16-1.死に方を選べ



 しっかりと紐で固定されたかれんの前に立ち塞がるのは――強面も強面なサージェントと、愛想の欠片さえもないエルだった。

 少し離れて、湊と夢々がそれを見守る。

「そういえば山田さん、さっき思いっきり脚痛めつけられたのに平然と歩いてるね……」
「うん、それがさぁ不思議なのよ。何か、逆に養分を吸い取り返しちゃったのかな。ほら、もう血が止まってるの」

 言いながら夢々が応急処置の施されたその傷跡を見せるが、確かに血は止まっているし傷跡もそう大した具合ではないように見えた。塞がりきってないにせよ、先程目の当たりにした時より随分と小さくなっているように見えた。

「ぎゃっ、逆に養分を吸い取り返したって……!」
「体力回復した感じなのよね、どういうわけなのか」
「むしろそれ大丈夫なの? おかしなものまで注入されてるんじゃあ……」
「ま、何か起きたらその時で。容赦なくブチ殺してもらって構わないよ、夢々の事」

 実にあっけらかんとして夢々が言うものだから、湊も何と返していいやら言葉に詰まる。困り果てていると、サージェントの低い声が耳朶へと届いてきた。

「それで。お前は何が目的でここへ来た?」

 サージェントが腰を降ろしながら、惨めったらしくすんすんと鼻を鳴らしているかれんへと問いかけた。かれんのその顔はさっきまでは見受けられたような妖気が今やどこにも見当たらず、只のひ弱な女の子でしかない。

 ぶるぶると震えながら泣きじゃくる彼女を前にしても、サージェントは気を許している気配はない。

「さっきお前らの仲間みたいな連中にも会った。一人はどうもお前のクラスメイトみたいだったが……」
「え? さ、サージさんそれって」
「話は後だ、湊。……で、ここを襲ったのには何か理由があるんだろう? 吐いてもらうまで大人しく家に帰すわけには……」
「助けてッ!」

 そんな彼女から突然のように発された叫び声に、サージェントが片方の眉根をひくりと上げた。

「た、助けて……お願いよぅ、助けて――このままじゃ、わわ・私、殺されるわ」
「……」

 かれんはただ、震えながらサージェントを見つめた。その双眸に透明な涙の粒が浮かんでくるのを見つめながら、サージェントは何を思うのか表情一つとして変えずに只じっとかれんを見つめ返すのだった。

「だ、だって……仕方なかったのよ。死にたくないもの、私は只生き残りたくてその選択をしただけ……」
「もういい」

 まだ何か言いたげな彼女を、見ているこちらが驚くくらいに冷たい声で遮ってからサージェントは言った。

「時間稼ぎの為のクサい芝居だったら、沢山だ。――今のはお前の本心か? 負けた時の保険として、あらかじめ吹き込まれていた言葉なんじゃないのか?」

 サージェントが手にしていた拳銃の安全装置をかちゃんと外す音がした。

「なっ……」

 かれんと同時に驚いた見せたのは湊だった。

「さっ、サージさん! いくらなんでもそりゃあ……」

 慌てて介入し、非難めいた口調で反論を寄越す湊だったが、サージェントの殺気めいたそれに気圧されてしまったようにそれ以上何も言えなくなってしまった。視線一つでこちらを震え上がらすなど、全くどうかしているとしか言いようがないが、まあともかく……。

「……そうじゃないならさっさと吐きな、これ以上ガタガタ抜かさないでくれ。七面倒な事は嫌いなんだ」

 言いながらサージェントが手にしていた拳銃をちゃっと持ち上げた。かれんの顔が青ざめていたが、その数秒もかからぬうちだった。

「ふ、うふふ……」

 泣き笑いのような、その引き攣った表情のままかれんは低く笑い声を漏らしていた。初めは小さな声だったソレも、次第に高笑いへと変化を遂げていった。

「あ・は……、あはは! あはははっ、は……何? 鋭いじゃないのぉ、貴方。そうよ、よく分かってるじゃない。こっちには大方話すつもりなんか初めからないのよね〜あんたらには悪いけどォオ」

 ひどくおかしそうに言ってみせてから、かれんはオマケのように更に笑って見せた。




ゲイのカップルものって切ない話多いな。
ニューヨークニューヨーク(漫画)とか。
同性愛取り扱った映画って面白くするの難しいよね。
面白くするっていったらおかしいけど、何というか。
話として筋を通すのが難しいというか。


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