※童話「ネズの木」のパロ。話は少し改編しています。

※微グロ注意。






穏やかな村に住む宮坂という名の少年は、親を失い大きな家に一人残された。

その家にとある男とその養子が引っ越してきた。
その男は研崎と呼ばれ、養子は風丸と呼ばれていた。

行く宛のない宮坂を研崎は家事をさせるための使用人として雇った。



最初のうちは三人家族のように穏やかに暮らしていた。

だがいつしか研崎は宮坂を乱暴に、奴隷の様に扱っていた。
家事以外にも理不尽な仕事をやらせたり、理由もなく研崎から暴力を受けたりした。

元々、研崎は養子である風丸を激愛していたのだ。二人で仲良く暮らしていた。
だが宮坂が入ってから、風丸は歳の近い宮坂と話が合うため仲良くなった。風丸が研崎と関わる時間が減ってきたのだ。
それが研崎には気に食わなかった。

つまり、嫉妬。

愛しい風丸が、雇われているだけという汚らわしい少年と仲良く話している。それが彼にはとても許せるものではなかった。



今日もまた、研崎は宮坂に暴力をふるう。


「この程度の仕事も出来ないのですか」

研崎は宮坂を突き飛ばし、横に倒れたその腹を強く蹴る。

「申し訳、ありません」

宮坂は抵抗もせずそうはっきり言い、真っ直ぐな瞳でこちらを見る。それがまた研崎の酌に触るのだ。
髪を引っ張り顔を上げさせ、その頬を強く殴る。何度も何度も。宮坂は無言で耐える。
殴るだけ殴るとまた宮坂を床に叩き付けた。

「やめてください、研崎様!!」

部屋に風丸が駆け込んできて、倒れている宮坂の側に駆け寄りかばう。
こうなると研崎も手を出せない。

研崎は舌打ちをし二人に背を向け荒々しく部屋を出ていった。

「ごめんなさい」

二人きりになってから宮坂はポツリと風丸に言う。

「何でお前が謝るんだ」

風丸は宮坂を起こしながら答える。そしてすぐ暗い顔で俯く。

「謝るのはこっちの方だ。何も出来なくて、ゴメン」

「いいんですよ。僕は雇われている立場ですし」

体を起こした宮坂は風丸に優しい笑顔を見せる。

「研崎様はどうして宮坂に辛く当たるのだろうか…」

風丸には分からなかった。自分にはとても優しい研崎が何故あんなにも宮坂に残酷なのだろうか。
その原因が自分にあることは全く気付いていなかった。

「単に僕が嫌われてるだけですよ」

だが宮坂は気付いていた。研崎が風丸を好きであること。それにより自分が風丸を取ったように見られ、嫌悪している事。

相手が自分を嫌うなら、自分も相手が嫌いだ。
宮坂は心の底では研崎を憎んでいた。でも隠して我慢していた。自分は雇われてる立場であるから、それだけではなく風丸を困らせたくなかったから。

「本当は研崎様はあんなお方じゃないのに、」

本当は二人に仲良くしてほしいのに。どうすれば二人が仲良くしてくれるのか、心の優しい風丸は頭を悩ませていた。

「いいんですよ。僕には風丸さんが側にいるだけで」

宮坂は風丸が好きだった。たとえ研崎にどう扱われようと関係ない。側にいるだけで幸せで、それが一番の望みであり、何があろうと曲げられない思いだった。

「ああ、俺はいつでもお前の側にいるからな」

非力な自分だけど少しでも宮坂を助けたい。そんな思いを風丸は抱いていた。


それが研崎の怒りをますます買うことと知らずに。




もともとあまり豊かではない村は、悪天候による収穫不足で不景気になってきていた。徐々にこの家の金も減ってきて少しずつ生活が苦しくなっていた。食事は減り、風丸の学校の費用が払えなくなりそうだった。
研崎は宮坂を解雇しようとしたり食事を抜いたりしようとしたが、それは風丸が許さなかった。

研崎は本気で宮坂を憎み、邪魔だと感じていた。暴力は日々エスカレートしていく。抵抗すらしない宮坂。それをかばう風丸。



いつしか耐えきれなくなった研崎は宮坂を殺してやろうと決心した。

――もう我慢できません――

しかしバレたら風丸に嫌われ人殺しの罪を背負うことになる。リスクは大きかった。
それでも殺す以外の選択肢はない。どのように殺すか、じっくりと考えるようになった。計画を練っていた。

――いたぶってから、苦痛を与えてから殺しますか。いや、バレないようにすることを最優先するのです――




計画が実行される時が来た。




「宮坂君、リンゴを食べたくないですか?」

風丸が学校に行っていて家に二人きりでいるとき、研崎は宮坂に猫撫で声で言った。

「リンゴ?良いんですか?」

珍しすぎる研崎の好意に最初は不信感を抱いたものの、お腹が空いていたので話につられてしまった。

「ええ、台所の棚の上に置いてありますから、取りに行きなさい」

研崎はバレないように笑顔を作り答えた。
純粋な宮坂は嬉しそうに小走りで台所に向かった。
棚は少し高く、宮坂は棚の上のリンゴを見上げ手を伸ばしていた。

そこに研崎がひそかに後ろに近付いていった。
手に、予めよく刃を研いでおいた斧を持って。

宮坂はリンゴに夢中で気付かない。

研崎は宮坂の細い首を狙い、重い斧を振り上げ、


勢いよく振り下ろした。




ザクッ、ゴトッ。







単純な音をたてて、鮮やかな血を大量に噴き出しながら、




宮坂の頭が転がった。




あんなに計画して、考え悩んでいたのに、あまりにもあっさりと殺せてしまい研崎は妙に恐怖を覚えた。
だが怯んでいる暇はない。風丸が帰ってくる前に片付けなくては。

そう思った研崎は落ち着いて台所に飛び散った血を吹く。それから遺体の服を脱がし、まな板の上に置く。
その体の関節を包丁で切り落としバラバラにした。分けた四肢から皮を剥ぎ、肉を骨から削いで、それらを熱く沸騰した鍋に放り込みグラグラとゆでる。
胴は内臓をとりだし、皮を剥いで肉だけをまとめて煮込む。皮は生ゴミへ、内臓は食べれそうなもの以外は潰して流しに捨てた。

