おねんねしたくなるようなパンチだったが、夢々が胸倉を掴み上げてそれを許さない。もはや敵ながら哀れになってきてしまうような光景だ。しかも、女の子同士で殴り合っているだなんて恐ろしすぎる。
「山田さん、それ以上はちょっとストップ! もう抵抗してないんだから――」
「うっさいなぁ! 夢々の気が治まらないのよ、このままじゃあっ!」
「ヒッ……」
かれんへのダメージが功を奏したのか、途端に避難所内の騒ぎが収束し始めるのが分かった。
「ああ! は、花が枯れてく……」
避難所内に根を這っていた吸血植物達がその動きを辞めたかと思うと鎌首をもたげ始めた。同時に兵器として改造されていたクラスメイト達の活動も止まる。糸の切れた操り人形みたいに、ぷっつりとその場に倒れこんでいくのが分かった。
そして――。
「うぐっ!」
胸倉を掴まれていたかれんだったが、突然のようにぶるぶる痙攣を始めた。夢々によって負わされた怪我が元手なのかまでは分からないが――かれんは白目をひん剥いたかと思うと、ガクガクと尋常でないくらいに震え始めた。
「せ、瀬川!?」
「おぐぐっ、おぼ、ぇっ……」
そして白いゲロを大量に口から溢れ出し、その場にゲボーっと吐き出した。途端、花達が一斉に砂となって粉砕され、ぶわっと飛び散った。
「わっ!?」
「花が塵になって消えていくわ――」
キラキラと輝く光の粒子と共に、塵と化した砂たちが舞い上がっていく。同時にかれんも、どさっとその場に倒れこんだ。開いたままのゲロまみれの口元から、にょろにょろと現れたのは元凶とされる『寄生ナメクジ』だ。
「あ、こ、こいつ……っ!」
逃げようとでもいうのか、うねうねとその身体を伸縮させながら這っていくそいつを見ていると無性に腹が立った。湊は追いかけるとそいつを思い切り踏み潰してやった。
「……お前のせいで! よくも、よくも、よくも! こんのぉおお、こんちきしょう!」
クラスメイト達の仇だと言わんばかりに、湊は緑色の汚らしい体液をぶち撒けるナメクジをこれでもかと踏みつけまくった。
「はぁ、はぁ……うっ、く……くそぉ」
ぜえぜえと肩で息を吐きながら、失ったクラスメイト達の事を思い出していた。また泣きそうになってきた。
「湊くん、こいつ死んじゃったの?」
感傷に浸る間もなく、夢々の声が聞こえてきた。そういえば、瀬川はどうしたのだろうか――夢々は白目を剥いたままで倒れているかれんを覗き込みながら脈を測ったり、口元に耳を当てたりして息を確認している。ホラー映画のお約束宜しく、死んだと思ったらまだ生きていて突然起き上がって襲い掛かっては来ないか、不安なものだ。
「か、関係ないんだけどさ……山田さんって何か格闘技の経験でもあんの? さっきのは一体……ジェット・リーの映画でも見てる気分だったよ何か」
不思議そうに尋ねる湊だったが、夢々は「ああ」と何か閃いたように口にした。
「夢々ね、これでも小学校の時、町内の合気道クラブとスポーツチャンバラにいた事があるんだよ〜。スポチャンやってた頃はさー、女剣士様とか勇者様とか呼ばれて手大会で優勝したりしたんだよ? まっ、相手は健康目的でやってるヨボヨボのおじーちゃんばっかりだったけど……」
「スポーツ……え、何?」
「スポーツチャンバラだってば」
それはともかくとして、合気道からさっきの戦い方はかけ離れて見えたが――そして女剣士、という言葉で思い出す。そういえば、エルはどうなったんだ? 湊が視線を動かすと、エルは林檎の元へと既に駆け寄っていた。
「林檎、しっかりして。私はここにいるわ」
茫然として震える林檎の手を握り締め、エルははっきりとそう言った。
「……エ、エルちゃん?」
エルの声に、ようやく林檎は落ち着きを取り戻したらしい。目が合うなり、林檎はそれで本当に我に返ることが出来たみたいだった。
「――そうよ。林檎、私を見て。目を逸らさないで」
「エル、ちゃ……あたし――あたし、一体……」
「大丈夫よ、何も考えないでいいの」
言いながらエルはちょっとだけ上半身を倒し、何も言わずにその両腕を林檎の肩へと預ける。エルのしなやかな、今は戦いの影響でちょっとばかしほつれたそのポニーテールの一部がぱさりと林檎の顔にかかる。
母は、そんな林檎を見て、罪悪感やら、後ろめたさやら――とにかく様々な感情が入り混じったような顔で複雑そうにしているのだった。
――なんだろう?
先程から気になっていた、その違和感の原因。母親は何を隠しているのだろう、湊が母の顔を見つめながら不思議に思う。
「エルちゃん、あたしおかしいの――何だかさっきから、頭が凄くザワザワして……何なの? これ一体……、まるで自分じゃない自分がいるみたいで」
身体に戦慄が走り、悪寒が一気に襲い掛かってきた。
「林檎、落ち着いて」
混乱のあまりかひっそりと泣き始める彼女をたしなめるように言い、エルはその深い眼差しで林檎を見つめる。
「大丈夫だから……」
言って更に強く抱き締めると、その温度がありがたく感じられた。やがて震えが小さくなっていき、そして消えていくのを感じた。
パニックに陥っていた避難所内であったが、やがて騒ぎは収束へと向かい始める。少しずつ、平穏を取り戻し始めるその中で湊は林檎の母の、その不安げな顔をじっと見つめていた――。
エクスペンダブルズ繋がりで
ジェットリーのダニーザドッグも結構好きだな。
B級丸出し映画だけど、40歳以上はいってるんであろう
ジェットリーが首輪をつけられて犬として育てられてるの。
で、首輪を取ったらめちゃくちゃ強くて拳銃でも怯まないくらいの
狂犬なみに暴れ出しちゃうんだけど普段はおとなしい。
知能は子ども並に純粋だから、ぬいぐるみ見てニコニコしたり
絵本読んで考え事してたり可愛いw
可愛いけどでもオッサン! しかもチビ!
ジェットリーじゃなかったら確実に何かおかしい!
←前/次→