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 パシン、パシン。乾いた音が鳴る。こんな無音の空間に何故、と思うけれどどうやらそれは相対している相手から発生しているようだった。
 クルン、鈍い色をした彼の得物がまるで生きているかのように軽やかに彼の腕をぐるりと一周し、そしてそれを彼の骨ばった指が器用にキャッチする。ああ、それは私の生命のカウントダウンなのか。こちらの息が整うのを待っているかのように。
 かの獣はどうやら私という獲物が弱るところを仕留めるというよりは私の体調が万全であるところを捻り潰したいらしい。ああ、これは逃げることもできないだろう。そう思えるほどのギラギラとした瞳、そしてうっすらと弧を描いている口元。
 ごくり、唾を飲んだのはそれがとても艶めかしかったからなのか生命の危機を悟ったからなのか自分でも分からない。ただ、この美しい獣に喰らい尽くされるなら本望だと言えよう。奇妙な高揚感と共に、私も得物を構える。

「覚悟はできたかい」

 どことなく嬉しそうな声がこちらに投げかけられた。

(美しい獣)
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