11-1.ゴッドファーザー・オブ・ゴア



 何やらメンゲレから命令を受けたパラメディックだったが、無論こちら側は彼女らが何をしようとしているのかなど知る由もない――が、メンゲレの吐いた言葉が気にならないかと聞かれれば嘘だった。
 サージェントも崇真も、すぐさま退避せねばとは思いつつ心のどこかではその先を見ておく必要性を、漠然と感じていた。

「はぁーい、ゾンビさーん♪」

 歌うような調子でいい、パラメディックは顔半分を抉られたその若い男ゾンビに向かって挨拶するみたいに手を振った。

「調子はいかが? 死んでからの方が元気ハツラツ? ん〜??」

 パラメディックが何やら世間話めいた事を口にしつつも、彼女の言動とは裏腹にその手には懐から抜き出された注射器が一本握られていた。押子の部分を押し上げるよう、パラメディックは注射針から吹き出したその怪しい色合いの薬品を一度見つめた。

「……もっと気持ちよくしてあげる」

 ゾンビにその言葉を理解できるわけもないとは思うが、怪しげな含みのこもったようなその台詞。そして、彼女の目が一瞬ばかり鋭く光ったような気がした。

「――じゃ、サヨナラ」

 それから、ゾンビを見つめた彼女の目は眠たげながらにも人でなしの目をしていた。黒く濁ったパラメディックの瞳に、一瞬殺意めいた鋭い色合いが灯ったかと思うとすかさずその手にあった注射器をゾンビの目ん玉めがけて突き刺したのだ。

 何の躊躇も感じられない動作で、パラメディックはブッスリとゾンビの眼球に針を突き立てたかと思うと、その中身を注入した。条件を達成したのであろう彼女はゾンビから後ずさって離れると、ほぼ同時に注射器を刺したままのゾンビの顔からシューシューと煙が立ち込め始めた。

「あ〜……あらあら〜っ……」

 その様子が一体何を意味しているのかまるで分からないが、パラメディックは口元に手をやって何やら彼女の意図とは違う事でも起きたのか、いささか驚愕したような反応を見せている。

「メンゲレ博士ぇー、これは失敗じゃあないですかーぁ?」
「……さーてね。どうなるかな……」

 謎の薬品を注入されたんであろうゾンビは、呻き声はそのままに顔を掻きむしりながらあっちフラフラこっちフラフラと更に覚束ない足取りとなってあちこちにぶつかりまくっている。見ればゾンビの顔はシュウシュウと音を立ててとろけだしているので、驚いた。まさか酸でも流し込まれでもしたのだろうか――大方ろくでもない何かを施されたのには違いないが、悪趣味な光景だ。

「何をしたんだ……」

 思わず崇真が苦しげな声を漏らすと、そのゾンビに次なる反応があったらしい。ゴキゴキゴキ、と何とも形容しがたい嫌な音がゾンビの全身からしたかと思うとゾンビの腰が百八十度ばかりに回転した。いやはや、至る所がもう既にメキメキと捩れてしまい、おかしな事になっている。

「あぁ――こりゃあ多分駄目だろうな、失敗作だ」
「ですよね〜ぇ。どうしましょうかぁ、コレー」

 相変わらず呑気な声のパラメディックであったが、そのゾンビはブリッジのような状態になるとひたひたとこちらへ近づいてきた。

「また失敗に終わりましたかぁー、何とも残念ですねー。見てみたかったですぅ、『ゾンビアマルガム』。やっぱりぃ、ちゃんと完成させるのって難しいんでしょうかぁ〜」

 パラメディックが何やら残念がっているが、当然その内容に関しては理解はできない。が、それよりも今は目前の――その見覚えのある姿にハッとして崇真が振り返った。

「んふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 耳元の笑い声にぞくっとして振り返ると、先程の女ゾンビが立ち上がっており、崇真の背中越しで笑い声を上げていた。振り乱した長い髪の毛がその頬に張り付いている、さながら和風のホラー映画に出てくる女幽霊のようであった。

「まだ生きてたか」

 サージェントがやけに冷静な声を上げると、崇真が手にしていたライフルの引き金を引いた。再び肩口に命中したその弾丸のエネルギーによってか、蜘蛛のような動きをしていた女はのけぞり、背後にあった硝子戸を突き破って落下していったらしい。




流行りのものはとりあえず叩いとけって感じで
その槍玉にあげられる剛力さんやAKB、
彼女たちも頑張ってると思うしダンス上手いし
私にはやれない事をうんとやっていると思うので
流石にあそこまで言われるのはかわいそうだなと思うけど
ただしヒカキン、てめーだけは庇いきれない。

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