「ばーか」


一人きりの部屋で小さく呟いてみる。
どうせあいつは来ないとわかっていても少しは期待していたんだ。なんだかんだと大切にしてくれていると実感できていたから。
でも、あいつのことだから日付なんて気にしないかもしれないし、知っててもめんどくさくなってあの万年雪山からでることはないのかもしれない。
来ない理由を考えればいくらでも出てくるが主に考えられることはこの二つだと思う。
あいつが来ないならこっちから出向けばいいと言われるだろうが、普段から結構行ってるんだ、それもジムをさぼってまで。
だからこういうときくらいあいつが来るのを待ったっていいだろ?

もうクリスマスなんてとっくに過ぎてしまって世の恋人やら夫婦やらの興奮もとっくに収まってきているのに俺はまだ根に持っているようで、そんな女々しい自身に嫌気がさす。

今年は一緒にいられると思っていた。
照れくさそうに帰ってきたレッドに腕をふるって作った飯食わせて、ちょっとお洒落にシャンパンなんて飲んでみたり、言葉少なながら目が合うと二人して微笑んでみせたり、夜は、まぁ、流れに身を任せてみるのも悪くない。


「ばーかばーかレッドのばーか」


息が白い。
暖房器具を一切つけていないから仕方ないんだろうが、それがいっそう自分を惨めにさせた。
なぁお前まだあそこにいんの?寒くねえの?俺に、会いたくねえの?俺は…、

「…会いたい、」


今まで思っていた言葉を気づかないうちに呟いていた。
だがその言葉も虚しく消える。
それで気持ちの整理がついた。もう幾度となくしてきたことだった。
さて、そろそろ寝るかな。連日こんなのばかりで疲れた。


「諦めるの?」


レッドの声が聞こえた、気がした。
声の方向を見ると窓から月が華麗に見えるだけだった。
とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまったかと失笑してベッドに潜り込んだ。

ゆっくりと目を瞑り眠ろうとしたときだった、布団ごと後ろから抱きしめられた。
突然のことで声も出ず、心臓は激しく動く。


「諦めないでよ」

「…れ、っど、」


あいつの声がする。臭いがする。感触がする。
感じることを理解していく度に顔が紅くなってくるのが分かる。
ぐるりと体を反転させて抱きしめているレッドと向かい合うような形にする。


「お、まえ、何処で何してたんだよ!」


理想とは程遠い言葉をかけてしまい自己嫌悪する。こんなことが言いたい訳じゃないのに…。


「ごめんね、寂しい思いさせて」

「な、なんのことだ」

「誤魔化さなくていいって、僕を待ってたんでしょ?」

「待ってねぇし!」

「さっきみたいに言ってよ、会いたかったって」


なんでそんなこと知ってるんだ!と怒鳴り散らかしてしまおうかと思ったが、こいつのことだ。どうせ隠れてみていたに違いない。それにこいつがわざわざここまで来てくれたことを考えると単純に嬉しく感じてしまう。
口をぎゅっと固めてレッドの胸に顔を埋める。


「グリーン?」

「…会いたかった」

「…うん、僕も」

「なんで会いに来なかったんだよ…」

「それは、ごめん。その、なかなか見つけられなくて…」


そう言ったレッドは抱きしめていた腕を離して床に座り込んだ。それを少し残念に思いながら俺もベッドから降りる。


「グリーンに渡したいものがあってさ」

「渡したいもの?」

「そ、クリスマスプレゼントだと思ってくれればいいかな」


そうしてレッドはポケットに手を入れてなんとか握れる程の大きさのものを出してきた。よく見ると指輪などを入れるもののようだ。
レッドはゆっくりとその蓋を開ける。
そこには鈍いながらも赤く光る小さなピアスが二つあった。


「これさ、シロガネ山の洞窟で見つけたんだけどグリーンに似合うと思って」

「……」

「でもそのまま渡すのも変な感じだし、お店でやってもらえるとこないかと探してたんだ」

「……」

「でもなかなか見つからなくてさ、時間かかっちゃった、ごめん」

「……、」

「…グリーン?」


俺の顔を覗くレッドは月明かりに照らされて不安げな表情が丸分かりだった。
見ると何故だか可笑しくなってきた。それをレッドが不審そうに何?と聞いてくる。


「いやぁ、俺もわかんねぇ でもレッドの顔見てたら笑えてきてよ」

「何それ、こっちは真面目に言ってるのに」

「ははっ、わりぃ、でも」


今までつけていた小さなピアスを外し、レッドの持っていた赤いピアスと交換させる。
そして赤いピアスをはめた。

「嬉しいんだよ」

「…そう、よかった」

「ありがとな」

「うん、グリーングリーン」

レッドは両手を開けて待っている。俺はその腕の中に流されるように抱きついていった。
するとレッドも背中に手を回して俺の肩に頭を置いた。


「よく似合ってるよ」

「その体制で見えてんのかよ…」

「もちろん、グリーンが赤、僕と同じ名前の色のものをつけてるって思うだけで興奮しちゃうからその抑制のためにこうしてるの」

「何変態みたいなこと言ってんだばーか」

「ふふっ、ねぇグリーン、遅くなったけどメリークリスマス」

そう言うとレッドはこめかみにキスをした。
普段からこいつはこういう奴だと分かっているが久しぶりに会ったからか熱が上がってきた。でもなんだか癪だから俺も負けじとレッドの頬にキスをした。



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