目に見えた挑発であったがゆえか、サージェントはそれに何か取り立てて言うでもなく黙って拳銃をポイントしたままであった。
勿論かれんはその拳銃に頓着する事等はまるでなく、怯えているような気配は微塵にも感じさせなかった。
「うふふ……っ、そうねえ、私から言える言葉――といったら。アンタ達に勝ち目はない、やがて人類は没落する。自らの手で死を選ぶ事になる、という事……」
そしてまたかれんは高らかに笑い声を上げて見せた。鼓膜にこびり付く様な不愉快な笑い声を上げながらかれんはもはやそれが義務付けられた事のように、足をばたつかせつつ笑った。
「――……」
サージェントの眉間に刻まれた皺が一層濃くなり、その手の中にある拳銃が炎を吹きかけた寸前であった。
「あっ……」
「オジサマッ!」
湊と夢々の声が見事にハモったかと思うと、サージェントのすぐ背後にあの吸血植物が恐ろしいほどの成長力で花を咲かせていた。
エルが慌てて刀を構え、サージェントが拳銃を手にしたまま振り返るが――かれんの狙いはサージェントではなかった。
「お前らなんかイルゼ様達に殺されてしまうがいいわっ! さっさと死んで豚の餌にでもおなりなさいなッ、下賎の衆なんざそんな末路がお似合いよ、おほほほっ!」
吸血植物が、その棘のある触手を伸ばしたかと思うとかれんの首元めがけて叩き落とすようにしながら踊った。けたたましい笑い声を残しながら、かれんの首が千切れ、血液が弧を描くように舞い上がりながら……そして、その場にボールのように転がった。
自分の能力を使い、自害したのだ。
「なっ……」
同時に、最後の力で放ったのであろうその植物も急速に枯れ果てていた。
「――まさか自分の力を使って自殺するとはね」
エルが静かに言い、刀を鞘へと戻すのだった。それから笑顔を残したまま息絶えたその首を見下ろした。
「そんなっ……あのナメクジは潰したってのになんで!?」
絶望的な湊の問いかけに、サージェントが苦々しい顔のまま起き上がりながら答えた。
「こういう時に備えて、自害できるようまた別の措置もされてたって事だろうな。……ちっ、クソったれが」
舌打ちと共に、サージェントはその前髪をぐしゃっと掻き上げる。避難所内は先の出来事から、既に焼け焦げた髪の毛やら火薬の匂いやらで充満していたが、更なる血の匂いで満たされつつあった。
映画によくいる、奥さんと子どもを殺されて
感情もなくして復讐だけで延命されてるような
業を背負ってる系男子って始まりは何なんだろう。
マッドマックスしか思い浮かばない。
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