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「…ちょっと落ち着こうね。ねっ、ねっ!?」

拒まれなかった事に対しこれはもしかしてと少しでも期待した雲雀の考えは数秒後物の見事、木端微塵にされた。そう、だって先程まであんな反応をしていたというのに。
怪我をしていたはずのゆうに対してもう一度触れようとした次の瞬間俊敏に動き、慌てて雲雀から距離をとると拒絶し始めたのだ。

それでも顔を真っ赤にした彼女が何を言ってもそれは威嚇にも何にもなりやせず寧ろ雲雀の中にある何かを擽られるようなそんな気分にもなって楽しげな笑みが浮かぶばかり。

「僕は別に落ち着いているけどね」

一歩一歩、ゆうに向かって歩みを進める度に彼女も後ろ足で逃げる。
とはいえ所詮は家の中だ。少し手を伸ばせばゲーム・エンドで熱いゆうの頬に触れた。
ああ、もう何て。自ずと口角が上がっていくのが自分でもわかる。
獲物を追い詰めるのはいつだって楽しい。

酒を呷っていたせいか僅かに潤む目に、上気した赤い頬。
形のいい唇から漏れるのは、熱い吐息。
そこに酒気さえ感じられなければまったくもって問題がないというのにそこだけは減点対象だけど、誘われているとしか思えないこの状況に下唇をぺろりと舐めた。

「ねぇゆう」
「…何」
「君、もしかして今の初めてだったのかい?」

ピクリと無言のまま吊り上がる眉が如実に物語っているが此方を睨む目はまだ厳しい。

「な、に言ってるの!超経験者だからね。こんなの挨拶だから、挨拶!」

酔っ払うとどうも少し頭が悪くなるようだがこれが酒の力なのであればたまに飲ませるのも悪くはないと思う。
普段のよく考えていなさそうな彼女のことも面白いがこれはこれで。
どちらかというと此方の方が飲酒をしたことにより理性的なものが若干薄れている状態だろうし本性に近いのかもしれない。

それでもやはり大人なのであれば自分の言葉にはしっかり責任をとってもらわなくては困る。

「…ふぅん。じゃあ僕に教えてよ。挨拶以上のを、さ」
「えっ、いや、あの、」

ずいっと体ごと一歩近付くと途端に怯えた様子を見せた。
手を伸ばし、ゆうの細い手首を捕まえるとその後ろにあるソファに彼女の小さな身体を押すと呆気なく崩れ落ちその上に圧し掛かった。

ぎゃあ!と何とも色気のない悲鳴をあげながら目をぱちくり瞬かせるするゆうに、これはやはり経験無しかとしたり顔で、足の間に己の足を割り込ませ。

相変わらず油断しているのか、雲雀が何も思ってもいないとでも信じていたのか太股を惜しげもなく晒すその姿は想像以上に今の雲雀の中にある欲望を掻き乱しているとしか思えなかった。

「っ、ターイム!タイムタイム!」
「待ったなし」
「ぃっ、」

中断を訴えるゆうの耳元で囁くと大きく身体が震えた。目尻に涙が浮かんでいたがそれすら愛おしい。
ああ、何て面白い。群れる草食動物は嫌いだけれどこの小動物は嫌いじゃない。
ここまでしても「なんで」「どうして」なんて慌てふためくこの様子からしてまだ何も気付いていないのだ。大人のくせに、こういうところはある意味立派に子供というところだろう。

このまま流れに任せてしまってもいいのだけれど、と彼女の顔を再度見ようとした雲雀はぴしりと固まった。

「…ゆう?」

深夜の三時ということに加え、酔っ払いの彼女が眠りにつくまでの時間を知らなかったことが敗因か。
先程までの盛り上がりはどこへ行ったやら、雲雀の下ですよすよと眠りについたゆうの姿を見てひくりと引き攣らせたのはまた別の話。


「……覚えておきなよ」

  
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