先生の話を聞きながらノートに書き込む。いつもなら集中してできるこの作業が、ここ一週間は他のことに気を取られておろそかになっている。それでも最低限のことは書いておかなければならないので、考え事の合間にしてはいるのだが。

さて、その考え事というのは、私の斜め前に座っている幼馴染、綱吉のことだ。綱吉だけでなく山本や獄寺も参加しているリング争奪戦。これが私の集中を妨げている。この争奪戦は命を賭けたボス争い、というのは綱吉とリボーンから聞いた。それから昨日の雲戦で何があったのかも。だから今日が大空同士の戦いということも知っているのだ。

ちら、と綱吉の方を向くと予想通り授業に身が入っていないように見えた。いつもだろうと言われれば否定はできないが。それでもやはりいつもとは違うように見えた。

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授業がすべて終わり各々が帰る支度をしたり部活動に行き始める。私も教科書とノートを鞄に入れて下校の準備をしていた。

「ナマエ、帰ろう」

綱吉に話しかけられ、うん、と答えながら、こうして一緒に帰るのも一週間ぶりだと思った。いつだったか綱吉に“ナマエといると、何ていうか落ち着くんだよな”と言われたことがあるが、私も同じだったらしい。綱吉がいるというだけで安心、というか気持ちが晴れるのだ。


「あ、そうだ。お守りありがとうな」

帰り道でお守りの話になった。私は委員会の用事で渡しにはいけなかったが、京子ちゃんたちと一緒にお守りを作ったのである。おそらく京子ちゃんかハルちゃんがそのことを伝えてくれたのだろう。

「あぁ、うん。守護者じゃないからあれくらいしかできないけど」

「でもすごく嬉しかったよ。見てると元気でてくるんだ」

はにかみながらそんなことを言ってこられるとこっちまで嬉しくなってしまう。

−−−−−お守り、作ってよかったなあ。

やっぱり綱吉には笑って過ごしてほしい。だからこそ今日の戦いは心配だ。負けないでほしい。ケガしないでほしい。帰ってきてほしい。

「綱吉」

「ん?」

思わず呼びかけてしまったものの、何て言えばいいのかわからず思案する。
−−−−−“頑張って”? もう頑張ってる。
−−−−−“怪我しないで”? そんな甘い戦いじゃない。

「ナマエ?」

何も言わない私を不思議に思ってか、綱吉が私の顔を覗き込んでくる。その顔を見ていたら自然と言葉が浮かんできた。

「休んでた間のノート、とってあるの」

「え?」

「課題ももう終わったから教えられるし。えと、それからね、今度新しく出るゲームも一緒にやりたいんだ」

「…うん」

気持ちが先走ってうまく喋れない。けれど綱吉はちゃんと聞いてくれた。

「あと…えーっと…あ、そうだ。これ、預かってて!」

「これって、ヘアピン?」

「うん、そう。2本でセットの片方。そこそこお気に入りなの。だから、今預けるけど絶対に返してね」

すると綱吉はきょとんとして、それからやっぱりいつもとは違う、凛々しい表情になって。

「わかった。絶対返しに来るよ」

「よろしい」

笑ってそう言うと、綱吉も一緒に笑ってくれた。
空を見上げると青空で、隣には綱吉がいる。この時間のなんと幸せなことか。そのことを再確認させてくれたことだけは争奪戦に感謝してもいいかもしれない、と思うほどに。

そうして歩いていると綱吉の家と、その隣の私の家に着いた。

「じゃあ、また明日な、ナマエ」

「うん、また明日」

綱吉が家に入ったのを見届けて私も扉を閉める。今日は不安な夜を過ごすのだろうと思っていたけれど、もう大丈夫。綱吉の言葉が私のお守りになってくれたから、必ず戻ってくるって信じてる。そうして私はもう1つのヘアピンを握りしめた。
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