血と肉の感触が気持悪い、臭いに吐気がする、こんなことしているなんて我ながら人間離れしてる、気がふれている。
そんな考えが頭によぎったがそれに構う暇は無かった。

風丸が帰ってくる前になんとしてでも形跡を残してはいけないのだ。

頭は眼球や舌など食べれそうな部分を取りだししだい、残りは焼いた。
頭蓋骨や背骨など、全ての骨はゆでて柔らかくしてから砕いて黒い袋に入れ、ゴミ箱に捨てた。

今晩はスープだ。とても美味しく作らなくては。腹の中に入れて無かった事にすればいいのだ。上手く味付けすれば風丸も食べている肉が人間のもの、ましてや宮坂だとは気付くまい。


研崎は全力を料理に注いだ。





「ただいま帰りましたー」

ちょうど日が沈んでから風丸は帰宅した。台所から芳ばしい香りがしてくる。真っ直ぐそちらに向かった。

「おかえりなさい、風丸君。今日はスープですよ、もうすぐ完成します」

何かを煮込みながら後ろを振り向いて研崎は言った。
やった、と言葉が溢れた。風丸は研崎の作るスープが大好きだった。でも滅多に作ってもらえない。だから嬉しかった。
宮坂にも言わなくちゃ、と思い家の中を探す。だがどこを見ても見当たらない。

「研崎様、宮坂はどうしたのですか」

「宮坂君は遠くの家に引き取られましたよ。もう会うこともないでしょう」

今度は振り向かずに淡々と答えた。

「そ、そんな…!」

弟のように可愛がり大切にしていた宮坂が急にいなくなってしまった。ショックで力が抜けその場に座り込んでしまった。

「お金が減ってきたこの家にいるよりよその方が幸せになれるでしょう」

研崎の言葉は否定出来ないものだった。だけど、それでも側にいたかった。

――宮坂、もう会えないのか…?――

寂しくて涙をぽろぽろと流した。

「椅子に座りなさい。すぐご飯にしましょう」

研崎は慰めるように優しく言った。でも何処か話題を無理矢理変えようとする強引さも孕んでいる。

「さあ、食べましょうか」

二人はテーブルを挟み向かい合って座った。

「いただきます…」

食卓に並べられた美味しそうなスープ。しかし風丸は食欲が沸かなかった。
それでも一口食べると、初めての味だった。何かいつもと違う。

「?」

「美味しいですか?」

笑顔の研崎に聞かれて、答えられなかった。美味しいのかよく分からない、不思議、というより理解できない味だった。
答えない風丸を心配したものの、再びスープを食べ始める研崎。

「ふむ、思ったより美味しく出来ましたね」

そうだ、肉だ。肉がいつもと違うのだ。風丸は尋ねた。

「この肉は何の肉ですか?」

「特別にもらったものです。なかなか柔らかくて良いものですね」

笑顔で答えた。だがその笑顔は温かいもののはずがどこか冷たくて風丸は背筋がひやりとした。

「早めに食べ終わらせましょうか」

研崎は台所からスープの入った大きな鍋を持ってきてそのまま食べ始めた。

――今日の研崎様は、なにかおかしいぞ…?――

風丸は研崎に何かあったのかを聞こうかどうしようか頭を伏せ考えていた。
その時、スープに何か糸のような物が浮かんでいるのに気が付いた。

黄色の糸。どこか見覚えのある黄色。いや、これは糸ではない。髪の毛なのか?


「…!!!」


風丸は全てを察した。


――宮坂…!――


サッと血の気が引いていく。

目の前では異様な量のスープを真剣にもしゃもしゃと食べ続ける研崎。その様子がとても地獄絵の様で、研崎が人間離れした、悪魔か怪物かのように見えた。
凄まじい恐怖が風丸の体を駆けていく。

「ご、ごちそうさまでした!」

風丸はスープを残して立ち上がり台所へ向かった。研崎に不信に思われないよう出来る限り自然に。

――なんということだ。研崎様は悪魔になってしまったのか…?ああなんて可哀想な宮坂!この事に気付いたのがバレてしまったら俺も…!――

かたかたかた、と体が震えているのが自分でも分かった。
自分には何も出来ない。しかしこのままでは宮坂が報われない、せめてお墓は作ってあげたい。骨くらいは残ってないだろうか?
そう思った風丸は台所中をくまなく探し始めた。研崎は大量のスープを食べることに集中していたため、台所には来なかった。


ゴミ箱に不自然な黒い袋を見つけた。取り出して中を見ると小さな白い石のような物がたくさん出てきた。

――いや、石ではない。骨、だ――

原型の無いくらいこなごなにされていて、恐怖を感じた。

――あんなに優しい研崎様が、どうしてこんな残酷な事を!…今は研崎が来る前にここを離れなくては、――

風丸は研崎にバレないよう、黒い袋を持ち出し裏口から外に出た。
そしてどこにお墓を作ろうか迷った。
だが墓など形のあるものを残せば研崎にバレてしまう。

仕方なく、庭にあるネズの木の根元に埋めることにした。
庭にある木の中では一番立派で綺麗な木だったからだ。







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