ひどく長い夜が明けた。
怪我だらけだったけど休む訳にはいかなかった。その間に並盛の風紀が、秩序が乱される訳にはいかないから。
9月9日、あの日が随分と長い1日のように感じていたが草壁の報告を聞くとやられた風紀委員の数も多く、正直人手不足だった。だけどまだあの件を不安に思った生徒も多いらしく欠席している人間も仕方ないとは言え多かった。嘘のように静かな学校はまるで休日みたいだ。
それでも少しずつ人は戻ってくる。怪我をした人間も治り次第復学するだろう。そうやって日常はまた平穏に戻っていく。だけど、
「…ゆう」
僕が次に目を覚ました時、気が付けば病院だった。
どうしてこんなところに居るのだろうと視線だけ動かしながら考え、そしてそれが並盛中央病院の病室であると分かった瞬間に飛び起きた。
どこかぽっかりと穴の開いたような。どこかに何かを落としたような。そんな拭いきれないような、説明も出来ない喪失感。
…僕はこの目覚めの時に感じた違和感を、その後僕の回りで起きた不思議な事件のことを一度経験している。それがいつの事だったかなんて後にも先にもあれだけだったし思い返す必要もない。
起き上がった際、身体に響く痛みに思わず痛みに身体を屈ませた。ああ、そういえば骨も折れているようだった。ここまで怪我を負うのは久しぶりだっけ。
病室内を確認すると血が付着したままのトンファーが、それといつの間にか落としていたと思っていた壊れた携帯がそのまま枕元に置いておかれていただけでそれ以外は何もない。どうやらあの日、あれから僕は意識を飛ばしその後この病院へと運ばれていたようだった。
でも、そんなことどうだっていい。
目覚めたこの時点で何時だか知らないけどあの日の事件が終わったのであれば確認しなければならないことがある。今まで通りであることを確認しなければならないことがある。
括り付けられた点滴を無理矢理外し、壁にかけられていた学ランを羽織り医者の制止を振り切って向かったのはあの家。ゆうが帰っているはずの家だった。この予感が外れるようにと。どうか外れてあってほしいと願いながら。
『…また、なのか』
だけどそこに彼女の姿はなかった。お帰りといつものように僕を出迎えることはなかった。
またあの日の再来なのか。また彼女は僕の手をすり抜けどこかへ行ってしまったのか。僕を待っていた事実に愕然としたけれど唯一救いがある。
今回は少しだけ、あの時と勝手が違うから。
ゆうの部屋にあったものはすべてそのままに、僕が漁ったままにそこにあったから。以前と同じように元の世界に戻るというのであれば彼女はまだこの世界にいる。その確信だけが、そこにあった。
そして、僕は彼女のことを忘れていない。一時たりとも。
「委員長、本日も異常無しです」
「うん」
異常も異常、大ありじゃないか。
そう言いたくもなるけどここで草壁に言ったところで何も変わることはなく僕は報告の声を聞きながらぼんやりと青空を並盛中学の屋上で寝転がり、見上げていた。
あれから、押切ゆうの姿は誰も見てはいない。
彼女はどうなったのだろうか。
あれからもう数日が経っているというのにゆうの姿を誰も見ることがなかった。帰ってくる様子もなかった。何か少しの変化でも見つければと毎日あの家に通ってはいるし見回りする範囲も広げてはみたが何も変わらないまま。何も見つからないままだ。
手がかりは何も無いまま、だけどまだこの世界に居るのだと縋っているのは彼女の持ち物があったから。僕にも、…草壁にもあの子の記憶はあったから。
「今日も来ていませんね」
「…そうだね」
草壁以外でもそうだ。誰にも忘れられてはいないけれど、ただまた欠席として彼女の登校状況が淡々と報告されるのみだった。
ああまたか、また彼女はこうやって休学という形で取り扱われていくのか。そういう認識で忘れられていくことは当然だったが、僕はそれが恐ろしい。今度は不可思議な現象ではなく自然に、忘れていくことが。
とにかく僕はあれからまったくもって僕らしくもなく必死に、無我夢中で随所を探し回った。少しでもヒントになるものがないかと黒曜センターにもあれから一人で行ってみた。
元々誰も寄り付かないような場所だったらしく全てがあの時の惨状のまま放り出されていた。誰かが戦った痕は見られたアレは恐らく草食動物達のことだろう。ならばあの男が狙っていたのは僕ではなく彼らだったのか。その結果を見届けることもなく僕はあそこで倒れてしまった訳だからよく覚えていないし知らないけど。
だけど長い時間探したもののあの子の痕跡は何一つ見つけることが出来なかった。おびただしい血痕、誰かの武器の残骸、そんなものぐらい。
再度たむろし始めていた黒曜中学校の不良達を問い詰めると確かにあの日、”六道骸”という男とゆうらしき子が一緒に居たらしいけどその後は知らないと言っていた。
六道骸。
あの男、そんな名前だったんだ。彼らが見たのは恐らく僕に咬み殺される前の話だろうし何のヒントにもならなかったけど、それでも彼女は此処に居た。僕の夢や妄想なんかじゃなく、彼女は本当に此処に居たんだ。
でもゆうはあれからどうやって移動したというんだろう。一緒に捕まっていた地下室に行ってもあの広い森の中を見ても、血の跡ぐらいは発見できたけどそれ以外に何もない。あれらのどれもがゆうに関わりないという証拠もない。僕といたあの時であれば少なくとも怪我は本当に少しの切り傷レベルだったのにあれから何もなかったという証拠も、これもまたない。
彼女に何かあったんじゃ、と考えるのは当然のこと。
でも”物語”を、今回起きた件に関しても知っているゆうだったら最悪の状況は回避しているんじゃないかという気持ちはある。それだって結局は希望的観測でしかないけれど。さすがにお得意の迷子であっても時間がかかりすぎている。
ならどこかで何かに巻き込まれているのかもしれないと懸念もある。
あの男に連れていかれたという可能性だって棄てきれない。だけどこれ以上どうすればいい。僕が不在の間に並盛の風紀が乱れてしまえば意味もない。焦ってはいるけどそれを表に出すわけにはいかなかった。
「……でも、」
――約束したんだ、僕の元に帰ってくるって。
ゆうはいつもと同じで、守れるかどうか分からない約束に関して頷きはしなかったけど否定しなかったということは君なりに守るつもりはあるんだろう?ならば僕は、
「……ナイノヨ」
突然聞こえてきたその言葉にピクリと反応する。
身体を起こしその発言者を見ればフェンスの上にいつの間にか止まっていたあの黄色い鳥。そういえばあの事件からずっとこの鳥が僕の傍にいて、居着いてしまっていたっけ。この鳥の名前を聞くことをそういえば忘れていたよ。
別に群れているわけでもないし、無碍にすることがなかったのは彼女はこの鳥の存在を知っていたからだ。今もまだ僕の携帯に付けられているあのストラップを選んだ、元になるぐらいには。
今、そんな鳥が何かを話そうとしていた。いや話せるわけじゃないのか。この鳥はどうやら知能が高いらしく、復唱することができる。…あの時もそうだっけ。並中の校歌を覚えたんだったっけ。ゆうが教えたせいで一部音程がズレているけど。
「君はゆうの事を知っているのかい」
「ゆう!ゆう!」
声をかけてみるとパタパタと羽を広げ僕の前に移動し、こちらをジッと見つめてくる。それ以外は何もなく丸い瞳がこちらをただ見据え、その小さな瞳にはさぞかし滑稽な僕が映っているに違いない。
…何をやっているんだろうね、僕は。鳥にゆうの事を聞いても何の意味もないのに。君が気付くぐらいならきっと僕の方が先に分かっているだろうから。
でも分かっていても尚縋る程度には、もう何のヒントも残されていなかった。何も出来やしなかった。僕はまた、無力だった。こんな気持ちになるぐらいなら始めから持たない方がマシだと思っていたのに結局これだ、情けない。
そんな僕の考えを読んでいたのだろうか。チチチ、と鳴いて指先に止まるその鳥は今度はヒバリ、ヒバリと僕の名前を数度呼んで、また紡ぐ。
「藤咲ゆうハ コンナトコロデ 終ワル女 ジャナイノヨ」
時が止まったというのはこういうことを言うのだろう。
驚きと、納得と。それから後湧き上がってくる色々と複雑な感情と。
──ああ。
君の事を軽んじて悪かったよ。君はやっぱり賢い鳥だった。
どうして今あの子の名前を読み上げたのか。そもそもその言葉はいつ彼女が言ったのかわからないけど…藤咲ゆうと、言うんだね。押切という苗字はここの世界で与えられたものだとは知っていたけど聞かされることはなかった。教えてもらおうと思う気持ちもなかったのはきっとそれを知ればまた改めて世界が違うということを思い知らされるから。
まさか君から聞かされるなんて思わなかったけど今はそれでもいい。
「…そうだね」
まさか君に、…君の前で己を叱咤したゆうの言葉に僕までも勇気づけられるとは思ってもみなかったけど。ゆうはいつだって無自覚に、僕を振り回す。それに居心地の良さを感じていたのは確かだ。そんな彼女を、こんなところで失うものか。
あの子はこんなところで、終わる女じゃない。そんなもので終わるような子じゃなかったね。自分で言ってるぐらいだ、きっと今もどこかでそうやって一人、歩いているんだろう?
まだ少し痛む身体に眉をしかめながら僕はゆっくりと立ち上がった。
ゆうが帰ってくるまで待つ?そんな悠長なことしていられる暇なんてないよ。
そうやってさっきまでの思考を真っ向から否定する。
待つだなんてそんなこと、まったくもって僕らしくないだろ。どこかで迷っているなら迎えに行かないと。
こすぱに!
帰ってくる場所がわからないなら、僕が探して、連れ帰ってあげるから。
怪我だらけだったけど休む訳にはいかなかった。その間に並盛の風紀が、秩序が乱される訳にはいかないから。
9月9日、あの日が随分と長い1日のように感じていたが草壁の報告を聞くとやられた風紀委員の数も多く、正直人手不足だった。だけどまだあの件を不安に思った生徒も多いらしく欠席している人間も仕方ないとは言え多かった。嘘のように静かな学校はまるで休日みたいだ。
それでも少しずつ人は戻ってくる。怪我をした人間も治り次第復学するだろう。そうやって日常はまた平穏に戻っていく。だけど、
「…ゆう」
僕が次に目を覚ました時、気が付けば病院だった。
どうしてこんなところに居るのだろうと視線だけ動かしながら考え、そしてそれが並盛中央病院の病室であると分かった瞬間に飛び起きた。
どこかぽっかりと穴の開いたような。どこかに何かを落としたような。そんな拭いきれないような、説明も出来ない喪失感。
…僕はこの目覚めの時に感じた違和感を、その後僕の回りで起きた不思議な事件のことを一度経験している。それがいつの事だったかなんて後にも先にもあれだけだったし思い返す必要もない。
起き上がった際、身体に響く痛みに思わず痛みに身体を屈ませた。ああ、そういえば骨も折れているようだった。ここまで怪我を負うのは久しぶりだっけ。
病室内を確認すると血が付着したままのトンファーが、それといつの間にか落としていたと思っていた壊れた携帯がそのまま枕元に置いておかれていただけでそれ以外は何もない。どうやらあの日、あれから僕は意識を飛ばしその後この病院へと運ばれていたようだった。
でも、そんなことどうだっていい。
目覚めたこの時点で何時だか知らないけどあの日の事件が終わったのであれば確認しなければならないことがある。今まで通りであることを確認しなければならないことがある。
括り付けられた点滴を無理矢理外し、壁にかけられていた学ランを羽織り医者の制止を振り切って向かったのはあの家。ゆうが帰っているはずの家だった。この予感が外れるようにと。どうか外れてあってほしいと願いながら。
