つみとばつのはなし。






※暗い
※血注意
※オズが病み








─夢かと、思った。







目がおかしくなるほど真っ赤に染まった風呂場を見た時、ただ、俺は呆然としていた。
白いタイル張りの床が赤に侵食されていて。
その床の上に力なく座ってバスタブにもたれかかっている体はぴくりとも動かない。
その中で電気に照らされた金髪が眩しいくらいに輝いて網膜を焼く。
伏せられた頬はいつもの赤味は消え失せて紙のように白く、だらりと垂れた白い手首からは絶え間なく流れる、赤。
そのコントラストに目が引きつけられて離せない。
そしたら、ふととじられていた目蓋が開いて。
そいつが緩慢に顔を上げてこちらを見るまでの時間が恐ろしく長く感じた。
頭がくらくらする。まばたきができない。動けない。何も考えられない。喉が渇く。なんだこれ、ゆめか。
沈黙に満ちた浴室で、心臓が痛いぐらいに鼓動する。
息をするのさえ忘れそうな中、こちらを見つめる翡翠色の瞳は優しくゆらゆら揺れていて。
そっと、笑んだ。


『…ああ、エリオット』



濃厚な血の生臭い臭いが生々しくて吐きそうになる感覚が、これは現実だと痛いぐらいに告げていた。









「………………」

二人揃って口を閉ざしたまま。
一つのソファーに向かい合って座ってはいるが、視線は合わない。
互いに視線を伏せ、オズに至っては完全に俯いてしまっている。
俺はオズの左手を両手で持ち上げたまま、伏せていた視線を上げてその手首を見つめた。
巻かれた包帯。
巻いたのは、俺だ。
掻き切られた傷は包帯の下。
真っ赤だった浴室はシャワーで綺麗に流して、換気扇を回した。
汚れた服は着替えさせた。
血に濡れた手を拭いて、手当てして包帯を巻いた。
もう名残はないはずなのに、脳裏に焼きついた赤が離れない。
気持ち悪い。胃がムカムカする。
ずっと黙りこくっているこいつも一体何だと言うんだ。
いつもは無駄に回る口は閉ざされていて。
伏せられた顔が浮かべている表情は、見えない。
俺も無言でそれを見つめていると、気がつけば俺は口を開いていた。

「…なんで、あんなことした」

オズは顔を上げない。
上げないまま、返事をする。

「…オレは。…オレは、存在が罪だから」

「生きていては、いけないから」

「しななきゃ、だめなんだ」

はっきりしない口調で途切れ途切れに、そう口にする。
俺は再度問うた。

「…死にたいのか」

「……死ななきゃいけないということにオレの意志は関係ないよ。死なないと駄目だから死ぬだけだ」

「そんな話はしていない。『おまえ』は死にたいのか?」

しばし、間。


「…うん」



俺は目をすがめた。

(……よく言う)

(本当に死にたいなら首を切ればいい)

(心臓に刃を突き立てればいい)

(何故それをしないのか、なんて考えたことなんてないんだろう)

(おまえはこんなにも生に執着してるのに何故気付かない)


俺はそっと溜息を吐く。

「…冗談でも、そんな事言うな」

「冗談なんかじゃ、ないよ」

即答で返ってきた言葉に、俺はムカムカする胃の底で重苦しい熱が動いた気がした。

(じゃあ、)


(じゃあ俺がころしてやろうか、なんて)








(言えるはずもない)





***





私の中ではこれでもエリオズ。
実はエリオットも病んでます。
『ころしてやろうか、なんて』
→訳『俺が殺したら俺だけのものになるのか、なんて』

意訳にも程がある。
読み取れないとかいうレベルじゃない。
読み取らせる気がないの間違いじゃないかと。


元ネタはついったの診断メーカーでした。

『エリオットが溜息をついて「…冗談でも、そんな事言うな」と言う罪と罰の話を誰かが得をすると思ったらかいてください。』


私のマニアックなネタに食い付いてくださる訪問者の方もいらっしゃるので、もしかしたら誰か一人ぐらいの得になるかと思って書いたんですが、何がどうなったのかこのような地盤沈下になりましたのでお蔵入りしようかと書きながら思いましたが、せっかく書いたんだし、と短編として出せるぐらいには修正したはずでしたが、意味不明すぎてこちらにやってきました(長い)







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