07-1.消えた神の名の元に



 マツシマがスコップを構え直しつつ、鴇田を見据えた。成る程、穂邑が負けるだけあってこいつは中々手強そうだ――人面瘡と融合を果たしたのであろうその身体は、崇真から狙撃銃の攻撃をもらっても平然としているのだった。

 かろうじて赤い色をしている血を流しながら、鴇田は冷静な面持ちのままで言うのだった。

「何故――、どうして抗おうとするんですか? 穂邑さんといい、貴方がたといい不思議でなりませんよ。人類の行く先なんてたかが知れているというのに」

 まるで哀れむかのように鴇田は言ったが、マツシマはその態度を頑として崩さない。

「はっ、何かよく分かんねえけど気色悪いのはゴメンなだけだ」

 マツシマの右手が横殴りに払われる。鴇田はスコップでのそれを後ろに飛んでかわすが、鼻先に若干のダメージを受けたようだ。

 何とかバランスを保ち、鴇田は今度は横っ飛びに避ける。マツシマのスコップが宙を斬るのを見届けた後、鴇田は膝蹴りを繰り出した。当たる瞬間に少しだけ力を抜きながらマツシマはその一撃を耐え忍ぶ。

「中々に殺し甲斐がありそうだな。骨のある方で良かったですよ、マツシマくん」
「チンポしゃぶり野郎に褒められても嬉しくねえんだよ、ばーか」

 減らず口を叩きながらマツシマが体勢を整えた。間合いを詰めようとした矢先、一発の銃弾が襲いかかろうとしていたゾンビの頭を貫通する。マツシマの前を、一体のゾンビがどさりと倒れ込んだ――危なかった、鴇田にばかり目を取られていたがゾンビどもの急襲にも気をつけなくてはならない。噛まれたら最後、自分も仲間入りだ。

 愕然としたまま、その表情のまま屋上をちらりと見上げた。崇真に救われたのだ、この僅かな間で……。

「ふん、どうやらお前をブチのめす事だけに集中させてもらえそうだぞ。……喜べ!」

 マツシマが再び、助走の勢いを伴いながら、渾身の力と共にスコップを振りかざした。その一撃を、鴇田は腕だけで受け止めてしまうのだから全く信じられない話だった。普通ならば骨の一本や二本、折れて使い物にはならなくなる筈だろうに。……人間を相手しているのだとは思わない事にした。

 そして屋上では崇真が、一瞬にして血の海と化したその戦場をスコープ越しに見つめていた。

「わが神にして万物の主たる御方よ……わが栄光にして、万物の栄光なる御方よ――私を恥からお救い下さい」

 祈りの言葉を捧げながら、崇真がスプリングフィールド銃をそっと構える。肩に床尾を宛がえば、銃と一体になったような心地がした。その目は、しっかりと照準器を覗き込んでいる。

「――全ての穢れ、悪徳から私を洗い清め給え……」

 崇真の撃った銃弾が、マツシマへと食らいつこうとしていたゾンビの頭部をしっかりと捉えるのが分かった。自分が命を奪った相手を至近距離で見つめる――というのは当然いい気分のするものではないし、トリガーにかけた指はじっとりと汗ばんでいた。

 何も考えるな、と言ったサージェントの眼差しが脳裏をよぎる。

 神に捧げる詩句を読み続けながら、崇真の目は次なる標的を探し続けた。まるで亡霊のように次から次へと現れるゾンビどもを見つめながら、崇真の指は既に狙撃銃のボルトハンドルを引いていた。照準器を覗き込むや、再び引き金を絞る。

「我が去るべき時は近づけり、我善き闘いを闘い……」

 続けざま発された弾丸は、逃げようとしていた修一達の前に塞がっていたゾンビの後頭部を弾けさせた。

 流石だと言うべきか、サージェントの方は心配がいらなさそうなので助かる。どちらかというと熱中すると周りが見えなくなるマツシマの方が不安要素だろう……。 

 崇真は一度そこで仰向けになると、銃身を胸元で携えたまま次なる弾丸を込め直した。

 再び射撃体勢に入ると、険しい表情のままで照準器を覗き込む。マツシマと依然熾烈な交戦を繰り広げている鴇田だったが、本当にほんの僅かに――一瞬だけ、こちらを見た。スコープ越しに目が合ったが、その顔が思いがけずに微笑んでいたのでこちらもぞくっとした。背筋がぞっとするような、何か深い意味合いの込められたような笑顔だった。

――何だ……?

 崇真はそのトリガーにかけた指を引くのを、しばし止める。

――今のは……一体

 照準器から一度目を逸らし、崇真はごくりと唾を飲んだ。それから、込み上げてくる戦慄に飲み込まれぬようにもう一度その指先に力を入れようとした。

「……うお!?」

 その矢先に、背後を取られていた。首元に腐り果てた腕が回るのを見て、崇真は咄嗟に狙撃銃を捨て、その片腕を取り、肩越しの投げを仕掛ける。一本背負いを決められて、ゾンビは背中から倒れ込んだ。

「く……、そういう事かよ」

 呟いて、崇真は腰に差してあった自動式拳銃を抜き出した。マツシマから預かっていたものだ、そいつが起き上がるよりも早くすぐさま撃てる状態へと持ち込み片手でその額めがけて射撃する。屋上の床に大の字になったまま、ゾンビはそこでくたばった。

 続けざま、襲い掛かってきたもう一体のゾンビも首筋めがけて飛び込んでくるのを見越して引き金を絞る。向かって右頭部が破裂し、赤っぽいのと、灰色っぽいものが混ざり合った中身が爆ぜる中にピンポン玉のような目玉が飛び出すのが見えた。

「アイツの指示で動くんだな――やはりあいつをどうにかしないと、こいつらもどうにもならないか」

 更にもう一体が、ふらふらと彷徨いながら近づいてくる。顔半分の崩壊したゾンビは、もうほとんど朽ち果てていた。ここまで歩いてこれたのも不思議になるほどであった――ゾンビはその距離から噛み付きにかかってきたので、崇真も慌てて身を引いた。





ノラもそうだけど崇真が口にしている一句は
高校時代に使っていた讃美歌の本から引用してるので
ちゃんとした聖書の言葉じゃなかったり。
そしてボルトアクション銃大活躍。
やっぱかっこいいよなあボルトアクションは。
一発一発込めるし隙はありそうだけど
セミオートだと狙撃には向かないのだとか?
でもガンマニアの知識も偏ってるし
結局使いやすいのが一番なんだろうと思うよ。
そこまで銃の造形に詳しくないので
あやふやな知識が出たらゴメンナサイです。
映画とゲームから得られる程度の知識しか持ってない。
一応参考書とか持ってるけどね。


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