『…また、なのか』
だけどそこに彼女の姿はなかった。お帰りといつものように僕を出迎えることはなかった。
またあの日の再来なのか。また彼女は僕の手をすり抜けどこかへ行ってしまったのか。僕を待っていた事実に愕然としたけれど唯一救いがある。
今回は少しだけ、あの時と勝手が違うから。
ゆうの部屋にあったものはすべてそのままに、僕が漁ったままにそこにあったから。以前と同じように元の世界に戻るというのであれば彼女はまだこの世界にいる。その確信だけが、そこにあった。
そして、僕は彼女のことを忘れていない。一時たりとも。
「委員長、本日も異常無しです」
「うん」
異常も異常、大ありじゃないか。
そう言いたくもなるけどここで草壁に言ったところで何も変わることはなく僕は報告の声を聞きながらぼんやりと青空を並盛中学の屋上で寝転がり、見上げていた。
あれから、押切ゆうの姿は誰も見てはいない。
彼女はどうなったのだろうか。
あれからもう数日が経っているというのにゆうの姿を誰も見ることがなかった。帰ってくる様子もなかった。何か少しの変化でも見つければと毎日あの家に通ってはいるし見回りする範囲も広げてはみたが何も変わらないまま。何も見つからないままだ。
手がかりは何も無いまま、だけどまだこの世界に居るのだと縋っているのは彼女の持ち物があったから。僕にも、…草壁にもあの子の記憶はあったから。
「今日も来ていませんね」
「…そうだね」
草壁以外でもそうだ。誰にも忘れられてはいないけれど、ただまた欠席として彼女の登校状況が淡々と報告されるのみだった。
ああまたか、また彼女はこうやって休学という形で取り扱われていくのか。そういう認識で忘れられていくことは当然だったが、僕はそれが恐ろしい。今度は不可思議な現象ではなく自然に、忘れていくことが。
とにかく僕はあれからまったくもって僕らしくもなく必死に、無我夢中で随所を探し回った。少しでもヒントになるものがないかと黒曜センターにもあれから一人で行ってみた。
元々誰も寄り付かないような場所だったらしく全てがあの時の惨状のまま放り出されていた。誰かが戦った痕は見られたアレは恐らく草食動物達のことだろう。ならばあの男が狙っていたのは僕ではなく彼らだったのか。その結果を見届けることもなく僕はあそこで倒れてしまった訳だからよく覚えていないし知らないけど。
だけど長い時間探したもののあの子の痕跡は何一つ見つけることが出来なかった。おびただしい血痕、誰かの武器の残骸、そんなものぐらい。
再度たむろし始めていた黒曜中学校の不良達を問い詰めると確かにあの日、”六道骸”という男とゆうらしき子が一緒に居たらしいけどその後は知らないと言っていた。
六道骸。
あの男、そんな名前だったんだ。彼らが見たのは恐らく僕に咬み殺される前の話だろうし何のヒントにもならなかったけど、それでも彼女は此処に居た。僕の夢や妄想なんかじゃなく、彼女は本当に此処に居たんだ。
でもゆうはあれからどうやって移動したというんだろう。一緒に捕まっていた地下室に行ってもあの広い森の中を見ても、血の跡ぐらいは発見できたけどそれ以外に何もない。あれらのどれもがゆうに関わりないという証拠もない。僕といたあの時であれば少なくとも怪我は本当に少しの切り傷レベルだったのにあれから何もなかったという証拠も、これもまたない。
彼女に何かあったんじゃ、と考えるのは当然のこと。
でも”物語”を、今回起きた件に関しても知っているゆうだったら最悪の状況は回避しているんじゃないかという気持ちはある。それだって結局は希望的観測でしかないけれど。さすがにお得意の迷子であっても時間がかかりすぎている。
ならどこかで何かに巻き込まれているのかもしれないと懸念もある。
