08.
卵の殻がそこいらに散らばっているのを見渡しながら、セラが何だか申し訳無さそうにため息を一つ吐いた。
「ご、ごめん……僕、不器用だ」
「うん、どうやらそのようだ」
出来上がったのはケチャップライスのはみ出たくっちゃくちゃのオムライスが一つとこちらはふわふわ半熟卵の、見た目はそりゃあもう料理店で出せるレベルのオムライスが一個。
「そ、その……」
「何?」
「お前、凄いんだね」
メイド服を調味料まみれにしながらセラが本当に感心したように呟いた。
「何ていうか――お前さ、学校来ても馬鹿みたいなことしかやらないし」
言えてる、言えてる。
自分でもそれはよーーーーく分かっていたので創介は反論したりせずに甘んじて聞き入れていた。
「何も出来ない坊ちゃんだとばかり思ってたんだよね、正直」
「ハッハー、凄いだろう俺」
「……うん」
凄い、とセラが一つ頷いて見せた。心の底から尊敬している、といった風な具合に。そんな事言われて悪い気はしないもんだ、誰だって。創介はちょっとばかり照れながらわざとらしく咳払いを一つした。
「いやー、うん。……俺、ちっさい頃からあんまり親と一緒にご飯とか食べた事もないし手料理なんかほぼ食わせてもらった事ねーし……」
「え?」
「だから自分でやってたらまあ、何か知らんが出来てた。あれだよ、ガキの頃からやってただけだよ、うん」
そんな風に話す創介に、セラはちょっとだけ肩を竦めた。
「でも凄いよ。それ、自慢していい」
「そ……そうかねぇ」
――何だよこいつ、照れるじゃないか
ちっちゃなメイドさんは何度も頷きながら子どものような目で創介の作ったオムライスを眺めていた。
「そうだ」
「?」
「これ、交換しよーぜ」
言って創介がオムライスの乗った皿を交換した。そう、綺麗なのときったないのを。
「え、ば、馬鹿!……そんな汚いの……いいよ、僕が食べる!」
「何でだよ、そしたらお前雇った意味なくねーか」
「け、けど……絶対まずい……」
「あー、いいよ。大体自分で作った味なんざもう食べ飽きてるんだっての」
ああ、俺って優しい男だ。
自分の行いに多少酔い痴れつつ、セラの嬉しそうな顔が見れた事に創介もにやにやとする気持ちを抑えきれない。これが女の子だったらこの後百パーセント料理と共に君も頂きます、の流れだったんだろうけど、それが残念。
――まあここだけの話、正直男でもこいつならいいかもしんないと思ったのはここだけの話だ