10-3.我が職業は死



 男ばかりではムサっ苦しいその車内。兄のセバスチャンが吸う煙草と、それと放り出された足と、小腹が減ったと言ってむさぼり喰い始めたポテトチップスの匂いが混ざって只でさえ空気の悪いその中が殊更に悪臭でまみれたような気がした。

 こう見えて結構潔癖の首藤にはそれがもう耐え難くてしょうがないが、外に出たら出たで今度はゾンビまみれの血まみれ内臓まみれの阿鼻叫喚の地獄絵図。果たしてどっちが地獄なのやら。

「うぉ! やーりぃ♪ 碧玉ゲェーットぉ」
「……おいV、ピコピコうるせぇんだよ」

 所持しているゲーム機の充電が切れそうだと騒いだ矢先に、今度は別のゲーム機を取り出して遊び始めるのだからこの弟、緊張感がないにも程がある。

「チッ。どこまで行きやがったんだよ、あの野郎……いくら時間に余裕があるったって限度ってもんがあるぜ」

 スパスパと煙草を吹かしたかと思えば、お次はポテトチップスをぼりぼりと頬張って、それから炭酸の抜けきったコーラをがぶ飲みしてでかいゲップをかました。セバスチャンはポテチの油でぎとぎとになった指先をチュパチュパと舐め始め、おまけにもう一つゲップを出しておいた。

 この兄弟、まだ二人とも若いしそれなりに整った面立ちであるのだが、こういう残念な部分があるせいなのか今一つモテないのが悩みらしい。まあ、そんな事どうでもいいと言えばどうでもいいが。

「兄貴ー、本当に逃げられたんじゃないよね?」
「まだ金も払ってないのにかぁ?……ちっ、あと十分待って戻らなかったら――、」

 セバスチャンが言いかけた刹那、遠くでガラスの割れる音。まあ、それくらいは別に構う部分ではない。こんな世の中だ、ガラスの一つや二つくらいは割れるだろう。問題はそこではなくて……。

「ぎゃわぁあああああっ!?!?」

 続けざま、ドッスーーーーン!! と物凄い衝撃音がして、車の上に物体Xが衝突したんだと分かった。衝撃のあまりか、車全体が揺らいだ。防弾性の作りにしていなければ、サンルーフは見事にへこんでいたに違いないだろう。

「何、何、何、何だよぉ畜生うううううう!!!!」
「う、うわあああ兄貴ィイイ! びっくりしたあまりゲーム切っちゃったよぉおお! セーブしてなかったのにどうしてくれんだよファック! ファック!! 碧玉出たのにやり直しじゃんかぁ! 物欲センサー出てると全然ドロップ出来ないんだよぉおお!」
「うるっせぇ、知るか! おい、上に今何が落ちてきたんだ馬鹿野郎!!」

 車内はたちまちに騒然としたが主にこの兄弟がうるさいせいだろう。

「お、おい首藤! てめえ見てこい!」
「は、ハァア!? 俺がですか、何で!」
「こういう時は一番窓に近いヤロウが行くのが普通なんだよ、オラ!」

 セバスチャンがハンドルをがんがん蹴り飛ばしながら暴れまくると、首藤は思いっきり不服そうに顔を歪めた。表情全体で「こいつ死ねばいいのに」といった顔をしていた事だろうが、構わなかった。

「じゃ、じゃあ武器下さいよせめてッ! 素手で出ていくとか自殺行為過ぎますよ!」
「……オラ、とっとと行け!」
 
 セバスチャンがVの前にあるダッシュボードに手を伸ばし、一丁の拳銃を取り出すと首藤向かって投げつけた。首藤がそれをキャッチすると、不承不承にだが扉に手をかけた。

「いってら〜♪」

 そんな首藤をVが実に呑気な声で送り出し、益々ムカっとした。今すぐこの拳銃でこいつら二人まとめて天国に送ってさしあげたい。さしあげたいが、それをしたら返り討ちにされるのが目に見えているのでやめておく。

――ああ、俺って大人だぜ! 

 首藤が外に出るや、先ずは周りに何もいないか確かめる。それから拳銃をスライドさせながら、車の上をそぉ〜っと覗き込む。

「……」

 いた。ばっちり、いた。
 そこにいるのは、一体のゾンビのようである。が、何だか身体の向きがおかしいのは、落ちてきた衝撃で関節がいかれてしまってあらぬ方向へ捻じ曲がってしまったからなのか? 女性と思しきそのゾンビだったが、いやまさか普通の人間……? 首藤が拳銃を持ちながら念の為呼びかけた。

「お、おい。あんた、大丈夫か? ゾンビ? 普通の人? どっち?……おーい」

 言いながらサンルーフをトントンと小刻みに指先で叩くと、その女の首がバキバキと音を立てて倒れた状態のままでこちらに振り返った。目が合った。

「んふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「ひぎゃああああっ!?」

 血まみれの笑顔を浮かべるそいつの異様な姿といったら。もうゾンビであってもそうじゃなくてもどうでもいい、気持ち悪いだけだ。叫ぶのと同時に首藤は手にしていた拳銃をその女目がけて撃ちまくった。撃った、撃った、また撃った。取り乱しながら何度も撃ち続けた。その弾が切れるまで。




降ってきたのは例の蜘蛛屍人みたいな女ね。
ドロレス兄弟、中々憎めなくてお気に入りよ。
兄の方は真性のアホっぽいけど弟はどっちかっつーと
腹黒っぽい気がすんだよなぁ。
ちなみに弟はまだ大学生だ。
大学生にしてヤクザの跡取りだ。
凄く腐女子が好みそうな設定です……

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