???の発言

 本日は晴天。柔らかな日差しと穏やかな風が吹く中、今日も今日とて冒険者たちは旅を続ける。
 ここはもしも損壊があったとしても日付の変わる0時に起きる不思議な現象・ワールドリセットによりNPCと建物が復活する世界。例えどんな悲惨な事故や事件があったとしても、生きた人間やモンスター以外のモノが全て元の通りに巻き戻される世界だ。

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」
「お、まだあったか。オレも冒険者を始めたとき、この町のこいつを見て安心したんだよなあ」

 人の居なくなったナミモリにはやがて冒険者たちが集まっていく。戻ってくるのではない。何故ならばこの町は始まりの地として新米冒険者には大人気であるからだ。周りにはそう強くもないモンスターに、武器屋に行けばNPCが安値で最低限の装備を売ってくれる。簡単なクエストやイベントも専用のNPCが初心者向けのものを豊富に用意してくれる。そんな土地なのである。
 しかしそこにはかつて居た住人は誰一人存在しない。ただNPCが居るだけ。だがそれでも人間の社会は変わることはない。ただ冒険者はここを通り、ただクエストやイベントを受けるだけ。それだけであれば町人という存在は不要なのである。しばらくすれば人はまた集まってくる。生きた人間が誰も居ないここに新しく居を構える人間がやって来るのもそう遠い話ではないだろう。

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」
「こんにちは!ってなんだ、案内NPCかよ。あ、そうかここには人、居ないんだっけか」

 新米冒険者が不安そうな面持ちで赤い瞳のNPCを見上げ、ようやく着いたと安堵の息を吐く。だがこれで終わりではない。冒険者にとってはスタート地点でしかないのである。町人として生まれたもののその在り方に異を唱え、住んでいた場所や家族など全てを放り投げて旅を続ける人間たち。それが冒険者である。そしてそんな外部からやって来た彼らに対し歓迎の言葉を告げ、町の名を紹介する役割を担っているのが案内NPCだ。
 彼は1人やって来てNPCの言葉を耳にすると瞬く間に破顔し、先ほどまで溜まっていた疲労はどこへやら、猛スピードで町の中へと駆けて行く。

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」
「おー、やっと着いた!みんな、早く早く!ここからオレたちの冒険が始まるんだって!」
「オレは格好いい戦士になりたいなあ。適正、あったらいいなあ…」

 NPCはただ同じ言葉を紡ぐためにある。ただ人間が目の前を通った際、決められた言葉を発するだけの機械人形だ。
 彼らは3人だった。白いワンピースが映える、黒く長い髪をしたNPCが緩やかに彼らを迎える言葉を唱えると緊張した様子でこれからのことを相談をし始める。適正があった職業でなければならない、ということはもちろんないのだがやはり適正アリと診断された方が嬉しいのだろう。本人たちが思い思いにあげる職としてはタンク、ヒーラー、アタッカーが1人ずつ。決して悪い構成ではない。どうか適正ありますように! そんなことを大声で願いながらまっすぐ冒険者ギルドへと足を運んでいく。

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」
「お邪魔します! …はあ、緊張するなあ。いい術士になれるといいんだけど」

 時が経ち、新米冒険者が次々とやって来る。
 ナミモリが一度滅んだという話が各地に広まったため、新しく冒険者を始めようという人間がなかなかこの町を訪れることができなくなってしまったのが理由である。しかしもうその心配もない。そういう噂が流れれば一度足止めを食らってしまった新米冒険者たちが動き始めるのも当然なわけで。
 町人が居れば冒険者だらけのこの町を煩わしいと思うだろう。しかし、今はそんな人間もいない。ただ冒険者をサポートするNPCがそこに在るだけだ。彼らは意志を持つことはない。彼らは決して感情を覚えることはない。朝だろうが深夜だろうが決められた役割を果たすだけ。それが機械人形であるNPC、この世界の多々ある主要町に数多く配置された彼らの仕事なのである。

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」
「こんにちはNPCさん。私、地方じゃとれなかった美味しい食材を探したり、知らない街並みを見たり、見たことのない冒険をしたいと思ったの。…だから、私、がんばるね」

 NPCはただ機械的に言葉を発するだけ。決められた言葉を決められた通りに話すだけであり、ただ5秒に1度、申し訳程度にパチクリと瞼を閉じるだけ。話すときには一応口がパクパクと開いてはいるものの呼吸は一切していないとわかる何も動かない肩。動きも設定されているのだろうか、スカートの両端を指先で掴みわずかに屈むその様子はまるで生きた人間のようであった。もっともその赤い瞳はNPCの証拠である赤い瞳を有しているのだが。
 町案内専用、純サポート型NPC。世界で1番と言っても過言ではなく多数の冒険者と話す機会のあるNPCだ。冒険者の始まりの地、そしてその町の端にいるNPCは今日も今日とて新米冒険者に対し笑みを浮かべ、決められた言葉を紡ぐのみ。



「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

「あなた冒険者ね?ナミモリへようこそ!何もない町だけどゆっくりしていってね」

「あなた、…………………………………………………………………………………………………………………………………………っ」



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