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 旅行先は決まって、北イタリア。父さんが若い頃に留学していた先らしく、何かにつけて実はここに来たがる。土地柄なのだろうか、その明るい人達、美味しいご飯に母さんも私も大賛成で、結局気がついたら何年も私の誕生日にはここへ来ていた。

「行ってくる!」
「暗くなる前には帰ってきなさいね」
「はーい!」

 飛行機の中では少しだけ緊張していたけれど、この地に着いたらそんなことすっかり忘れちゃった。毎年お世話になるホテルを後にして私は走った。一年程度で街並みが変わることもなく、見慣れた街を走る。覚えのある人となら挨拶を交わしたりして突き進む私の目的地は、ただ一つ。

『来たよー!』
『ユウじゃねーか!久々だなあ』
『もうそんな時期かー』

 街を少し外れた、屋敷。
 強面の人達の出入りする場所という認識されているそこは、父さんの友人達の家でもあった。私はあまりよく分からないけれど、ここにいる人たちは『マフィア』っていうちょっと怖い人たちのグループで、街の人たちには少しだけ敬遠されていた。けど、私からみたら皆がイタズラ好きで、遊びに来たら誕生日ケーキや花束をくれたり、ちょっと粗暴だけどとっても優しい人たちに違いはないのだ。

『また1人で来やがったのか』

 私の目的の人は、相変わらずそこにいた。どうもここの用心棒として働いているというらしい、このランチアという人は大きな手で私の頭を撫でてくれて私は思わず笑みが零れる。背も高くて、少しだけ顔が怖いけれどとっても優しい彼から毎年の誕生日にもらう赤の花が大好きなのだ。

『ランチアに会いに来たんだもの!』
『お前ほんと子供にモテるよなあ』

 ランチアに抱きつくと誰かひとりがそれをはやし立てて皆がどっと笑う。いいもん、私は自分が子供だってこと十分に分かっているし、だからこそ何を言ったってある程度のことは子供の言うことだで済まされる。
 子供の割に、私は少しだけ、打算的だった。少しむくれたように頬を膨らませるとランチアが困ったように笑うことだって知ってるし、私を怒らせてしまったのかと、はやし立てた人が後から飴をくれることだって知ってるもの。

『私だって、大きくなったのよ!』
『ジャッポーネの女は成長が遅い』
『ひどーい!早く大人になってみせるんだから!』

 イタリア語は、難しい。けど父さんの熱心な教えと、教育ビデオ、それから毎年のようにここに来るおかげで難しい言葉や訛りがない限りは何となく意思の疎通が出来るようにはなっていた。これも愛の成せる技かしらねえ、と母さんが笑っていたのを覚えている。私には愛というものはまだ分からないけれど、こうやって一人の為に何かを頑張れることが愛なのであれば私がランチアに抱いているものはまさに愛だった。

『そう言えば、ボスさんは?』
『…あー』

 いつも一番に私を抱っこして成長を喜んでくれる、父さんの親友がいない。だから何の気なしに聞いてみると、掴んでたランチアの腕が震えたのがわかった。少し緊張しているような、そんなピリピリの雰囲気を醸し出しているのはランチアだけで、だから彼の代わりにひとりが返してくれた。

『最近また一人拾ったみたいでな』
『ふうん』

 ここのボスさんはとても器が大きい、と父さんが自慢していた。何でも、親がいなくなったりとか、そういう子供を拾ったりして育ててくれるんだとか。私はそんなボスさんが素晴らしい人だと思うし、そんなボスさんの友人である父さんのこともとても誇らしい。

『ユウと同じくらいの年齢だろうし、今からでも紹介してや『ユウは』

 仲間の声を遮るように、ランチアは声を上げた。

『ユウは、今から俺と約束があるんだ』

 ロリコンかよ!という皆の声に彼は笑みを浮かべると、いつものように雑談を再開した。
 …今のはなあに?ランチア、どうしてあなたはこんなに強く私の腕を掴んでいるの?

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