01.
セラ君、高校生にして現在、貧乏生活まっしぐら。
「……やばい」
貯金の残高が、ついに底をつき始めている。施設では基本的にアルバイトは禁止で、正月にもらえるお年玉等の特別なお小遣いがセラ君(半ホームレス)の命綱である。
こっそりと新聞配達をやったり短期のバイトをやったりしてみるものの、たかが高校生、自給七百円程度、それも学業にさしつかえのないような時間ぐらいではその日を凌ぐのに精一杯の金額くらいしか集まらないものだ。
「……高校生? ほんとに?」
「はい」
力仕事なんかはいつでも募集をかけていたし、しかも給料もそこそこ。力にもこう見えて自信があるので、と思い切って面接を受けにいくも。
「身分証明できるものは?」
「学生証があります」
セラが差し出した学生証は、確かにその年齢どおりだ。しかしまあ……、とてもじゃないが中学生くらいにしか見えない上に小柄で、しかも女の子みたいな顔した彼に力があるようには見えないわけで。
出直してこい、と言わんばかりにちっこいセラ君はぽいっと投げ出されてしまった。
「……いてっ、何だよ!」
見た目に反してセラは結構中身は男らしい。決断も早いし、やると決めたら絶対に最後までやりぬく根性もあるし、何より秀でた格闘センスがあるのだがそれはまあ別の話。
セラはよいしょ、と起き上がると服についた砂埃をパンパンと払ってその場からつかつかと歩き出した。
――何でいつも見た目で判断されるんだろう……、何なら僕とその場で腕相撲勝負でもしすればいいんだ
半分本気でそう思いながら、セラは不機嫌そうにてくてくとマイハウス(公園)へと引き返していくのだった。
「ん?」
公園へ辿り着く前に、いつも付近をうろついている白猫がぴょんっと塀の上から飛び降りてきた。
「あ、セガール」
それは彼が可愛がっている野良猫で、よく見知った顔だった。白猫とはいうが、やはり野良だ。純白とはいかずにところどころ黒く薄汚れている。
「……どうしたんだい、いつも公園で日向ぼっこしているのに?」
猫に話しかけるのももはや癖になってしまっているようで、セラはしゃがみこんで喉元をくすぐってやるのだった。
「お前はいいなぁ、僕も猫になって気ままに……ん?」
にゃーの、と猫が鳴くのを見届けてからセラは地響きに似た振動を感じた。顔を上げれば、昼間の公園に何やら似つかわしくない大人の団体が。
「……?」
ドガガガガガ、と凄まじい音がしてセラは初めて気がついた。
夕方過ぎの公園にはいつも小学生達で賑わっている筈なのに、そこにいるのは作業着を身に纏ったガタイのいい人達がいるのだった。何がどういう事なのやら、と思いつつ大体予想はつくわけで……。
「……え、えぇっ?」
思わず、現場監督らしき人をとっ掴まえて尋ねてみる。
「あ、あの! すいません。ここ、工事でもするんですか?」
「ん? あー、そうそう。実はここの遊具で怪我したって子どもがいてなぁ、それも前々から指摘があったんよ」
「え……」
そんな話、聞いてないぞ。
「それでしばらく建て直し期間っちゅーか、出入り禁止っちゅーか。まあ一ヶ月もかからんだろうし、あっちゅーまよ。ガハハ」
「!!!!……いいい、一ヶ月もですか!?」
「ん? 何か不都合かい」
不都合も何も……最悪だ。まさか冬場を前にして住居を奪われる事になるなんて。眩暈がしそうになったが、ここでくずおれていても何も始まらないのだが……。
「お、おいお兄ちゃん大丈夫か? 何か具合でも悪いのか、足元ふらついてんぞ」
「い……いえ、大丈夫です……はい……多分、ええ」
口ではそう言ったものの、実はあんまり大丈夫じゃない。どうする? これはどうするべきなんだ? 人生最大のピンチに今、ぶち当たってしまった。今晩を凌ぐ場所さえも怪しい……セラはポケットの中に残った千円札一枚(ぐっしゃぐしゃ)を取り出してそいつと睨めっこしながら、本気で自分の将来を悲観した。