05-1.倒れる時はご一緒に
相変わらず一真は腰を降ろしたままラジオをいじくりまわしていた。不快なノイズ音をかき鳴らしながら、ラジオが喚き散らしている。
「……うっせーぞ一真!」
「だって……ここ……、電波悪い……」
「ならわざわざ鳴らすなよ! くそ耳障りなんだよマジで」
怒鳴り散らすと、凛太郎は背後から一真の手にしているラジオを無理やり取り上げてしまった。
「返してよ、凛太郎」
「ダメだ! どうせまたギャーギャー鳴らすつもりだろう。ダメったらダメだ。クソして寝ろ」
「……ケチ……」
「はあぁ〜!? うるせえ、デブッ!」
誰の目から見ても一真は決してデブではないしむしろ痩せ型の部類であるのは明らかなので、凛太郎は単に思いついた悪口で罵っているだけなのだろう。深い意味はないのかもしれないが立派な悪口である。
「ケチ。ケチンボ。凛太郎の威張りんぼ」
「うっせー、デブデブデブデブデブ、デーーーブ!」
一真がむーっと頬を膨れさせた。仲が良いのか悪いのか、見れば見るほど本当に謎だらけの兄弟である。そのやり取りを一同が何の気はなしにぼんやりと眺めているとそれまで無言だった有沢がゆっくりと立ち上がった。
「デブじゃないもん。凛太郎の嘘つきっ」
「うるせーっ! お前は黙って俺に従ってればいいものをしゃしゃり出てきやがって、クソ食らえっ! お前のせいで俺のメンツ形無しなんだよ、ええっ!? くたばれこの野ろ……」
そして、罵りあう二人の横を何事もないように通り過ぎていく。言い合いに夢中な二人が当然それに気付く筈も無い。
「おや、どちらへ?」
扉の傍で腰を降ろし、拳銃のクリーニングをしていたヒロシが顔は上げずに問いかける。
「ああ……まあ、気分転換に」
別にそれ以上、深く突っ込む問題でもない。ヒロシはその答えに納得したのか、それで「ああ」と引き下がった。
有沢は振り返る事なくその扉に手をかけて出て行ってしまった。皆、それを無言で見守っていたが雛木だけは何かピーンときたような顔をした。何か企んでいるような、あくどい笑顔……そう、ちょうど彼が手当たり次第に人間を食い漁っていた時のようなあの堕天使の笑みが浮かんだ。
「僕、ちょぉお〜っとトイレいってきま〜す♪」
「は? トイレ!?」
ミミューが我が耳を疑ったように聞き返すが既に雛木はセーフルームを後にしていた。
「……トイレするんだ、あの子……。にしてもあの格好じゃあトイレしにくいよね〜ぇ?」
不思議そうに彼が歩いた後を指差しながらミミューが室内にいる一同に問いかける。まあそういう問題ではないのだけど、面倒なのでそれ以上深追いはやめておいた。
「うん、そうだな……」
凛太郎が何となーく調子を合わせて相槌を打ってみせた。