修一がぎょっとそれを振り返る。まさか、このタイミングで告白するのか――勢いづいた彼は、この波に便乗して機を逃すまいとしたのだろう。鉄は熱いうちに打て、とは言ったものだが。
「何?」
小春がその櫛通りの良さそうな、ふわっとしたポニーテールを揺らしながら翔太を見つめ返す。翔太は、言おうか言うまいか、ほんの少し迷って――そして、それから。
瞳を真っ直ぐに逸らさぬよう、小春を見つめた。
「俺――、俺」
「……? 何よ」
小春は本当に何を言われのかその見当さえついていないのだろう。この状況では、ちょっと迷惑そうにも見えた。
「俺、ずっと前から小春ちゃんの事がっ、」
ドラマや漫画だと、よくこういった場面で電車が通過して肝心な部分だけがかき消されてしまったり、中断が入るものだと相場が決まっている。
そしてそんな前例に習い――……。
『よく聞け、ガキどもっ!!』
やかましいノイズと共に、もはや爆音といっても差し支えないくらいのボリュームで校内放送が響き渡った。
一同の視線がはっと上へと注がれる。この声は――そうだ、鴇田だ。修一はすぐに思い起こし、ぞっとした。それはつまり……穂邑の敗北を意味している。心を再び抱き締めてやりながら、修一は半ば絶望的な気持ちでその続きを待った。
『お前らの正義の味方は残念ながら負けだ!……だが喜べ。まだ息はある、そう――生きているんですよ。よって、これからグラウンドにてこの男の処刑ゲームを始める事とします。……くくく、どうだぁ? 希望が見えてきたでしょう? そうですよ、助けるチャンスくらいは与えてやります。ゲームの会場はここのグラウンドだ。ククク、こいつを助けたければいくらでも――』
その時、放送が途切れ、マイクの向こう側では物音が響いた。
『……お前ら、来るんじゃない! 俺の事は放って、とっとと逃げろよ。絶対に!……いいなっ!?』
続いて響いてきたのは穂邑の声だった。もう動くのもしんどそうな、途切れ途切れの声だ。抵抗できるほどの力が残されていないくらいに手負いなのは間違いなかった――すぐさま、マイクは鴇田に取り上げられでもしたのだろう。
殴打するような生々しい音がマイク越しに響き渡り、再び鴇田の音声が入る。
『ふん……もう動けないよう痛めつけておいた筈ですが――まあ、いいでしょう。先に言った通りですよ、少しだけこの男の命は生かしてやります。無論、見捨てて逃げようとも自由です。お前達の好きにすると良い。……さて、私はグラウンドで待っていましょう。ただし私はこう見えて短気な方でしてね――あまり待たせるようでしたらその時は――』
どこをどう聞いても、希望などは見えない死刑宣告だ。
修一は鈍器で殴られたような衝撃を覚えるのと同時に、目の前がくらくらとするのを感じた。自分如きが助けにいったとしても、待っているのは……いずれにせよ死と隣り合わせの選択肢だった。
家にナオ達を呼びに帰っている暇なんかあるか? それとも自分がオトリになって、翔太達に家にまでいってもらう? こんな危険な状況を一人で? 何だか走れメロスみたいな事になってきた、どうしよう。どうしたらいいんだ!
「修一、先生が……先生がぁ〜」
心の声を聞きながら、修一はもはや立ち上がる事さえ億劫になっていくのを覚えた。足元からがらがらと音を立てて、何かが崩れ落ちていくような感覚から抜け出せなくなっていた。
友達がドラクエの世界のモンスターには
ちょっと勝てないと思うけどポケモン相手なら素手でも
何とか勝てるって言ってたけど私は怖いぜ。
かげぶんしんしたスピアーに殺虫スプレーかける勇気もないし。
最弱とされるコイキングだって90センチあるって
図鑑に載ってるし、普通にきもいだろ。
体当たりされたらシャレにならんよ。
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