05.とある男の裏事情


「…だ、そうだ」

 XANXUSがベルからの任務完了の報告を告げると対面に座るスクアーロはそうかあ、と力を抜いた。

 もちろんベルとマーモンの実力を疑っている訳では無い。彼ら2人が組めば間違いなく速やかに執行されることは分かってはいたが何しろ相手は自分達の仲間の身内だ。血は繋がってはいない、彼女に辛い過酷な人生を歩ませたとは言えユウの記憶の中では虐待や実験を行われた事も無い。
 サンプルとして愛していたとコンラードは言っていたがあながち嘘でもなかったのだろう。

 ユウの中では5年前に両親が他界し、そしてコンラードが父親に扮し今回の事件を招いたと信じている。それで、いいのだ。真相を知っているのは周りの人間達だけで。
 知らせていなかったユウの母親の検死結果は悲惨なもので、死因こそ刺殺だったがそれ以前に長年薬物漬けにされていたこと、元からひどく衰弱していたことが分かっている。そうなれば疑うのは死体の見えない男の方で。
 そこに残された血痕に日本人のものはなく、そしてユウの母親の持つ荷物の中に彼ら3人で撮った写真が残されていてそれは発覚した。

 スクアーロは最初から知っていた。初めから疑っていた。
 そして、他の人間に伝えたのはXANXUSが長い眠りから起きたあの日。ユウ以外の全員が真相を知っていて、それでも尚彼女に伝えることはなかった。これからもそれはきっと固く秘められ続けるだろう。

「つくづくお前も不憫なカスだな」
「…何を言うかと思えば」

 指輪を保管したいと言ったのはユウだった。
 流石にその指輪にコンラードの術士としての残り香があったとは知らずにマーモンへと協力を要請し特注の保管箱を用意して彼女に与えてしまったことが誤算だろうか。

 彼女にどう説明すればいいというのだ。
 生まれてからユウの面倒を見ていた宮崎の家長の正体は血も繋がらぬ組織抜けした裏切り者の人体研究者で、ユウはその実験体にずっと生かされ続け、そして母親まで殺した研究者を始末するためにその父親と信じていた指輪を寄越せと。あまりにも残酷すぎて言えるわけがなかった。

 保管箱を開けろと言ったのはXANXUSだった。恐らくベルがその主旨を伝えたのだろう。それであっても頑なに断り続けるユウを見て、XANXUSが下した結論は彼女に事実を見せることだった。適当な任務を言い渡し黒曜に彼女を送り込む事によって彼女自身を囮にし、コンラードをおびき寄せた。あわよくば尻尾だけでも…と思っていたことだったが、結果皮肉にも大成功に終えたのだ。
 そしてベルからの連絡があった今、彼女の背後に潜む枷は外された。全員が全員、回りくどい方法をとってでも彼女に知られずにと誰一人文句を言わず遂行したのだ。

「お前、あれに惚れてただろ?」

 それはお前もじゃないか。
 ついうっかり口に出そうものなら今すぐこの部屋ごと消されてしまうだろうとよく分かっている。
 この男がユウに向けているのは恋慕の類ではないことは重々承知していた。XANXUSとユウの間にあるもの。それはある種の共依存に近しいものだったのかもしれない。無いものに縋るものとして。無いものを欲する者として。
 ある意味強固な絆だといえるがそれはスクアーロにとって求めているものではない。

「他の男に取られちまうじゃねーか?暫く日本に居るんだろうが」
「馬鹿言うなよお」

 くつくつとスクアーロは喉を鳴らして笑う。

「俺はあのガキの幸せをそれなりに願ってんだからなぁ゛」

 だが、泣かせるようなら容赦はしない。
 相手を斬り殺してでも彼女を連れ帰り自分の秘めた想いを告げる。その覚悟は十二分に出来ている。初めて彼女に手をあげられたあの日から?否、本当はもっと前だったのかもしれない。ユウがXANXUSの部屋で涙したあの日かもしれない、ベルが拾ってきたあの日、ユウと対峙したあの時かもしれない。
 失えない存在だ。だからこそ、同時に彼女が幸せであればそれでいいとも思っている。

「お前も面倒臭ェ男だな」

 そう笑うXANXUSの赤の瞳は心なしか和らいでいる。彼が彼女を想い話している最中はいつも眉間の皺が心なしか少ないことを本人も知らないにちがいない。

 手前も変わりねえよ、なんて心の中で思いながらそれでも決して言葉にはせず、スクアーロは遠くの地に居る彼女の幸せを願い酒を呷った。

【とある男の裏事情】

 | 
TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -