「一生好きだわ」

 今、なんて言ったんだこの人。
 私の脳は完全に思考を停止し、とんでもない爆弾発言をしてくれた人のことを凝視した。いや向こうも頭に血が上っているのだろう顔が真っ赤だったし、けれどその割には目が据わっている。あ、これあとで殺されるやつだ。というか今すぐ殺されるかもしれない? いやでもここ教室だから大丈夫だよね。あ、そういえば今、ここにはA組の全員がいるんだけどどうしてくれようか。

「あ、あの、…爆豪くん?」
「ンだてめえ! まだ信用ならねえってのか!」
「ヒッめっちゃ怒ってるこっわ!!」

 どうしてこんなことになってしまっているんだろう。私はさっきまで耳郎ちゃんと昨夜のドラマについて熱く討論していたはずだった。寮生活になってしまった今では夜中に出歩くことは許されていないので必然と自室ではゲームかテレビか、或いは友人と電話やメッセージを送りあうぐらいしかなくなってしまう。一部ではトレーニングをするという変態もいるって聞いたことあるけどだいたい2、3人は安易に予想が付くので放っておく。
 となれば、だ。厳しすぎる授業に慣れてきた私たちの話題は授業の愚痴から段々毎週放送されるドラマやバラエティの感想、面白かった雑誌といういたって普通の学生が話すだろう内容と大差ないものになっていくというわけ。そして昨夜、毎週追っていたドラマが堂々と完結しその感想を熱弁していたのである。内容はありきたりといえばありきたり。ヒロインの周りに突然やってくる幼馴染、学生時代の元カレ、会社の同僚、それから1話目で出会った謎の男。イケメン4人に代わる代わる口説かれる様に毎週胸をときめかせていたんだけど最終的にヒロインは謎だった男を選ぶっていうストーリーだ。ちなみに私は幼馴染を応援していたんだけどあまり人気はなかったよう。何でなんだろうなあ…と考えていたところ、最終的にはアピールが足りなかったんだという結論に落ち着いた。

「好きならちゃんと言ってくれないと困るよね」
「あーユリカはそんな感じなんだ」
「だって言葉にしてくれないとさあ、不安になるわけだし。たまにいるよね、口にしなくても察してくれよみたいなやつ」

 実際ドラマじゃヒロインは幼馴染の健気な恋愛感情には気付いていなかったし。鈍感というわけじゃなく、私がヒロインになっても同じだっただろう。泣いているヒロインに付き添ったり『困っているときは電話してよ』って言われただけで好意があるんじゃないか、なんて疑うことは私にはできないわけだし。

「そんなの向こうの勝手じゃん? こっちは知らないし。好きなら好きって言ってくれないと分からないしさあ」
「ユリカ、ストップ」
「幼馴染だからってその辺許されると思ったら大間違いなんだよね」

 あー本当に応援していたんだけどなあとちょっとへこんでたら耳郎ちゃんがちょっと青ざめた顔をしてこっちを見ていた。そんなに私ひどい顔をしているんだろうかと思ってポケットから鏡を出したら私の後ろに般若が映っていた。

「おばっ……けじゃなかった、爆豪くんか」

 心臓が口から飛び出るかと思った。ギョッとして椅子から立ち上がって振り向くと爆豪くんはまだ俯いたまま。何かあったのかと思えば次の瞬間口にしたのは冒頭の言葉だというわけだった。

 本当に、どうしてこうなってしまったのだ。

 どうして爆豪くんが突然愛の告白をしてきたのか。私と爆豪くんが付き合っているのは内緒のはずであり、そもそも爆豪くんが面倒くさいからそういうのは大っぴらに喋るなって口止めしてたから私はちゃんとそれを守り誰にも言ってこなかったというのに。
 後ろで耳郎ちゃんが固まっている。向こうでは上鳴くんがヒュウッと器用に口笛を吹いてこっちを見ているのが分かる。私の個性ではこの状況をどうにかすることはできないのが非常に悔やまれる。できれば今すぐテレポートしたい気分。もしくは時間を巻き戻すか。それか皆からこの数秒間の記憶を消してしまうか。もちろんどれも私にはできず、ただあたふたと爆豪くんをこれ以上喋らないようにするのに精いっぱい。

「爆豪くん! 爆豪くんもドラマ見たのかな!?」
「は? ンなもん知らんわ」
「あ、そうなんだー。私はね、」
「つうか今の会話なんだ!!」

 やめてやめて! これ以上話をややこしくしないでください!!
 どうやら爆豪くん、耳郎ちゃんとの会話を耳に挟んだもののドラマの話ではなくリアルの愚痴だと思ってしまった模様。どうしようもねえ。ドラマの話だよって聞いてもくれない。それに、ここでそんなことを喋ったとして今の爆豪くんには言い訳だとか話を逸らされたとぐらいしか思われないに違いない。

「分かった! 爆豪くん分かったから!」

 爆豪くんは怒り心頭、私は泣き顔。これ爆豪くんが落ち着いたとしても後から責められるのは私なんだろうなあ…ややこしいこと言ってんじゃねえよ! みたいな。あ、今の爆豪くんの物真似ソックリだった気がする。
 どちらにしろ怒られるならこれ以上爆豪くんがトンデモ発言をするのを防ぐのが1番良策である。そう信じ、私は爆豪くんの腕をつかみ強引に教室をあとにする。本当にこれが放課後でよかった。昼休みだったら授業があるからあの地獄の教室に居続けなきゃならないからね。
 ずんずんと歩いていくと爆豪くんは未だ訳の分からないという顔をしながら、だけどちょっとは落ち着いたようで私のあとをついてくる。

「どこ行くんだ」
「とりあえず私の部屋! ああもう、こんなタイミングで来てほしくはなかったんだけどね!!!」
「おいそりゃどう意味だ!」

 本当にどうしてくれようか。ニヤニヤしていた皆の顔が忘れられない。…まあ、言葉は確かに嬉しかったしあわよくば録音しておきたかったかなとは思うけど怒声は勘弁だし、私1人だけで聞きたかったよ! 部屋だってもっとこんなことがあるって分かってたら掃除しておきたかったのにゴミ山みたいなところに連れていくのは気が引けるんだけど。
 というか明日登校しにくいんですけど!! 爆豪くんのバカ! 好き!

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -