何かわかんねーけどとりあえず日本に居るからオレ。暫く帰ってこねーかも。あ、お前は留守番な。もちろん土産はナシ。で、オレが帰ってくるまで任務報告書あげとくのは当然としてオレの部屋片付けてろ。
 そう言われたのがたった今。任務中突然電話がかかってきて何事かと思ったらそんなことで私は人をぶっ殺しながら「はぁあ!?」と大きく叫ばずにはいられない。相手が全員こっちを向いたけど別に不都合があるという訳でもなく私はインカムの音量を最大にして電話の相手へと文句を垂れる。


「酷いですベル隊長!私は?私は!?」
『は?お前みてーなペーペー連れていくわけねーだろ』
「日本ですよ!?私もお寿司食べたいのに!アニメイト!エオルゼアカフェ!」
『…帰ってきたらお前のパソコンねーから』
「は!?そんな事したら隊長のパソコン壊しますからね」

 不毛な戦いだとは分かっている。どうして私のパソコンが壊されないとならないのだ。ベル隊長だって最近は今流行りのネトゲをしていると聞いたことがあるから互いに譲れない。もっとも私がそんなことをしたらハリセンボンどころかもう細切れ状態にされること間違い無しなんだろうけど。
 あーあ、何で私こんな任務してるんだろ。くっだらない。
 弾が一発頬を掠め、お返しに大柄の槌で近くに居た敵の横っ面をひっぱたく。ゴギリと鈍い音。あ、今のいい音だったし首イったな。そのまま踏ん張りフルスイングすると壁にべしゃりとすでに息をしなくなっていた身体がぶち当たりズルズルと床へと落ちていく。


 あーもうやーめた。つまんないの。

 最近こんな任務ばっかりでつまらないから遠出ができたらいいのになと思っていたのにベル隊長が当たるなんてずるくない?しかも日本て。憧れの日本って!
 幹部陣がピリピリしてたのってきっとそれの所為だろうし私達ただの精鋭部隊が連れていってくれないのはわかってるけどさ。


『寂しがんなって』
「帰ったら隊長の澄ました顔見れないなんて残念で仕方ないですね!」
『覚えとけよ』

 でも、ま。先に報告してくれるなんて多分、ベル隊長は私だけなんだろなって自信過剰。お気に入りは辛いねーアッハッハ。お土産がないってわざわざ言うのは嫌がらせ。わかってるんですよ、ホント。あの人絶対お土産買ってきてくれないだろうから。

 こんな遠方じゃなかったら隊長についていったのになあ。面白そうな任務って言われたから来たらやっぱり敵の殲滅。お前の槌でもぐらたたきでもしてろって人の武器を何だと思ってるんだか。


「で、誰殺しに行くんですか?」
『日本のクソガキ』
「…そりゃ何というか贅沢ですねえ、ヴァリアーの幹部に殺されるなんて」

 日本のお子ちゃまには私は用もないけど日本のあらゆるアニメ・マンガには非常に興味がある。ついていける機会だったけど他の幹部も居るなら怖いから私はこっちでいいや。
 しっかし任務完了の日付さえ分からないってどんな相手なんだろうな。ちなみに私はまだXANXUS様を一目見た程度で、あまりよく分かってはいない。けどうちの隊長が懐いているんだから相当やばい人なんだろうなっていう感覚である。

 構ってもらいたいとかそういう訳じゃないけど私とベルフェゴール隊長の関係とは一応上司と部下。それと、ほんのちょっぴり、こうやって他愛のない話を気軽に出来る仲の良さというところか。年が近いから兄貴って感じなのかもしれない。あ、私兄貴殺してるし覚えてないんだけど。


「ねー隊長」
『ん』
「早く帰ってきてくださいね」

 別に早く会いたいだとかそういうレンアイカンジョーというものには程遠く。だけど居なければちょっと寂しいというそれなりにフクザツな思いを抱いてはいる、のだ。一応そういうのは自覚済み。だけどそれってきっと電話をしてくれた隊長もそうなんだと思う。
 ほんのちょっぴり隊長の声がいつもと違うのは私、分かってるんですからね。


『ししっ、俺を誰だと思ってんの』
「泣く子も黙る王子様カッコカリ的な」
『帰ったら覚えてろよお前』

 いつもの調子に戻るまでほんの数秒。電話が途切れる直前に『さんきゅ』と聞こえたのは、私の幻聴ではないだろう。
 あーあ、仕方ないから隊長にボコられる前に私も任務を終わらせなくちゃね。ゲームも消されたらホント困るし。せめてこっちに残ってる私達が出来ることはしっかりとしておかないと、って思える程度には私だって隊長のこと思ってるわけだ。


「ほら皆早く行くよー」

 ガコンともう一発盛大なフルスイングをかましながら皆に声をかける。
 ん?そりゃ私ベル隊長のこと信じてるし別に何も不安なんてないわ。どうせちょっとしたホームシックみたいなものでしょう。ぶっ殺してきて『あーうやっぱりツマんなかった』って言ってくるのが目に見えてるもの。八つ当たりされるのが目に見えてわかるし早く任務終わらせて帰って待ってましょうかね。
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