11月11日
「今日はポッキーの日なんだって」
そう言ったのは別に何の意図もなかったということだけまずは説明しておく。
たまたまお菓子を食べたい気分だったからコンビニに行っただけだし甘いものが食べたかったなと思っただけ。そうしたら初めに目に付いたのがポッキーだっただけ。嬉々として購入して袋を破いて次々と口に放り込みながらツイッターを開いていたらたまたまタイムラインに今日がポッキーの日であると流れてきたからそれを読上げただけなのだ。
「菓子会社の策略だろ」
「だよねえ、上手いことやってると思う。でも毎年この辺りは売上もあるんじゃないかなあ」
可愛げがない返事だとは思うけど私だってそう思う。コンビニやスーパーに行けばお手頃価格で買えちゃうのだ、とりあえず買っておくかみたいなノリで手を伸ばす人もいるに違いない。ポリ、ポリと一本ずつ少しずつ口に突っ込み、薄くコーティングされたチョコレートの甘さを堪能する。
雄英に入り寮生活になった途端私の生活はめちゃくちゃ変わってしまった。コンビニなんてものは近くになく、許された自由時間で買いに走るか購買にあるもので全てを賄わなくちゃならなくなった。
何でもかんでも自由だった中学時代とは一転、ずいぶんせいげんがはいるようになったけどこればかりは仕方ない。この手元にあるポッキーはそんな自由な時間でどうにか手に入れた言わばお宝なのである。ならば私はそれを美味しくいただかねばならない義務があるのだ。
……なあんて目の前の人に言ったって通じやしない。何でもそうか、そうかって話を聞いてくれる轟くんではなく相手は爆豪勝己。むしろ私しかいない談話スペースで、しかも目の前のソファによくぞ座ったなって思うし話しかけても言葉を返してくれたなって感動さえしている。明日は槍が降ってくるかもしれない。彼に対する私の評価はそんなものだ。
「食べる?」
「あ?」
「デスヨネー」
まあ、知ってたけど。話しかけたからには断られるなと思っていても聞いてみなければならないという謎の義務感があった。これが2つしかないお菓子だったりしたら話は別なんだけどね! あ、これはケチとかじゃないです。決して。
というわけで相手にしてもらえないだろうなと思いつつ提案し、予想通りの反応をいただいたところで笑ってしまった。やっぱりね! 向こうは何だか辛そうなの食べてるし甘いものなんて興味もないか。
「おい」
だから反応が遅れた。だから、爆豪くんが私に声をかけたことに気付くことなく私は携帯を片手にお菓子を食べ続けていたと言うのに。手元の携帯画面の上に落ちる影。それと視界に入る誰かの足。ハッと気付いた時には既に遅く、見上げるとそこにはポケットに手を突っ込んだ爆豪くん。笑った顔なんて見た事はない。いつも怒ってるようなイメージで、最近はまあそれが平常運転だと思っていたんだけどそれとはまた違う表情のようにも見えて。え、私何か気に食わないことしたっけ。え、私喧嘩売られているんだろうか。
どうしても動けなかったのは怖かったからなんじゃない。ここで本人に伝えたらきっとめちゃくちゃ怒られるんだろうけど――あ、この人実は黙ってたら格好いいんじゃないかなって思ってしまったから。
「ど、したの?」
かすれた、情けない声。心の中では怖がってるわけじゃないんだよごめんね! っていつもの私が謝ってるんだけど当然彼に聞こえるわけがなく。これは完全に私の失態だ。失礼でしかない。怒られたら嫌だなあと思いつつ私は彼を見返すだけだ。
だけど爆豪くんはそれに答えることはなかった。黙ったまま私をじっと見下ろしているだけ。やがて何も言わないその代わりに彼はそのまま膝を曲げ、私の座っているソファの背に手を付き、
――手元にあるポッキーをパクッと食べた。
「甘え」
「……や、そりゃチョコレートだし」
どうやらポッキーが気になっていたらしい。なら言ってくれたら喜んで差し出したって言うのに! 私の驚きと少しのときめきを返して欲しい。文句でも言ってやろうかと思ったけど相手を思い出した。彼は今非常に大人しいけどあの爆豪勝己だ。何があるか分かったもんじゃない! ブンブンと首を横に振って私は残りのポッキーを口に詰める。
そんな様子を見た彼が笑っていたことなんて当然私が気付くはずもない。「クソ鈍感野郎」と彼らしからぬ小さな声でトンデモナイことを口にしたことなんて私が気付くのはなかったのだった。
