16-1.混沌の従者
今までの人生において、罪を犯した事のない人間など一体いかほど存在しているのだろうか? それは生まれたばかりの小さな赤ん坊や、まだ人生の時間経過の少ない子どもならばとは思うがそれなりの日数を超えてきた人間が、真っ白な潔白のままで存在する事など可能なのだろうか。
みんな大なり小なり、差はあれども何らかの罪悪感を抱えているものだと思う――。
セラは一同の息遣いと、自分の心臓の音に遠く飛んでいた意識が舞い戻ってくるのを覚えた。逃避行の途中で注意を逸らしてしまうなんて、と思いつつセラは隣の創介の叫びに視線を上げた。
「え、え……!? 何だ、追ってこなくなった……」
「馬鹿! 止まるな、来い!」
ついさっきまで半分は夢想に浸っていたような自分が吐ける言葉ではないにせよ、セラは創介の腕を引いた。しかし、彼が立ち止まってしまったのも頷けるのもまた事実なのである。何故ならば、それまでは獲物を見つけたと思って目をギラつかせて追いかけてきたゾンビの山が一斉にそれを放棄した。
と、言うよりかはそれより先に進めないかのようにみんなして止まって立ち往生しているのだ。数え切れないくらいのその大量のゾンビ達は何かに怯えているのかウーウーと唸るものの、それ以上こちらへ寄って来る事はなかった。
「何だ? どうしたんだ、あいつら……」
有沢が振り返りつつ言うが、願ったり叶ったりであるのもまた事実だ。
「どうしたのかしら……」
「都合がいい、とにかくこのまま目的の場所……うわっ!?」
改めて正面へと向き、ミミューが呻いた。
そこらに散らばる、これまでとは比べ物にならないほどの死体の山に飛び散った内臓や人間の部位。強烈な悪臭が肺を満たすより早く、次いで意識を奪われたのは巨大な醜いブヨブヨとした肉の塊達……。
「な、な、あれは、」
創介が思わず上擦った声で呻く。ゾンビ達が近づけなかったのはこれが原因だろうか? いや、そうではないだろう。その異様な肉塊達が立っている中を、不思議な光が満たしていた。神々しいほどの七色の光は今まで目にした事がない程の美しい輝きを纏っていた。……だが……。
セラが途端に顔をしかめた。
「――ネクロノミコン」
セラが、ぽつりと呟いた。
「セラ……?」
しばらく呆気に取られてたが、巨大な肉塊たちはブヨブヨの脂肪を揺らしこちらへと狙いを定めたのだった。同時に、吐きたくなるくらいの殺人的な悪臭が漂った。
「う、うわ」
もう何から驚けばいいのかよく分からずに、創介がその自分とは比べ物にならないデカさの巨体を見た。巨体はこちらへ襲い掛かってくるつもりなのだろう。
ヒー、ヒー、と呼吸音のようなものが聞こえた。と、いう事は呼吸しているのか? このデブ野郎……、等と悠長な事を考えていた。
「創介くん、逃げるんだ!」
ミミューがショットガンを装備しながら叫んだ時には、すぐ眼前にソイツは迫っていた。その異臭騒ぎなんてレベルじゃない、もはや公害指定の匂いに、あるいはその巨大さと見た目の異様さに圧倒されたせいなのか……創介がぼんやりとそいつを見上げたままろくな構えも取ろうとしないでいる。
ミミューがショットガンを撃つよりも早く動いていたのは――そう、別部隊のルーシーだった。巨体の背後の屋根を軽やかに疾走し、ルーシーはそこから勢いをつけて飛んだ。腰の鞘から、釵を抜刀しながらルーシーは巨体の延髄目掛けて切りつけたようだった。
「……あっ、」
「あ、じゃないよ全く!」
ミミューのお叱りを受けながら、創介はルーシーが着地するのをぼーっと見つめていた。巨体はウーウー、と呻き声を上げながら切りつけられた箇所を短い手で押さえてもんどり打ち始めた。
「い、一体コイツは……ってくせぇ、おえっ!!」
思わず、反射的に涙が浮かぶほどの臭気だった。
進撃の巨デブ。
今年の人気キラキラネームは
兵長(りう゛ぁい)とかかな?
デスノが流行った時期にはライトって
名づけた親がマジでいたらしいから
一人くらいはいそうじゃね?
百歩譲ってリヴァイって名づけたくなる
心境はまだわかるとしよう。
いや付けないけどさ、イケメンだし強いし。
憧れるのも別にいい。
だけどライトはいかんだろ。イケメンで頭いいけど
あれは大量殺人犯だぞ。