『アルテナに来て!
いいものを見せてあげるから』







封筒の差出人の所にはアンジェラ、とある。
女性らしい綺麗な字で、そう書いてあった。


これはアルテナにいる彼女から海を越え届けられた手紙。

壮大な、世界の命運をかけた旅を終え、自分達のすべきこと一一一彼女でいえば次期女王としての政治の勉強など一一一をそれぞれするために、離れて過ごしている。

互いに忙しくてしばらく会ってなかったし、しかもこれは初めて彼女から貰った手紙だ。

嬉しくないわけがなかった。


(でも"いいもの"ってなんだ?)


アンジェラの手紙に書かれていた"いいもの"。
デュランが考えつくものといえば、

・剣(高値で貴重な物)
・盾(同じく)
・誕生日プレゼント?

どちらかの誕生日だったろうか?
違うはずだ。
最初の二つは…アルテナにそんなものがあるとは思えないし、大体自分の好みを知っていても、彼女がそんなものを…プレゼントかどうかはわからないが…用意するはずがない。


とりあえず、行ってみないとわからない。


「…早速休みとらないとな!!」


手紙を持ちデュランは城へ向かって駆け出した。

久々にアンジェラに会える、それだけで無意識に胸が弾む。




『"いいもの"が逃げちゃうから、早く来なさいよ!』


デュランは今すぐにでも出発することにした。
アンジェラに会えるからこんなに急いでいるなんて、旅をしていた仲間…特にホークあたりが知ったらなんて思うだろうか。ちょっと自分でもらしくないと思う。

でもそんなこと言ってる場合じゃなかった。




* * *




その日の夜。


「デュランが来たー!!」


「アンジェラったら…城の中で大声を出してはいけませんよ。
それに寒いでしょう」


アルテナ城のバルコニーから身を乗り出してアンジェラが遠くを指差し、叫ぶ。
それを微笑みながらもたしなめる女王。



「だって久しぶりなんだもの!!」


早く迎えてあげなくちゃと、厚手のコートに腕を通しながら、
バタバタと城の中を駆ける。


城門の前に来ると、デュランがいた。
フォルセナからここまで…流石に疲れているようだった。


「来てくれたんだ!
私、デュランは手紙届いた日のうちに来てくれるって信じてたんだからね!」


「朝からずっと待ってたのかよ…」


「待ち切れなかったの!」


只今の時刻、月が斜め45度の位置に空に浮かんでいる。雲ひとつない星空だった。

二人は手を繋いで…もとい、アンジェラが一方的に引っ張っていく形でアルテナの城下町を、城に向かって足早に歩いていく。


「…それにしても寒くなったな、ここも」


「しょうがないじゃない…マナが消えて魔法も使えなくなっちゃったんだから」


アルテナとその城下町一帯は、理の女王の魔力によって温暖な気候に保たれていた。
しかしマナとその魔力の無き今は気温もかなり低く、真っ白な雪が地面も家の屋根も覆い尽くしている。


