稽古と言っても毎日している訳ではなく、
予定として、今日は歩く距離があるだとか、
探索しなければならない場所がある……とわかっている日の朝は
体力を消耗しないように、体力を溜められるようにと遅くまで(といっても普通の時間だが)眠っている。

そんなのんびりした朝はアンジェラと一緒に、野宿なら池などの水辺で、宿屋ならドレッサーの前で髪の手入れをするのが習慣になっていた。

夕べは野宿だったので、近くにあった湖にて。
冷たい水で髪を濡らすと、とても清められた気分になる。それがリースは気に入っていた。


「リースの髪って綺麗よね。長くてまっすぐで…」


「アンジェラも綺麗でしょう。紫の髪なんてそうそういないし…」


他愛もない話をしながら髪にくしを通していく。


「ホークったら男のくせに髪長くて、それでもすごく綺麗なの。妬けちゃうわよねー。大して手入れもしてなさそうなのに。
リースも…すごく動くのに、乱れ一つなくてすごいわ、ホント」


リースは敵陣に突っ込むことが多いので、髪にも魔物の得物がこすることが多いのだ。


「それなんですけど…、
このままでいいのか、と」


「? 何が?」


リースは悩みが多い。
真面目な性格なので考え過ぎることがあるのだ。
それが彼女の長所であり短所であり、特徴なのでもう気にすることもないのだが…。


「こうして闘う身なのに、いい加減この長い髪は邪魔なのではないかと。
本当に気持ちが入り込めていなさそうで」


今回の悩み。
それはリースの自分の髪の長さだった。
この際短く切って、気持ちも改め闘いに集中出来るように、だった。
真面目に闘うことを考えているのはいいことだが、
…それを聞いてアンジェラは溜め息をついた。


「なーに言ってんの! 髪は女の魅力の武器なのよ! それを切るなんて勿体ないし言語道断! 私が許さない!
大体、そんなに綺麗な髪してるんだから!」


「でも」


「でも、じゃないの!
その髪はリースのいいところでもあるの! 長くて綺麗。そうよ、シャルもきっとそう思ってるし…。

それに髪切ったら、ホークが悲しむわよ!」


「! ホ、ホーク、ですか」


突然アンジェラの口からホークの名前が出た。


「ホークに、私の髪と何の関係が」


「…だーかーらー、そのままの意味よ。
ホークに相談してみなさいよ。髪長い者同士、ね。
いいアドバイスくれると思うわよ」


デュランも闘う身にしては髪が長いのだが…
しかしアンジェラは敢えて名前を出さなかった。

すると、


「お嬢さん方何してんの〜? オレも混ぜてもらおっかな♪」


絶妙なタイミングでホークが背後から現れた。いかにも寝起きらしく、紫の長い髪を下ろしている。今の彼の状態は一見女性にも見えてしまいそうだ。


「じゃあ私はこれで退散しようかな。リース、じゃね」


アンジェラは髪を整え、立ち去って行った。そのかわりに、アンジェラのいた場所にホークが座る。


「…で、リースちゃん…その髪切っちゃうの」


ホークがおもむろに話し出す。


「…聞いてたの」


「聞こえただけさ」


そんなに大きな声で話した訳でもなかったのに…リースはそう思った。
おそらく聞いていたのだろうが、そんな小さなことをいちいち気にすることもないので、本題に入る。


「…切ろうかな、って思っただけ。迷ってます」


リースは母から受け継いだこの髪を気に入っていた。だからどんなに傷つこうと大事にしてきた。もちろん今だって。
だがそんな…髪など、自分の容姿のことを気にする暇があるのなら、弟を取り返すため、自らが強くなるためにもっと鍛えた方がいいのではないか?
そう考え始めた。
現れる魔物も強力にだんだんとなってきたから。

…真面目だねぇ、と、ホークはリースの心中を察した。


「迷ってる…ねぇ」


「…はい」


「そりゃオレとしては、短い髪のリースちゃんも見てみたいけど?」


「……そ、そう?」


「きっと似合ってるんだろうなー!
すっごく可愛いだろうよ!」


にか、と笑って言った。
リースの顔が赤くなる。


「な、なんでそんなこと平気で言えるの…!」


「恥ずかしがっちゃって。かーわいい」


「…そんなに言わないで。
髪短くする自信なくしてきたわ…」


本当に似合ってるかまだわからないのに、切る前から可愛い可愛い言われれば当然だ。
ホークはやわらかく微笑みながら、リースの金髪に触れた。
梳くと、するすると指が通っていく。


「自信なくしたなら、切らなければいいさ。
オレはリースの長い髪、大好きだからさ。
もったいない」


「な…」


リースは目を見開き、さらに顔を赤くする。


「迷ってるなら、"オレのために"髪伸ばしていてくれよ。
一一一これでリースちゃんに髪を切らない理由ができたな」


ホークは立ち上がった。


「無断で切ったら承知しないからな?
まぁ、このメンバーで刃物を器用に使えるのっていったらオレくらいだけど。
じゃな」


その台詞を残し、去っていった。
残されたリースは呆然だ。
流石にそこまで言われたら、髪を切るのも考えなければならない。


「プレッシャー…かけられたのか…………」


リースは考えた。
アドバイスとはちょっと違うが、この件の結論が出たのは確かだろうと。







ホークは一つリースに言い忘れたことがあった。


「リースはリースだから。髪長かろうが短かろうが、オレはどっちも好きだぜ。
…ま、そんなこと言ったら髪切られそうだから、黙っとくけどな♪」


…それにしてもリースの照れたとこ、何回見ても可愛いな。
髪を切ることもないだろう。釘を刺して良かった…、

ホークは誰にも見えないよう、ニヤリと笑った。







* * *

『碧の鈴』真夜様宅にて、幸運にもキリ番4444HITを踏ませて頂き、キリリクさせて頂きましたv

ゆっくりする日の朝は、アンジェラと一緒に髪の手入れをするのが習慣…の所で既にキュンキュン来ましたv
年頃の女の子ですもんねvV

リースの髪の長さの悩み、分かります!
でも戦闘で邪魔になるのは確かに不便ですが、やはりリースは綺麗な長髪でなきゃ!
あ でも短髪のリースも 萌 え !(…あれ?ホークアイと一緒の事言ってる気が…←)

いつもリースは敬語なので、たまに感情が高ぶってタメ口になる(主にホークアイに対して)所も堪りませんv
そして最後のホークアイのニヤリとした微笑みも堪りませんv
リースをからかって楽しむホークアイ、んもう憎いお人です!(笑)

真夜様、素晴らしいホークリをありがとうございましたvV
2009.7

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