執事×生徒会長
放課後の生徒会室に鳴り響いた携帯の着信は、執事見習いの三郎からだった。
部屋に誰も居ないことを良いことに、俺は通話を続ける。
役員が仕事をしなくなってから何日になるか…数えるだけで虚しくなってしまった。
「怒り狂った椎原が、そちらに向かっております!」
「はぁ!?どういうことだ!?」
椎原とは園城寺家の執事であり、俺の元教育係である。
執事や教育係と言っても、俺が中学受験の時に大学生で執事見習いだったので、それなりに歳は近い。
その優秀さから、俺が園城寺の家を継ぐ時、執事のトップにいるのは椎原だと言われていた。
「何故、椎原はこっちに来るんだ」
「あの…最近、雷雅様が体調を崩しがちという報告で…」
「それだけで…それは心配し過ぎだろ」
「いえ、学業が疎かになり、生徒会の仕事に追われる日々と聞いて…怒りが頂点に達した模様です」
『学ぶことは生きること』
これが椎原の口癖だ。
勉強をサボろうものなら、即座に机の前に連れ戻された。宿題が終わらせなければ、部屋の外へも出さてもらえなかった。
中学時代は教育係の椎原の鼻を明かそうと勉強を頑張った。
「SPの牟田さんを背負い投げで沈め、新入り佐々木さんを腹への一撃で倒し…旦那様の、購入したばかりベンツを奪い去って…そちらに向かった模様です」
どうやら本当に怒り狂っているようだ。普段は温厚なくせに、キレると武力で制圧しようとしてくるからな。
「はぁ…何やってんだよ!早く連れ戻すよう動いてくれ。こっちに来られても困る」
「こっちも大変なんですよ。牟田さんは『鍛錬が足りなかった』とか言って急に筋トレし始めたし、佐々木さんは体育座りで落ち込んでます。メイドたちは…笑い転げてます」
「父さんは、何してんだよ」
「旦那様はベンツ…雷雅様が心配で、椎原の後を追いかけようとするのを、執事長の秀さんが必死に止めています」
三郎がベンツと言いかけた所に引っかかりを感じつつも、数時間後には椎原がこの部屋にやってくるのだ。
俺一人しかいない大量の書類に溢れかえる生徒会室…急いで片付けなければ。
今日一番の深いため息が出た。
「じゃあ、椎原が来たら――――――」
そう俺が言いかけた時、空からの爆音で通話が不可能になる。
窓を覗けば、園城寺家が所有しているヘリコプターが屋上に着陸しようとするところだった。
「何、やってんだよ」
訂正しよう。今、俺は今年一番の深いため息を吐いた。
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