26

いつしか雪も解け、春が訪れようとしていた。
新学期も間近に迫り私は中学一年生から二年生へとなろうとしている。相変わらず一線を引いて彼らの行動を見ては癒される毎日を送っていた。

「(…まあ、気にする必要はないか)」

こんな気軽にぐうたらと過ごしている私にだって覚悟というものがある。今でこそこうやってクラスに馴染んでいるわけだけど、もしリボーンに会ったらという想像はやっぱりあった。
沢田達と仲良くしているともしかしたら私もボンゴレに入れなんていわれるかもしれないと身構えていたけれどどうにか上手いこと回避できているみたいで、付かず離れずの位置で居たいと思っている私にとってそれはありがたいことだったわけだけど。
でも、ここまで会わないと本当にこの世界にリボーンっていう人間はいるんだよね?と不思議にはなってしまう。

「ひっさしぶりに走りますか!」
「えー押切さんと走るのやだあ」
「ええ、そんな事言わず一緒に走ってよ!」

クラスメイトの嫌がる声にも対応して、皆でクスクス笑いながらストレッチも念入りに行い、よーいドン。
隣で走る京子ちゃんの姿に思わず内心鼻血を流し一生懸命走っている彼女をちらりと覗き見。
話しかけたいクラスメイトナンバーワンな京子ちゃんだけど、天使オーラが眩過ぎて下心満載の私には話しかけることすら躊躇われ結局話せずじまいで学校に来てから数日が経過してしまっていることだけが悩みの種だ。

それでも体育の授業で体操服姿を見た時は手をこすり合わせて神に感謝していたものけどその反面自分の体操服姿にこれ以上はない罰ゲーム感に絶望。
とはいえどうせ他の人には自分が押切ゆうという中学生にしか見えていないものと高を括った。別名吹っ切れたとも言う。楽しんだもの勝ちってね。

「わー押切さん早い!」

そもそも押切ゆうという人間はこのリボーンの世界には実在しない。
だからもしかしたら、コスプレをせずにこちらの世界に来てしまったとしても何かしらの名前や仕事が用意されたのかもしれない。
まあそれでも結果的には学生を選んだ事に後悔はない。

それでもこの押切ゆうという人間になったことで人よりも遥かに運動能力が良かったのは事実で、私の中学時代には有り得ないタイムで短距離も長距離も走ってみせたし、バスケットボールのような団体戦でも活躍してみせた。
お陰で私がこの学校に来てから一日目にちょうど行われた体力テストの結果が人伝で運動部の先輩方から熱烈に勧誘されているのは別の話。

因みに獄寺に初めて話しかけられた時も陸上部の人から勧誘で連絡先を聞かれていた時だったけど、生憎と連絡手段を持っていない為新学期の今でもよく呼び出されては勧誘されお断りする日々を送っている。
流石にこの世界であの携帯を見せるわけにはいかない。
確か病弱設定的なものもあったと思うんだけど、いつの間にやら綺麗さっぱり消え去っている。

「あ、沢田の体操服姿もなかなか」

中学生活を一番楽しんでいるのは案外私かもしれない。
体育は男女別とはいっても運動場を半分にわけてるだけなので遠目に彼らが見え、学生の体操服はこれまた眩しい。何だかんだ皆のスタイルが素晴らしいんだなあ、これが。
気恥ずかしさが先行し体操服を着るキャラのコスプレは避けてきたので着用は数年ぶりである。

「いいなぁ、私も早く走れるようになりたいなあ」

ああ、京子ちゃんは少し遅いぐらいで可愛いというのにと心の中で涎を垂らしながら思う。
私の隣で座り込んだ京子ちゃんの天使のような横顔をジックリ見ていると、ふとその視線の先がいつの間にか男子の方向に向いているのがわかった。

青春だなあと彼女を見守る私の視線はもはや自分の娘の恋路を見守る母親の類に近い。
そう言えば彼女はいずれ誰かと結ばれることになるのだろうかと思い返した。

残念ながら私の知っている内容までではそんな節はひとつも見当たらなかったのだけど。

「き、…笹川さんってクラスの男子とも仲いいの?」
「えっそんなことないよ」
「そうなんだ。私さ、去年ほとんど学校に来れなかったから殆ど誰とも友達になれなくて。…もし良かったら、私とお友達になって欲しいなあって。もうすぐクラス替えだけどさ、」
「当たり前じゃない!」

顔を見合わせて、にっこり笑顔。
笹川京子は天使であると再度確認し一人地面を無言で叩いた。



(アブノーマルな世界に引きずり込もうとするこの体操服の天使は一体何なの!)
  
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