「……何で分かったんだ」
「ん?逆に聞きたいけどどうして分からないと思ったの?」

 沢田綱吉という人間は、他人に関しては敏感だったりお節介だったりするくせに自分のこととなると恐ろしいぐらい鈍感になるという典型的なお人よしタイプだと見える。どうして私がわからないと思ったのかなあ、この子は。どうしてこんな感じに素直に育っちゃったのかなあ。何を食べればこの私の幼馴染のようにこんなに可愛くなれるか本当に誰か教えて欲しい。

 そもそも怖がらず周りのことを探っていれば名探偵じゃなくたって分かるわけだ。
 最初は京子のお兄さん、それから獄寺くん、山本くん。黒曜生に喧嘩を売られた先月の事件のときも確か私の知り合いで最初に襲撃にあったのは京子のお兄さんだ。元々喧嘩するようなタイプでもないのにここ最近はどうにもおかしいと私以外の人間でも思うに違いない。
 お兄さんが突然学校に来なくなった。と思えば上記の面々、及びツナも登校することなく何処かに行っているらしい。余談だけどツナの誕生日、私はケーキを用意して部屋で待っていたのに夜になっても帰ってこなかった。ムカついたから全部ツナの部屋で食べてゴミを部屋においてあるゴミ箱に捨ててやった。未だに何も言ってこないんだからもしかすると気付いていないのかもしれないけど。

 嫌な予感はプンプンしたね!またあの時と一緒なのかもしれないって。黒曜生と喧嘩しに行ったらしいという噂を聞きつけて奈々さんに聞いたあの日もそうだ。帰ってきたらいつの間にか入院してるし、気が付けばどこか卑屈でクラスのダメツナと呼ばれている幼馴染は居なくなってしまっていた。
 あれからまた平穏が戻ってきたと思っていたのにまたこれだ。また彼らの姿が消えた。それなのにツナだけが無事とかそんな訳ないでしょうが。


「お前だけには見つかりたくなかったんだよ」
「どういう意味さ。別に邪魔しようとかそんな事思ってないんだからね」
「…そういう訳じゃなくて」

 奈々さんに聞けば全部理解した。今はリボーンくんによる修行を受けているんだと。ランボくんという同居人も怪我をしただとか言ってたけど、それって間違いなく一人ずつ何か起きてるって訳で。
 ピリピリと緊張が高まっていく中、私は唐突に理解する。よくわからないけど、ツナがもうじき”その時”なんだと。

 確かにさ、ツナは強くなったよ。

 昔は隣の家の泣き虫の少年って感じだったのに、中1の時もまだダメツナだったっていうのに。少し変わったかなと思ったのはリボーンくんが来てからだ。
 その影響かは知らないけど友達が出来て。不良みたいな子がツナに懐いて、しかもあの雲雀さんとも喋ってるとなるともう私はびっくりしたね!本当にこれがあの沢田綱吉なのかと何度も疑ったよ。

 だけど、…何というのかな。人の為には傷ついたって立ち上がる姿、それはいつのツナでも変わらなかったんだ。


「応援しに来たの」
「はあ?」
「だから、負けるなって活を入れに来たの」

 そう言うとツナったらきょとんと目を丸くして私を見返す。
 まさかここで応援されると思っていなかったのか、こんな夜に何処行くのと問い詰めに来たのかと思ったのかもしれない。どこまで知っているかと聞かれれば何も知らないけど、こう見えてアンタの何年幼馴染しているのかって話ですよまったく。本当に大事な日って、いつもアンタ、何も言わずに飛び出るから。

 手を広げてツナの前にかざす。相変わらずどうしていいのか分かっていないという様子でこっちを見るものだから私まで恥ずかしくなってきちゃう。


「手!」
「あ、うん」
「……」

 私としてはハイタッチをしたかった訳だ。
 格好よくハイタッチをして「行ってらっしゃい」って見送りたかったというのにこの鈍感は何も理解していなかったらしい。誰がその手を絡めて握るなんて思おうか。私の方がびっくりしてしまったじゃないか。
 もう何だか突っ込む気すら失せて笑ってしまう。
 あーうん、そうだね。ツナはそういう奴だった。そもそもハイタッチするような友達も最近は出来たけど慣れていないもんね。


「負けたら休んでた間のノート貸してやんない」
「え」
「怪我もあんまりしないこと」
「…がんばる、けど」
「勝ったらすぐ報告すること」

 わかった?と首を傾げて見上げてみれば、ツナは珍しく真面目な顔をしてうん、と大きく頷いた。
 久し振りに繋いだツナの手はいつの間にか私の手よりも大きくなっていた。いじめっ子から守ってあげてたのに、いつの間にか私よりも強くなっちゃったんだね。男の子の成長は早いって奈々さんが言っていたけどツナの場合は全速力過ぎたんじゃないかな。

 だから、私は少しさびしいけど。
 連れて行ってほしいと言いたいけれど。


「行ってくる」
「頑張って」

 待てる女は魅力的なのよと奈々さんが言っていたから私はそれ以上何も言わずににっこりと笑みを浮かべるだけだ。大丈夫かな?私、ちゃんと笑えているだろうか。そんな私の表情をツナはどう受け取ったか分からないけどうんと再度頷きこちらに背を向け駆け走る。

 …ツナがどこまで走って行っても、帰ってこれる場所がここにあるから。 

 帰ってくる場所すら見つけられなさそうなドジな幼馴染の為に、私はここで君を待つよ。
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