夕暮れ時、そろそろ次の町が見えてきてもいい頃だよな……と、ぼんやり考えていた俺は、隣に座る彼女の何気ないひと言には耳を疑った。

馬車の御者台に並んで座る俺とミレーユ。
俺達の前方にはファルシオンの背を撫でながらハッサンが歩く。
その背中を見詰めながらぽそっと呟いた彼女。

「ハッサンっていいわよね……」
「えっ?」

マジ………ウソだろ……?
一瞬目の前が真っ白になったけど、聞き違いかも……と一縷に望みを託し、気を取り直して彼女に向かう。

「ハッサンって、ハッサンか?」
「そうよ……他に誰かいる?」

胸に走る小さな痛みに引きつってしまった俺の顔。

「みっ…ミレーユって、ハッサンの事好きなのか?」
俺は動揺する気持ちを隠しながら、平静を装い彼女に問う。
彼女は目をぱちくりさせて俺を見詰め、次の瞬間ふんわりと……
俺の大好きな笑顔を浮かべ「大好きよ。」と言い切った。

これって……失恋?

ハッサン………
嘘だろ……あんたが好きな男って、あの銀髪の剣士だったんじゃねえのかよ………。
意外なダークホースの出現に俺は心底打ちのめされていた。

まさかの仲間内……ハッサン。
全くのノーガード。
よりによって……俺が親友だって思ってる男がライバルなんて……

「ハッサンの何処が好きなんだよ……?」
「そうね……全部かしら。」

俺は思わず絶句する。……全部と来たか……

「彼って人にも動物にも分け隔てなく優しいでしょ。
強くて気配りも上手だし……非の打ちようがないじゃない。ほら、ファルシオンだってあんなに彼に懐いているわ。」

そう言って極上の笑顔で笑った彼女。
その笑顔が俺に再起不能に近いダメージを与えたのと同時に馬車は町へ。

「ちょっと? イザ……どうしたの?」
「何でもないっ!」
「何怒ってるの……?」
「怒ってなんかねえって!」

思わず出てしまったきつい口調。
あーやっぱ、こういうとこがガキっぽくてダメなんだよな……
解っちゃいるんだけど……

「わりぃ、俺気分悪いんだ……先、宿で休んでるから!」
そう言い捨て、馬車から荷物を降ろす仲間達を尻目に、俺は逃げるよう宿へ駆け込んだ。

宿に駆け込んだ俺は受付で、宿泊の手続きをしていたバーバラと鉢合わせる。

「どうしたのよ? すんごい顔してるけど………」

バーバラの声を聞き、俺は思わず「聞いてくれ!」と叫びながらバーバラの事を抱きしめていた。

「よしよし……あたしが聞いてあげるからさっ!部屋行こ!部屋!」

……………………………………

確かにハッサンはいいヤツだ。
強くて優しい。あんなナリはしてるけど、よく気がつくし繊細で仲間内で一番「和」を大切にするのは間違いなくハッサンだ。
男の俺だって惚れそうないいヤツだから彼女が好きになったって……
……ダメだ!やっぱ無理。
いくらハッサンが相手だってミレーユは渡せねえ……。

もっとも、ハッサンは彼女の事何とも思ってないと思うけどさ……
……?
待てよ……ひょっとして俺に遠慮してるとか……?
まさかな……
いや、ヤツも男だ。
もしミレーユが告ったりしたら………あれだけの美人だ。
いくらハッサンだって心が動くだろ………?

うわ〜っ!止めてくれ!!!

「ハイ、ハイ………お疲れさま。」

あきれた顔のバーバラを前に俺は一気に捲し立てた。

「なんだよっ!そんな言い方ないだろ!」
「あんたって、やっぱり面白いわ!」と言って笑うバーバラ。
「お前なぁ、人ごとだと思いやがって……」
「ちょっとは冷静になりなよ……」
「あんな言葉聞いて……冷静でなんかいられるかっつうの!」
「よくもまぁ、一人でそんだけ……」
「なんだよっ!………」

