▼ボスと戯れ


「っ痛、」
「我慢しろ」
「この鬼!アクマ!吸血鬼!」

 これが快感に感じるだなんて本当に信じられない。痛いし、当然だけど血を抜かれてる感覚は献血と同じようなものだ。あと、牙を抜かれた瞬間は血が出るから服が大変なことになるし、ヒリヒリ痛い。ギッと睨みつけたけどXANXUSは素知らぬ顔。悔しいからその口からちょっと血が溢れてることは教えてやんない。
 恋人であるXANXUSに血を吸われる行為は決して好きではない。それだけは言っておく。今日だってもう止めてって言ってるのにいっぱい吸ってくるものだから私はもう瀕死状態だ。貧血になって倒れたらどうしてくれる。

「死んじゃうんだけど!」
「死なねえよ。死んだところでてめえも吸血鬼の仲間入りだ」
「嫌ー!! 私は人間で死にたいの! しかも仲間入りっていうか下僕になるだけじゃん!」
「今と大して変わりねえ」

 XANXUSのことは好きだ。大好きだ。だけどそれとこれとは話が別で私はまだ死にたくないし吸血鬼にもなりたくはない。いずれ恋愛感情が変化してXANXUSと永遠を共に過ごすことを望むかもしれないけど、今はそこまで考えられやしない。
 そう、吸血行為で死んだ場合にのみ私はXANXUSの眷属となるらしい。らしいというのはもちろん本人から聞いただけだからだし、私自身まだ人間で未経験だからだ。その辺うまく調整しているのか確かに死にかけるほど飲まれたことはない。…今のところは。

「イテテ。…ねえ、そんなに血って美味しいの? XANXUSが普段食べてるお肉とかより」
「それはねえ」
「え!?」

 衝撃的な否定である!
 なんてこった、こんな頻繁に吸われるものだからさぞ美味しいものかと思っていたらそうじゃないらしい。いや、XANXUSが普段から食べてる食事はとんでもなく美味しいのを私も知っているのでそう強くは言えないし納得もできるといえば納得もできるんだけど…。
 ぐぬぬ、と唸っているとXANXUSはハッと鼻で笑う。きっと私の心の中が読めるに違いない。吸血鬼だから。吸血鬼が人の心を読めるかどうかは知らないけど。

「……何しやがる」

 腹立たしくてXANXUSの口にこびり付いた血をぺろっと舐めてみた。が、そういえばこれは私の血。特に味もなければ私の身体の中に戻ってきただけという誰にも得もない悲しい事実。まあXANXUSの驚いた顔が見れたのはいいことだけど。
 ガッと伸びてきた腕にあっさり捕まりXANXUSの膝の上に乗せられると目元を細め、笑う。凶悪な顔だ。だけどこの世で一番危うく、安全な場所だ。

「もう一度よこせ」
「ぜっっったいに嫌!!!」

 これはたぶん、でもなく確信だけどXANXUSは私の反応を面白がってるのだ。恋人のことを何だと思ってるのかとも怒ってやりたい。…ところだけど。
 もう一度睨みつけてみるけどXANXUSはいつものように口元を歪め、私を見るだけ。きっと楽しんでいるだけなのに。かっこいいんだよなあ、となんだかんだ許せてしまうのはもうこれは惚れた弱味なのである。

「今日はもうおしまい!」

 明日もきっと血をねだられるだろう。
 そして私はまた、嫌だ嫌だと言いつつ吸われて、こうやってくっついているんだと思う。そう思うとちょっと痛いけど悪くない日々だなあとも感じてしまうのだ、残念ながら。
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