「黙ってついてこい」

「今日はお休みのはず、だったんだけどなあ」

 土日が休みの学生にとって休日とは心身ともに休める大事な二日間である。
 時間は有限であるとその休みを友人との遊びやお出かけに当てる人もいるんだろうけど私はできるだけ外に出たくない派。要は引きこもってひたすら好きなゲームや漫画に費やしておきたいと思う派なのであった。
 それがどうしてこんな人の多いショッピングモールにいるのか。それはもう犯人はこの人。――爆豪勝己くんである。

 勝己くんは私のお隣に住む、弟のような存在だ。三つ下の幼馴染みたいなもの。幼稚園や小学校のときはよく一緒に遊んでいたんだけど勝己くんが中学生になる頃には高校生になっていたし、彼が高校になる頃には大学生になってた私はあまりこの子の学生生活を思い出すことができない。高校も違うしね。だから横で大人しく歩くこの大きな人が昔はランドセルを背負ってかけ走っていたんだなということがあまり信じられない。

「本当に、大きくなったねえ」
「ババアみてェなこと言うンじゃねえ」
「こらこらお口が悪いですよ」

 相変わらずなのでちょっと安心してるけど。
 何しろ勝己くん、あの雄英高校に受かったそうだ。私も先日まで知らなかったんだよね。あと勝己くんも時間のせいかなかなか会わなくなったから余計気付かなかった。と、思ったらなんと寮生活だとか。そりゃすごいわ。さすが雄英高校、設備もいろいろ整っているんだろう。
 私の中で雄英高校ってのはかなりのエリートっていう位置付けだ。もちろん勝己くんが優秀なのは知ってたけどまさかそこまでだっただなんて。

 そんな寮生活の爆豪くんが突然私の家のインターホンを鳴らしたかと思うと「付き合え」と言われ、スウェット姿からしぶしぶ着替えさせられたというわけである。
 近くのショッピングモールだから普段ならあんまり気にしないんだけど爆豪くんが小綺麗な格好をしているので私も合わさざるを得なくなってしまったのだった。

「見てほら勝己くん、あの漫画映画化だって」
「そうかよ」

 何かを買うために、というよりは暇つぶしに足を運んだ感が強い。勝己くんも特に何かを買うわけでもなく、私が興味を持った店に入ったりして結局私がちょっと必要なものを買うだけだった。ほら化粧品とかさ、文房具とか、あと漫画とか。ところどころで話を振ってみたけど相変わらず軽くあしらわれるというか、さほど興味もなさそうな相槌で帰って来るけどこれも勝己くんなりに話をぶった切らないようにしてくれているという優しさだと信じているのであんまり気にはしていない。そもそも私のことが嫌いだったりなんだったりしたら多分今日だってこんなお誘いはなかっただろうし。

「勝己くん、何も欲しいものないの?」
「ねェ」
「そっかあ。じゃーちょっと私の買い物付き合ってね」
「仕方ねェな」

 ちらり、とバレないように半歩前を歩く勝己くんの横顔を見上げてみた。元々容姿は整っていると思っていたけど高校生活がハードなのか精悍な顔立ちだなと思う。あと服を着込んでいても鍛えてるんだろうとわかる体格。中学の制服、もう入らないんだろうなあ。幼さはとっくに消えている。
 ぴたりと勝己くんの歩みが止まった。かと思うと不審げな表情で私のことを見る。どうやら盗み見していたことがバレていたらしい。何も用事はなかったんだけど。勝己くんの顔を見たかっただけなんだけど。きっとそんな言い訳をしたらこのショッピングモールにいる人たちもびっくりするような大きい声で怒られてしまうんだろうなあ。

「お前は鈍臭ェから余所見すんな」
「…はあい」
「黙ってついてこい」

 あれ、怒られなかった。というかむしろ注意されてしまった。それだけ言うとまた勝己くんは前を向いてずんずん歩き出す。その歩き方が相変わらずで笑ってしまう。…それにしても、ついてこい、だって。昔は何だかんだついてきてたのは勝己くんの方だったのにそれはちょっとだけ寂しいけど。でもそのセリフ、今の彼にはお似合いというか本当に頑張って歩かなきゃ置いていかれそうな気もする。
 まあ、私に合わせてゆっくり歩いてくれているのは知ってるんだけどね。
 いつの間にか格好よく育ってしまった幼馴染に「はーい」と再度返事をし、私は勝己くんの横を一生懸命足を動かした。

 このあと、帰り際に告白紛いのことを言われるなんてもちろんこの時の私は知る由もない。

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