21-3.星よ、静かに目覚めたまえ
セラの言葉に無論二人はしばし言葉を失わせていたが……すぐにネクロノミコンが言った。
「――それにはそれなりの対価が必要だよ?」
「勿論タダとは言わないよ。僕の存在が人類を狂わすって言うのなら、僕の命を持っていけばいい」
「な……」
それを聞いてすぐさまにミイが立ち上がった。
「あんた自分が何言ってるのか分かってるのか!……それはつまりこいつに魂を取り込まれるってことだ。終わりの無い死の世界を、延々と彷徨う事になるんだぞ!?」
「……ああ……」
それからセラはネクロノミコンの前にしゃがみこんだ。
「僕もずっと一人だったんだ、君と同じで。――でも、僕には守りたいものがようやく出来たから、少しでも一人じゃない時間があった」
そこでセラは一度、言葉を切った。深い深い、ため息を一度ついた。
「けど、君は……長い間ずっと一人きりだった。だから、今度は僕が傍にいるから」
「……」
ネクロノミコンはしばらくの間黙り込んでいた。
悪でもない、ましてや神でもない。全知全能の力を持った存在は元はそのどちらでもなかったが、いつしかそれは人間達の凄惨なる場面を長きに渡り目にし続ける事できっと悪意を持ち始めた――、セラはネクロノミコンの手を取った。その、悲しき孤独な怪物の手を。
「……本当に?」
「ああ、約束す――」
「セラ!!!!!!!」
それまで遠く響いていたはずの絶叫がすぐ傍でしたので思わず振り向いた。創介が、すぐ背後でぜえぜえと息を切らしながら立っていた。当然驚いてセラは目を見開く。
「創介っ……」
「勝手な事させんぞお前はっ!」
こちらが話すよりも早く、創介が絶叫する。セラの腕を引きながら創介が肩で息を吐きながら自身の呼吸が整うのを待っているようだった。