-TOP-そう言ったのは別に何の意図もなかったということだけまずは説明しておく。
たまたまお菓子を食べたい気分だったからコンビニに行っただけだし甘いものが食べたかったなと思っただけ。そうしたら初めに目に付いたのがポッキーだっただけ。嬉々として購入して袋を破いて次々と口に放り込みながらツイッターを開いていたらたまたまタイムラインに今日がポッキーの日であると流れてきたからそれを読上げただけなのだ。
「菓子会社の策略だろ」
「だよねえ、上手いことやってると思う。でも毎年この辺りは売上もあるんじゃないかなあ」
可愛げがない返事だとは思うけど私だってそう思う。コンビニやスーパーに行けばお手頃価格で買えちゃうのだ、とりあえず買っておくかみたいなノリで手を伸ばす人もいるに違いない。ポリ、ポリと一本ずつ少しずつ口に突っ込み、薄くコーティングされたチョコレートの甘さを堪能する。
雄英に入り寮生活になった途端私の生活はめちゃくちゃ変わってしまった。コンビニなんてものは近くになく、許された自由時間で買いに走るか購買にあるもので全てを賄わなくちゃならなくなった。
何でもかんでも自由だった中学時代とは一転、ずいぶんせいげんがはいるようになったけどこればかりは仕方ない。この手元にあるポッキーはそんな自由な時間でどうにか手に入れた言わばお宝なのである。ならば私はそれを美味しくいただかねばならない義務があるのだ。
……なあんて目の前の人に言ったって通じやしない。何でもそうか、そうかって話を聞いてくれる轟くんではなく相手は爆豪勝己。むしろ私しかいない談話スペースで、しかも目の前のソファによくぞ座ったなって思うし話しかけても言葉を返してくれたなって感動さえしている。明日は槍が降ってくるかもしれない。彼に対する私の評価はそんなものだ。
「食べる?」
「あ?」
「デスヨネー」
まあ、知ってたけど。話しかけたからには断られるなと思っていても聞いてみなければならないという謎の義務感があった。これが2つしかないお菓子だったりしたら話は別なんだけどね! あ、これはケチとかじゃないです。決して。
というわけで相手にしてもらえないだろうなと思いつつ提案し、予想通りの反応をいただいたところで笑ってしまった。やっぱりね! 向こうは何だか辛そうなの食べてるし甘いものなんて興味もないか。
「おい」
だから反応が遅れた。だから、爆豪くんが私に声をかけたことに気付くことなく私は携帯を片手にお菓子を食べ続けていたと言うのに。手元の携帯画面の上に落ちる影。それと視界に入る誰かの足。ハッと気付いた時には既に遅く、見上げるとそこにはポケットに手を突っ込んだ爆豪くん。笑った顔なんて見た事はない。いつも怒ってるようなイメージで、最近はまあそれが平常運転だと思っていたんだけどそれとはまた違う表情のようにも見えて。え、私何か気に食わないことしたっけ。え、私喧嘩売られているんだろうか。
どうしても動けなかったのは怖かったからなんじゃない。ここで本人に伝えたらきっとめちゃくちゃ怒られるんだろうけど――あ、この人実は黙ってたら格好いいんじゃないかなって思ってしまったから。
「ど、したの?」
かすれた、情けない声。心の中では怖がってるわけじゃないんだよごめんね! っていつもの私が謝ってるんだけど当然彼に聞こえるわけがなく。これは完全に私の失態だ。失礼でしかない。怒られたら嫌だなあと思いつつ私は彼を見返すだけだ。
だけど爆豪くんはそれに答えることはなかった。黙ったまま私をじっと見下ろしているだけ。やがて何も言わないその代わりに彼はそのまま膝を曲げ、私の座っているソファの背に手を付き、
――手元にあるポッキーをパクッと食べた。
「甘え」
「……や、そりゃチョコレートだし」
どうやらポッキーが気になっていたらしい。なら言ってくれたら喜んで差し出したって言うのに! 私の驚きと少しのときめきを返して欲しい。文句でも言ってやろうかと思ったけど相手を思い出した。彼は今非常に大人しいけどあの爆豪勝己だ。何があるか分かったもんじゃない! ブンブンと首を横に振って私は残りのポッキーを口に詰める。
そんな様子を見た彼が笑っていたことなんて当然私が気付くはずもない。「クソ鈍感野郎」と彼らしからぬ小さな声でトンデモナイことを口にしたことなんて私が気付くのはなかったのだった。