13-3.痛みが僕を連れてくる



 当たり前の、日常的なやり取りというかそういうコミュニケーションのようなものが苦手なんだろうなと思う。話が上手くない人はごまんといるものだと思うが、崇真もきっとそうなんだろう。そう割り切ってしまえばその沈黙も別に苦痛ではなかった。

「なあ」

 それで、自然とマツシマの方から声をかけていた。

「引いたら正直に引いたって言えよ」
「何が?」
「……俺、先生の事が好きだったみたい」

 どういうわけなのか崇真相手になら、その胸の内を話そうと思えた。サージェントにすら打ち明けたくないこの胸の思いだったが、崇真になら何となく言える気がした。というか、言ったところで否定されそうにもないし余計な肯定もしなさそうだから、一番自分が安堵するのに適していた。

 要するに、自分がスッキリしたいので利用した。

「先生って、さっき助けた俺の師匠な。ちっちゃい頃から世話んなってたんだけどさ、本当に色々世話してくれて。……多分俺の親より俺の事知ってると思うぞ、うん。でさー、なんつーのかな。本当みんなに優しくする先生でさ。俺も舞い上がっちゃったんだよね、何か気付いたら先生の事ばかり考えてるようになった……」

 けど、話しながら目頭が熱くなっていくのが分かった。

 このまま話したら間違いなく泣く、でもそれでは格好がつかないので必死に涙を追いやった。俯きながらだったので、その時の崇真の顔は分からないが多分いつものようにまたむっつりとしてるんだと思うと、何となく笑えそうな気もした。

「年上の余裕ってーのかなー、いつでも俺が欲しい言葉をくれて、俺がやりたい事をすぐに分かってくれるっての? 空手やってて辛い事もあったし、というか泣かされてばっかだったけど、先生の事考えたら全て乗り切れたんだ」
「……」

 そこでようやく顔を上げた。

「でも、先生には奥さんがいて子どもがいて――」

 そして、アイツだ。ヒロシの存在がちらついた。けどそれはあえて言わず、マツシマは続けた。

「俺がもし女だったり……また別の誰かだったら奪えるのかな、とか入り込む余地はあったんじゃないかなとか考えたりするんだ。――あはは、さっき家族で楽しくやってるのを見てもまだそんな事考えてんの。どう? 引いた? 引いただろ〜流石に」
「――いや……」

 崇真に気の利いた言葉なんぞ期待していなかった、マツシマは自虐的に笑い捨てると更に言った。

「嘘つくなよ。じゃあさ、お前、あれなの。偏見とかないとか表向きは言う奴? じゃあさ、いきなり俺から好きって言われても驚かないの? ほんとに?」
「そんな事はないけど、別にそれで引くとかの問題じゃないだろ……」

 崇真が静かに言ってのけた。表情がほとんど変化しないので、何とも言いがたかったがマツシマは何だかやる気が削がれてしまったように肩を降ろした。

 初めて接した時から感じていた印象そのままだ。彼と話すと、自分がいかに幼いのかを思い知らされてしまうのだ。マツシマはふうっとため息を吐き出して、小さく笑って見せた。

「……笑えよ、でなきゃ俺が惨めなんだよ――本気で好きだったんだ……本気で……」

 後半部は涙のせいなのか声が震えていて聞き取りづらかった。

 マツシマは膝を抱きかかえながら、めそめそと泣き出してしまった。らしくもない涙に、崇真は意外そうに肩を竦めたが、それからも何も言わず彼が泣き止むのを見守っているのだった。




マツシマ振られちゃった…。
振られるも何も彼はまだなんだ、あれだ、
戦場にも立っていなかったんや!!
でも多分マツシマは一生先生の事
引き摺り続けるんだと思うな。
彼の恋は新規保存タイプなので上書き保存できない。
だって純情どうしようハートは万華鏡なんですよ。


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