今日の宮殿は、人が少ない。
「あ、じま……」
し、人を見かけても、みんな目をそらすようにそそくさと逃げてしまう。
声をかけたこの国の王は、しゅんと顔を伏せた。
今日は彼の生誕日。
朝目覚めて、みんなにプレゼントを強請ろうと、意気揚々と起きてきたのに。
「YUUKI!」
「あら、陛下。おはようございます」
「おはよう。ねえ、今日僕のた」
「ああ!私じまさんに呼ばれてたんでした!失礼します、陛下!」
慌てて立ち去る歌姫、YUUKIの背中に、小さな声でぽつりと呟く。
「じまなら反対に歩いてったのに……」
それから大きく溜め息。
みんな彼の誕生日を忘れている様子ではないのだ。むしろあえて、その話題を避けているように思える。
「僕って結構嫌われてたのかなあ……」
さすがに落ち込んできた。
せめておめでとうくらい言ってくれれば気が晴れるのに。
これ以上宮殿を彷徨いても更に落ち込むばかりなので、彼は部屋に戻ろうとくるりときびすを返し。
「陛下ー!」
「うわあ、KAORI!?」
回廊の角を曲がったところで、歌姫のKAORIに捕まった。
右腕をしっかりと掴まれ、引きずるように回廊を足早に歩かれる。
「KAORI、何処に……」
「大広間ですよー」
「大広間?何でまた……っていうかKAORI、手痛い……」
「男の子なんだから我慢しましょーねー」
「男の子って……」
一応自分は、KAORIよりは幾分年上なのだが、などと思いつつ、されるがままに大広間の前まで連れてこられる。
宮殿で最も広い大広間は、それに比例して扉も大きい。
「それじゃあ陛下」
KAORIが両開きの扉に手をかけ。
「お誕生日、おめでとうございます!」
「え?」
ぎいっと扉が開かれる。
そこに居たのは。
「陛下、お誕生日おめでとう!」
「ォメデトゥ……」
「おめでとうございます!」
彼の家臣や、様々な地平線の住人たち。
沢山の赤い薔薇の花束を抱えて、彼に祝いの言葉を言う。
「っ……!」
「ほら陛下、陛下か入らないと始まんないでしょ!」
扉の前で足を止めていた彼の背を、KAORIが大広間に押し込んだ。
「何か今……泣きそうなんだけど」
驚きと、嬉しさで、彼は困ったように顔を綻ばせて言う。
「陛下、おめでとうございます!」
「ルキア!に、……ノア?」
満面の笑みで花束を差し出すルキアの隣には、歯軋りしながらそれを羨ましげに睨むノア。
「私だってルキアに花なんか貰ったこと無いのにっ……!」
「何言ってるの養父。養父に花なんて一生あげるわけないでしょ」
「ルキアーーっっ!」
「……え、えっと……ありがとうね、ルキア」
「うん。本当におめでとう、陛下!」
元気に言って、ルキアは立ち去る。
そのあとを、慌てて追ったノアと入れ違いに彼に花束を差し出したのは。
「おめでとう!」
「エルにアビス!」
小さなエルが、背伸びをして花束を差し出しているのを、彼は笑顔で受け取る。
「これを機に、君も楽園パレードに参列するかい?」
「え……遠慮しとくよ」
「そうか。それは残念だったねぇ」
くつくつと笑って、アビスは黒いマントを翻す。
エルはもう一度、おめでとっ、と言うと、小走りでアビスの後を追った。
「陛下、誕生日おめでとう……」
「おめでとう、revo陛下!」
「イヴェールにサヴァン!」
そして、花束を差し出す二人の両側から。
「私たちもいますわ!」
「私たちからはワインをどうぞ!」
紫陽花と菫、双子の人形姫君たちが顔を覗かせる。
「ヴィオレットにオルタンスまで。ありがとう!」
「ちょーっと待ったァ!」
「う、わあ!エレフ!?」
四人を押し退けるように、顔を出したのは、エレフ。
その手には一本のワインを持っている。
「ワインならフランスよりギリシャだろ!ってことで、ほら!折角だから持ってきてやったんだ!感謝しろよ!」
「あ……ありがとう」
押し付けられるように、ワインをプレゼントされた。
「わかってないなあ、エレフ。ワインといったらフランスだよ」
「ちっちっち!フランスにワインをもたらしてやったのはギリシャ人だぜ、イヴェール」
「でもフランスの方が気候がワインにあってたからこそ、今でもフランスワインは上等なんだ。先が後じゃなくて質だよ」
「ギリシャのワインのが質もいいんだよ!」
「フランス!」
「ギリシャ!」
言い争いを目の前で始められて、彼はおろおろと目でサヴァンに訴えるが、サヴァンは肩をすくめて楽しそうに笑うだけ。
双子に助けを求めようとしたところで。
「はいはい、そこまで!」
「ミーシャ!助かった……!」
ミーシャがぐいっと二人を引き離した。
「どっちも美味しいでいいじゃない」
「θモソゥォモゥ……」
「ソレナラμモ」
「ジャアψモ」
「それにθ!μやψまで!」
「ォメデトゥ」
真っ赤な花束を差し出す。
彼の両手が花束とワインで既にいっぱいになっているのを見ると、ミーシャはθから花束を受け取り、隣のテーブルに置いた。
「それもこっちにおきましょうか、陛下」
「あ、うん、ありがとう、ミーシャ」
言われるままに彼は抱える花束をミーシャに預ける。
と、不意に大広間の扉が音を立てて開き。
「ごめん、遅れちゃった……」
「ライラにシャイタン!」
「コレ、プレゼント」
「誕生日おめでとう、陛下」
差し出された薔薇の花束を受け取る。
ライラは、二つに結ばれたその髪を揺らして満足げに笑った。
「さあ、役者も揃ったことですし乾杯といきましょう!」
宰相のjimanguが声高らかに言って、赤で満たされたグラスを手に取った。
それを合図に、各々グラスを高々と掲げ。
「我らが王、revo一世陛下の誕生日を祝って……乾杯!」
「乾杯っ!」
薔薇の花束に、ワインの香り。
みんなの笑い声に、明るい笑顔。
「みんな……」
「ほら陛下、主役がそんな顔でどうするんですか!笑って下さい!」
「っ……ありがとう!」
その日、宮殿のみにとどまらず、国全体の国民が薔薇を胸に彼の誕生日を祝う。
だって彼は、いつだってみんなを幸せにしてくれる、私たちの王様だから。
彼のありがとう以上の、沢山のありがとうを、敬愛なる彼に。
生まれてきてくれて。
沢山の幸せをくれて。
ありがとう!
【君にありがとう!】
(あなたに出逢えた奇跡に感謝)
2009,06,19
(陛下誕生日記念)
* * *
『Notre - Dame』イヴニング様宅でお祝いされてた、陛下生誕日記念小説を頂いてまいりました!ありがとうございます!
家臣の皆と、産み出して来た沢山の地平線のキャラ達にお祝いされる陛下、とても幸せそうです。
これからも素晴らしい家臣・キャラクターに囲まれて、また新たな地平線を作って行って欲しいです!
2009回目の誕生日、おめでとうございますRevo陛下!
イヴニング様、とても温かで素敵な記念のお話しをありがとうございました!
さりげなくエレフが可愛かったですv笑