中なのだ、彼女の作り出した結界の中を逃げたところで先は無い――深い絶望に足をからめとられたような気がした。
兵士はやがてその片手にあったライフルを構えるとしっかりとこちらに向けてポイントしている。歩きながら、徐々にその距離を詰めて。兵士の背後にはハイヌウェレが相変わらず幻影でも纏わせたかのようにぼんやりと佇んでいる――、
「この子の目には今、貴女達二人が『自分にとってのトラウマ』に見えているの。それがどんな風な形であるのかは――ええ。全て私の目にも見えているわ。そしてそれを消せば、自分は救われると信じてやまないの。……この子の魂は劣等感と嫉妬と恨みでいっぱい……だからこそ人間である選択肢を捨てたのだけど」
つまり――志穂は武器を突きつけられながら思考する、彼には今自分達が別の誰かとして映っているという事か。リリと同じく精神攻撃型の相手なようであるが、しかしまだ謎が多い。かろうじてここから生還したとして今後、どう立ち回るべきなのか、いや、今はそんな事より……そんな事より……、
「可愛い我が子、そいつらは貴方にとっての試練よ。打ち砕いて飛び越えなさい、目の前にある脅威を。そうすれば貴方は今よりももっと強くなれる筈よ。……さぁ、自分は弱くないんだと証明しなさい」
「金子さん、テレパスで彼の心を取り戻す事は不可能なの!?」
「だから!!――ハイヌウェレに乗っ取られたらもう無理なの、全部無理なの! あいつの技は単純な催眠や精神攻撃じゃない――あれは完璧な“精神操作”よ。相手の弱みに浸食して、その人間をすっかり作り変えてしまうの。……自分の操り人形に!」
「一度かかったらもう解けない、の?」
「分からないけどほぼ無理だと思うわ」
こうしている間にも一歩、二歩、三歩――と、脅威は忍び寄ってくる。どうすればいい。どうしたら……銃口に視線を奪われた。真っ暗な銃口からは無機質な、しかし残酷なまでの死のにおいを感じた。息するのも忘れて、それに目を奪われる。銃口から真っ白な炎が飛び出したのが分かった。熱戦が――途方もない速度で轟音と共に砕け散った。
「っ……」
志穂はそれで、気付いた。悪夢からはっと覚めたあの時のような心地だ。
自分の立っている場所がさっきまでいた場所よりも随分と離れていた事を知り、なぜ、と思った。隣にリリの姿はなく、志穂は一瞬何が起きたのか分からずに立ち止まったが、すぐに脳裏に声が響いてきたので分かった。そして……理解した。
『早く行って。そのまま真っ直ぐ歩けば、例の避難所に辿り着くから』
「……、あ……あ……」
思わずあらゆる感情がこみ上げて、反射的に口元を覆う。
振り返っても既に、リリの姿はない。――何という事だろう。あの瞬間にも、リリは自分の中へと入り込んでいた。敵ではなく、私の心を操り、私の意思とは別に足を動かして、何とかここまで逃げさせたのだ。
『リリは一回殴り込みに行ったせいでややこしくなるから。アンタが行った方がいいと思うわ』
「金子さ……、なん、で……どうして……」
止まるわけにはいかずに、志穂はその足を動かし続けていたものの、リリと距離が開いていくうちに次第に彼女の声も遠ざかっていく。目的の場所に近づけば近づくほど、リリの精神が、魂が、どんどん弱弱しく消え入っていく。
「っ……、絶対に……絶対、に」
松野に続いてリリまでもを失った。二人分の血だまりによって、私は今ここに生かされている――私は――。
振り向いてなんか、やるものか。立ち止まったりなんかしない。絶対に。志穂は奥歯を噛みしめて振り切るようにして走り出したのだった。
リリは、腹を撃たれて既に虫の息であったようだ。
かろうじてこの息が続いている間に、伝えたい事は全て言い切った。だからもう……、とリリはその両目を閉じかけていた。既に痛みの感覚はなく、只、言いようのない寒気が自分を支配していた。ハイヌウェレは――壊れた人形のように寝かされたままのリリへ、興味なく一瞥をくれただけで自らトドメを刺したりはしなかった。もう死ぬと分かっていて、あえてそうしたのだろう。
起き上がろうとしたができない事を知った。それが全てだった。
(悔しいなあ……)
撃たれた箇所から凍てつくような寒さが広がってゆく。自身の血で出来た水たまりの中で蹲りながら、リリは無闇にそう感じた。だけど同時に言いようのない満足感も存在していた。矛盾した感情が二つ、自分の中にあって、強烈な違和感を覚えたものの、しかしリリは運命には逆らえぬようにそこで瞳を閉じてしまった。
自分の身体から、力が消え去る。
魂と器が分離する。
あらゆる感覚が奪われていく中で、リリの視界がとうとう暗闇に捉えられた。
リリちゃん……。
いい子になりかけてたのにな。
新人類は精神攻撃型多いな。
その中でもトップが多分このハイヌウェレ様なんだろう。
ナイトメア勢みんなして心に闇持ってるから
その対策としてこういう奴が多いのか、それとも
3Bのみんな自体がそういう業の深い性癖持ってたのか。
パワータイプってはじめのトヨピーくらい?
しかし精神吹き飛ばすって聖闘士星矢のシャカみたいやな。
聖闘士星矢読みたいなぁ、にわかなんだよー。
うちの母ちゃんがキグナス氷河様好きやった。
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