09-1.飢えた皮膚



 そしてそのほぼ同じタイミングで、サージェントの周りにいた無数のゾンビ達が事切れ始める。糸の切れた操り人形のように、白目を剥いたかと思うとバッタバッタと次々に泡を吹いて倒れ始めたのだった。

「やった、か――?」

 サージェントが前髪を掻き上げながら辺りを見渡した。鴇田から突き刺したスコップを引き抜き、マツシマはそのスコップを一度土の上に差し込んだ。早速のように勝利の一服を決め込んでいるらしい、煙草の箱を抜き出すと火を灯したのだった。

 それで、アイスブラストのハッカに近い匂いが、血液やら体液やらの匂いが染み付いた鼻腔をほんの少しだけ緩和してくれたような気がした。

「……マツシマ、無事か?」
「見りゃあ分かんだろ? このとーり、無傷です。一応」

 マツシマが両手を広げながら、平気さをアピールしてみせる。それでも遠目にちらちら見てる限りではかなり殴られているように見えたが。

 サージェントにはその強がりもまたガキくさい彼らしいと感じられ、ふっと笑うのであった。

「そうか、ならいい。……門倉も平気なんだろうか?」

 背後を見やると、平気の合図だろうか――スコープの反射と思しき光がキラキラとまたたくのが分かった。

「あれっ。ガキと犬は?」
「先に避難所へ戻ってもらっている――だから俺達も早く戻るぞ」
「了〜解。……行ったり来たり、大変ねー」

 他人事のように言い、マツシマは咥え煙草のまま歩き出した。戦闘直後のせいなのか、やけに饒舌というか幾分か気が立ったような調子だった。つかつかとマツシマは相棒のスコップを握り締めて歩き出したがサージェントはその背中を見つめ、それから今しがた倒した鴇田の遺体も見た。

 大方、父親に関する話題でも出されたんだろうか。

 あの乱れ方は、多分そんなところだろう――それから遺体から目を離し、サージェントもマツシマの背を追って歩き始めた……が。

「?」

 マツシマが振り返り、サージェントの顔を見つめた。サージェントはショットガンを降ろしたまま険しい顔をしている。

「何だよ、オッサン……何か……」
「おかしい。――妙な静けさだ」
「はぁ〜?」

 ピンと来ていないのかマツシマは小首を傾げながらサージェントに尋ね返した。

「ちょっと門倉のところへ行ってくる、嫌な予感がする」
「嫌な予感って……あ、ちょっとオッサン! それってもしかして、俺を一人にするわけ?」
「……何だ。不安か?」

 逆に問われると少し意地も張りたくなってしまうもので、素直じゃないマツシマの事「そんなわけねえだろ」と突っぱねるのが目に見えている。案の定、マツシマのそんな感じの表情を受けるとサージェントはショットガンを持ったままで駆け出した。

 途中、足を止めて振り返り不服気に煙草を吹かすマツシマを見た。

「いいか、油断するなよ。とにかく先に戻ってろ、後で必ず追いつく」
「言われなくともそうするって……」

 さっきまでの鬼気迫った雰囲気はどこへやら、今は随分と緩めな調子である。ひらひらと手を振りながら追いやられてしまい、その調子に半ば安穏とした気持ちさえ抱いてしまう。サージェントは再び正面を向くと、学校目がけて走り出したのであった。





ここから加筆なのですね。
加筆前は普通に何もなく避難所戻ってたんだけどね。

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