あの男に連れていかれたという可能性だって棄てきれない。だけどこれ以上どうすればいい。僕が不在の間に並盛の風紀が乱れてしまえば意味もない。焦ってはいるけどそれを表に出すわけにはいかなかった。
「……でも、」
――約束したんだ、僕の元に帰ってくるって。
ゆうはいつもと同じで、守れるかどうか分からない約束に関して頷きはしなかったけど否定しなかったということは君なりに守るつもりはあるんだろう?ならば僕は、
「……ナイノヨ」
突然聞こえてきたその言葉にピクリと反応する。
身体を起こしその発言者を見ればフェンスの上にいつの間にか止まっていたあの黄色い鳥。そういえばあの事件からずっとこの鳥が僕の傍にいて、居着いてしまっていたっけ。この鳥の名前を聞くことをそういえば忘れていたよ。
別に群れているわけでもないし、無碍にすることがなかったのは彼女はこの鳥の存在を知っていたからだ。今もまだ僕の携帯に付けられているあのストラップを選んだ、元になるぐらいには。
今、そんな鳥が何かを話そうとしていた。いや話せるわけじゃないのか。この鳥はどうやら知能が高いらしく、復唱することができる。…あの時もそうだっけ。並中の校歌を覚えたんだったっけ。ゆうが教えたせいで一部音程がズレているけど。
「君はゆうの事を知っているのかい」
「ゆう!ゆう!」
声をかけてみるとパタパタと羽を広げ僕の前に移動し、こちらをジッと見つめてくる。それ以外は何もなく丸い瞳がこちらをただ見据え、その小さな瞳にはさぞかし滑稽な僕が映っているに違いない。
…何をやっているんだろうね、僕は。鳥にゆうの事を聞いても何の意味もないのに。君が気付くぐらいならきっと僕の方が先に分かっているだろうから。
でも分かっていても尚縋る程度には、もう何のヒントも残されていなかった。何も出来やしなかった。僕はまた、無力だった。こんな気持ちになるぐらいなら始めから持たない方がマシだと思っていたのに結局これだ、情けない。
そんな僕の考えを読んでいたのだろうか。チチチ、と鳴いて指先に止まるその鳥は今度はヒバリ、ヒバリと僕の名前を数度呼んで、また紡ぐ。
「藤咲ゆうハ コンナトコロデ 終ワル女 ジャナイノヨ」
時が止まったというのはこういうことを言うのだろう。
驚きと、納得と。それから後湧き上がってくる色々と複雑な感情と。
──ああ。
君の事を軽んじて悪かったよ。君はやっぱり賢い鳥だった。
どうして今あの子の名前を読み上げたのか。そもそもその言葉はいつ彼女が言ったのかわからないけど…藤咲ゆうと、言うんだね。押切という苗字はここの世界で与えられたものだとは知っていたけど聞かされることはなかった。教えてもらおうと思う気持ちもなかったのはきっとそれを知ればまた改めて世界が違うということを思い知らされるから。
まさか君から聞かされるなんて思わなかったけど今はそれでもいい。
「…そうだね」
まさか君に、…君の前で己を叱咤したゆうの言葉に僕までも勇気づけられるとは思ってもみなかったけど。ゆうはいつだって無自覚に、僕を振り回す。それに居心地の良さを感じていたのは確かだ。そんな彼女を、こんなところで失うものか。
あの子はこんなところで、終わる女じゃない。そんなもので終わるような子じゃなかったね。自分で言ってるぐらいだ、きっと今もどこかでそうやって一人、歩いているんだろう?
まだ少し痛む身体に眉をしかめながら僕はゆっくりと立ち上がった。
ゆうが帰ってくるまで待つ?そんな悠長なことしていられる暇なんてないよ。
そうやってさっきまでの思考を真っ向から否定する。
待つだなんてそんなこと、まったくもって僕らしくないだろ。どこかで迷っているなら迎えに行かないと。
こすぱに!
帰ってくる場所がわからないなら、僕が探して、連れ帰ってあげるから。
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