手を洗って、夜ご飯を食べて、少しだけデザートも食べた後、任務へ行く準備をする。そしてその準備を終わらせた後が私にとって肝心。時間にして15分ほどのこの時間が、今の私にとって最も幸せな時間だ。

携帯を取り出して、電話帳のとある名前を押す。そのまま携帯を耳にまで持っていくと、コール音が三つ。そのコール音が消えて聞こえた音は、心地のいいハスキーボイス。私は思わずにこりと笑った。


『よお』

「おはよう、スクアーロ」

『イタリアはまだ夜中だろお』

「日本はもう朝でしょ?だからいいの!」


遥か遠い島国にいるスクアーロと繋がれるこの時間が、私は大好きだ。

彼は今リング争奪戦という、次期十代目とその守護者を決めるための戦いをしに、日本へと旅立っている。私は幹部ではあるものの、せいぜい中将止まりなので一緒に行くことは叶わなかったが、遠いイタリアの地から皆を応援している。

他愛もない会話を少しだけした後、私たちはいつものように愛の言葉を交わす。


『今日も愛してるぜえ』

「私も愛してるよ」


お互いに愛を囁けば、なんとなく心にじわっと温かいものが滲む。会えないのは寂しいけれど、この一言だけでまた一日が頑張れる気になるのだ。スクアーロもそうやって思ってくれていたら嬉しいけれど、ボス命の彼だから望みは薄いかもしれない。でもそれでも、私にとっては幸せなことだ。

そこから少しだけリング争奪戦の話をする。こっちにも情報は逐一流れてくるから、昨日の戦いでベルが勝って、ヴァリアー側がリーチ状態だということは知っていた。そして今日の戦いが雨戦で、スクアーロが戦うのだということも。


「調子はどう?」

『ばっちりだあ』

「勝てそう?」

『俺が一般人まがいのガキになんざ、負けるわけねえだろ』

「あはは、自信家だねえ」

『う゛お゛ぉい、そんな俺は嫌いかあ?』

「冗談、愛してるに決まってんじゃん」


だろうなあ、なんて、まったく自信家にも程がある。もちろんそんな彼だからこそ私はスクアーロのことが好きなのだけれど。

スクアーロの剣の腕は、見惚れるほど素晴らしい。私は剣士ではないから細かい技術や詳しい解説はできないけれど、どんな力を持ったやつでもひれ伏させるほどの圧倒的な強さが彼にはある。それだけは同じ暗殺者として分かる。私は実力に見合わない自信を持つ男は嫌いだけれど、スクアーロの実力が自信に見合うことくらい言うまでもない。そんな彼の隣りに立てることが、私の何よりも気高い誇りなのである。

けらけらと笑ったり、愛を囁いたり。そんなことを繰り返しながら、時間は過ぎていく。15分というのはとても短い時間だから、電話を切る時はいつも少しだけ寂しい。


『そろそろかあ?』

「うん。スクアーロ、頑張って勝ってね」

『当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる』

「帰ってきたらいっぱいサービスしてあげるからね、えっちなこと含め」

『う゛おい、それは楽しみだなあ。言ったこと後悔すんじゃねえぞ!』

「えへへ」

『腰が砕けて立てねえってなるまで食い尽くしてやるからなあ!』

「いいよ、今回は許してあげる!」


だから早く勝って早く帰ってきてね。そうやって言えば、スクアーロは電話越しに笑った。


「じゃあ、行ってらっしゃい」

『おう、行ってくるぜえ』


そうして切れた電話の音は、とても虚しいものだった。でも、きっとスクアーロは勝利を収め、みんなは明日か明後日には帰ってくるのだろう。だから何も寂しいことなんてない、とまでは言えないけれど、楽しみにして待つしかない。

明日の電話で行われるであろうスクアーロからの勝利報告を楽しみに、約束してしまったサービス内容を少しだけ考えながら、私は任務に臨むのだった。
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