城に着き、客間へと通された。
灯る暖炉が暖かい。


「ここに泊まってってね」


高級ホテルの一室と間違いそうな程に立派な部屋だった。


「なんかお泊り会に来ました、って感じじゃないか? オレ」


「フォルセナからここまで日帰りできるわけないじゃない。いーの! 私が呼んだんだから」


「そうか…。
ああそういや、"いいもの"ってなんなんだ?」


思い出したようにデュランが問う。


「何よー早速その話? なんかそのためだけに来たってカンジ?」


「拗ねるなよ、…そんなわけないに決まってるだろ」


そう言い、アンジェラを抱きしめる。

…あいたかった……。


アンジェラも、デュランの腕の中で微笑む。

「フフフ。

そんなの、知ってるわよ!」




* * *




結局"いいもの"は明日の朝に見せると言われ、その後おとなしく眠りについたデュラン。


次の日、昨晩から続く快晴で、雪が朝日に照らされ金色に輝いていた。

アンジェラは早くに起き、客間で寝ているデュランを起こしに行った。
彼女はコートを着込んでいた。


「デューラーンー! 早くしないと"いいもの"見れなくなっちゃうわよ!! 早く起きて!」


"いいもの"に反応したのか、割とあっさり起きたデュラン。
まだ眠そうな彼の腕を引き、コートを羽織らせ、さっそうと城の外に出た。

突き刺すような朝の寒さは、デュランを一瞬で覚醒させた。


「さっむっ!! …なんで外なんかに出るんだ?
"いいもの"を見せてくれるんじゃなかったのかよ…」


「だから今見せに来たのよ!」


「なんで外に出る必要が…」


「…今日はきっと見れるはずなんだけどなー!」


「?」


会話が噛み合っていない。
今日は見れる?


「アンジェラ、どういうこと一一一」


「!! ほらっ!! デュラン! 見て!」


デュランの科白を遮り、アンジェラはある一点を指差した。…そこは何もない空間だけだったが。

デュランも気がついた。


「これ、は」


「…"ダイヤモンド・ダスト"。そっちじゃ冬になったって見れないでしょ」


ダイヤモンド・ダストは、陽光を受け空気中で金色に煌めいていた。
美しくて、目を離すことができない。
寒いことも忘れて、ただずっと見つめていた。今この瞬間で動くのものは、二人の吐く白い息が立ち上るのみ。


「私も見るのは初めて。魔力が消えて寒くなったから。しかもこの時期しか見れないらしいし…」


「そうなのか。でもこれからはいつでも見れるんじゃねえか?」


「うん!


春まで、デュランと一緒にね」


「…は、で、でもオレも仕事で忙しくて…」


「だーかーら、デュランもここにいなくちゃいけないの!
…エルランドの定期船、昨日の最終便でしばらく出ないのよ。もう流氷が凄い時期だから、ね」


つまり春までアルテナ地方にカンヅメというわけだ。
デュランの表情が青ざめていく。


「そんな!! じゃあオレ仕事どうするんだ!? 春までアルテナにいるなんて言ってないぞ!」


アンジェラはデュランの慌てぶりに苦笑する。真面目人間だ、と。


「大丈夫よ。
フォルセナの英雄王様には、アルテナの王女様直筆の手紙を送っておいたから。デュラン、王様の許可は出てるのよ!」


しかも有給で、と付け加えて。
デュランはほっと胸を撫で下ろす。

しかし、


「…そこまでして…オレをここにいさせようとしたのか…」


「怒んないでよー」


「怒ってねえよ、少し呆れただけだ…」


アンジェラの計画的犯行。彼女は確信犯なのだ。


「何よーそんなに帰りたかったの? …私は嬉しいのに。デュランと、一緒にいられるし」


「…嫌な訳ないだろ。
でもさ、オレいてもいいのか? アンジェラの政治の勉強の邪魔には」


「全然大丈夫よ! 寧ろ隣にいて欲しいくらいだもの」







* * * end

『碧の鈴』真夜様より2/1デュラアンの日記念フリー小説を頂いて来ました!

ちなみに2/1デュラアンの日の由来は、フランス語の「アン ドゥ トロワ」の語呂合わせで、
ドゥ(デュラン)
アン(アンジェラ)
で、デュラアン!だそうですv
すごく良い思い付きです!

そしてダイヤモンドダスト…!!
勿論見た事は無いのですが、うっとりする様な美しさでしょうね…++
そんな美しい光景を2人で見る…。なんてロマンチックなんでしょうvV

あいたかった…とアンジェラを抱きしめるデュランが素敵です!もう凄くラブラブで…!春までとは言わず、もうずっと一緒にいられればいいのにと願ってやみません+
とても美しく温かいデュラアン話を、ありがとうございましたvV

2009.2

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