そう言った俺とバーバラとの口喧嘩が始まりそうになった絶妙なタイミングで………

「よおっ!大丈夫か?」
白い歯を見せ爽やかに笑うハッサンが………

「わっ! ハッサン!」
思わずハモる俺とバーバラ。

「何二人して…そんなに驚いてんだ?」
「ちょっと聞いてよハッサン〜!」
「わーっ! わーっ! 言うなバーバラっ!」

……………………………………

「ぶわっはっはっは………」豪快な笑いが響きわたる。この男……全てが豪快なんだよな……
ま、其処がやつのいいとこなんだけど。

一通り大笑いが治まったハッサンは、目に笑い涙を浮かべながら「姉さんが俺? ありえねえ、ありえねえ!」そう言ってまた大声で笑う。

「ハッサンもそう思うでしょ?言ってやってよ! あたしが言ってもイザ信じないのよ!」
「だって本人が言ったんだぜ?」
「それって、話の流れでだろ?」
「………」
「そん時お前が『俺の事好き?』って姉さんに聞きゃ、『好き』って言ってくれたと思うぜ? 絶対!」

「!!」

「つまり、そういう事! 単なる仲間としてって事。」
「ホント、イザってミレーユの事になると、すぐ目の色かえちゃうんだからね〜。」

目を見合わせて笑うバーバラとハッサン。

笑う二人を見ている俺は、身体の力が抜けていく………。

ハッサンの笑顔……零れる白い歯が眩しい。
やっぱ、ハッサン……かっこいいわ。
思わずヤツに見とれていると、いつの間にか俺の目の前にバーバラの顔が。
バーバラはその紅い瞳を悪戯っぽく輝かせながら、俺の耳元で囁いた。

「ウジウジしてないで言っちゃいなよ!」

………言っちゃいなって………
好きって?……?
そんな………ありえねぇって!!

耳まで赤く熱を持ち、胸が異様なスピードで高鳴り始めた俺。
そんな俺を見たハッサンは、大きな手で俺の背中をばーんと叩きながら笑う。
「そうだ!男らしくさっさと告れ!」なんて無責任な事言いながら。

「いってぇ〜少しは加減しろよな! このバカ力!」
「わりぃ、わりぃ!」

ハッサンとバーバラ。
笑う二人を見ていたらなんだか元気が湧いてくる。

「そうよ〜! あんたがミレーユにフラれたら、あたし達がしっかりなぐさめてあげるじゃん!」
「お前な〜人ごとだと思って! フラれるって決めつけんなよ!」
「決めつけてなんかないわよ!」
「いいや!決めつけてる!」

そう言いながらまた笑い合う俺達。
こんな仲間とのやり取りが、俺は楽しくて仕方ない。
「ねえ〜!景気付けに、このまま酒盛りに突入しちゃおうよ!」
「おう!大賛成〜っ!」
「じゃあ、あたし、みんなに声掛けて来るね!」
俺ってすんごい幸せなんだって思う。
笑う仲間を見ていると自然に元気が湧いてくる。
仲間を呼びに部屋を出て行くバーバラの背中を見送りながら、俺とハッサンは再び顔を見合わせて声を出して笑い合った。




* * *

『蒼い龍と銀の星』のりんご茶様宅のサイトにて、キリ番12345番を踏んだ際に「DQ6の主人公(イザ)×ミレーユ+おせっかいを焼く仲間達(ハッサン多めに←笑)」をリクエストさせていただきました。


まず一言叫ばしてください。



ハッサンかっこよすぎるよおおおおおおお!!!!!!



はぁはぁ、失礼しました。

姉さんの何気ない言葉に心中穏やかでないイザっちが可愛いです。
りんご茶さんの書かれる主人公の性格大っ好きですv
ミレーユとお似合いすぎる!

姉さんの言葉、ハッサンは人間としてかっこいいですよね。
姉さんのセリフは正に私のセリフのようです(笑)
同性から見ても、ハッサンはかっこよくて男前で頼もしくて優しくて…本当にいい男ですね。

主人公とバーバラの友情も素敵です。
恋愛感情とかそうゆうのを通り越して親友!な感じが私の主バの理想図です。
ミレーユの鈍感さと無自覚さにいつも混乱し悩んでしまう主人公を、バーバラがやれやれと思いながら相談に乗ってあげてるんでしょうね。
可愛いv

DQ6の頂き物(しかもハッサン多目の)は初めてなので、すごく嬉しかったです。
ハッサンが登場した瞬間、部屋中を転がりまわる勢いでした。
もう大好きハッサン。
主ミレやバーバラも大好きなのでとても楽しませていただきました。
りんご茶さん、ありがとうございました!



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