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「長かった」

うっかり呟いてしまうほど、本当に長かった。
今までのこの生活の中でもこんなに頑張ったことがあっただろうか。
いや、そりゃ初めて浴衣を作った時や既製品ではどうしようもない型破りな衣装やらに比べれば難易度は少し低めではある。
それでもようやく出来上がったそれに達成感を感じ汗と努力の結晶を見てほぅ、と息をついた。


基本的にはコツコツと物事をこなしていくタイプの私が何故ここまで追い詰められたかというと、ただ、「愛が爆発したから」の一言に尽きる。
家庭教師ヒットマンREBORN!
数年前に連載終了した漫画で、先日一緒にイベントに行ったコスプレイヤーの友人が始めの二、三冊を貸してくれたっていうのが出会い。うっかりハマった。今更ながら漫画も全巻集めた。
それをSNSで報告したら件の友人は嬉しそうにこう言ったのだ。

『良かったら今度、リボーン合わせをするんだけどどうかな』

よくよく考えればあの時に漫画を貸してくれたのは彼女の策略だったのかもしれない。というか絶対そうだった。私だっておなじ手法使うもん。けれどこの時点ではあくまで彼女は提案、私はそれにしっかりと飛び乗った。
そこからイベントの日までに全てを集めなければならない、という鬼のような日々が始まったのだ。

のんびりと見ているアニメは現在、リング争奪戦。漫画は最後まで。少年漫画らしく戦闘があり、そして敵役にイケメン集団。美味しいことこの上ない。
とりあえずリング戦まで全部読めば合わせに関しては問題ないよーといわれたのでざっくりと全巻読破し、それから特にリング戦付近の資料はかき集めた。ついでに某アニメショップへ行ってグッズも買ったりと結構充実した生活をしている。連載終わっているのにグッズ売ってるのってやっぱりすごい人気だね、ホント。なんと優しい世界だ。

と、いうわけで私の詳しい知識といえばちょうどリング争奪戦付近までだったけど熱はぐんぐんと上昇、興奮冷め切らないままにウィッグも用意して、大量の画像を携帯に収め、愛のままに布屋へ猛ダッシュ。
そして先程まで、あーでもないこーでもないと店員さん一人をお供に携帯を見せながら小一時間。
撮ってきた画像、映像全部を見比べた結果八千五百円(税抜)の布代という過去最高の出費。今までネット販売で安く安くとコストを考えて買ってきたというのにこれだけは譲れなかった。
貧乏OLの私としては少し痛いものではあったけれど、それでも自分の趣味のためなら多少…暫くはモヤシ生活になるぐらいどうってことはないのだと自分を奮い立たせる。

総額で考えると今日はそれとは別に小道具もウィッグも買って諭吉が三人ほど家出してしまったのだけど業者で頼んだりして後からリメイクだ何だと手直しをするぐらいなら断然安く仕上がるはず。
愛用のミシンを抱えて、作り置きしている自分の体型ぴったりに作った型紙を布にあてて。コートみたいな形なんてそれこそ何十着も作ってきたわけだし、気が付けば和装、セーラー服、水着みたいな服まで制作はしてきた。見栄えさえよければそれでいい。
私はただのコスプレイヤー。機能性なんて不要でしょ?


そうして、冒頭に戻る。
ようやく出来上がったそれにウキウキしながら袖を通し、姿見で見栄えを再チェック。自分の髪の毛は少し長いし邪魔だからとその辺に放置しておいた黒の短いウィッグを被って。

「よし!」

くるりと回ってみせたりして、見た感じは問題がなさそうと自画自賛。あとは写真映えがどうなるかって事だけど今までの経験上それも無事クリアできそう。
皆の意見とアニメ映像だけで作ったから細部は若干自信のないところはあるけれど、今までそれで数年間リボーンのコスプレをしてきた友人たちと布や作りは合わせておいたしきっと大丈夫!

「…とりあえず、今日はこれぐらいにしておこうかな」

携帯で鏡越しに写真を撮って現在の進捗状況をSNSで報告し、画面にある時間を見たら深夜二時。
流石に何時間も同じ体勢でいたから肩が凝っちゃって仕方ない。イベントにはまだ余裕があるし手直しは明日にしよう。そしてちょっと落ち着いたら漫画の続きを読もう。構図とかも練らなくちゃ。

ヲタクの集中力とは恐ろしく、安心したと同時に空腹が襲う。
そういえばご飯はまだだっけ。作る気力はないけど何か冷蔵庫になかったかな…そう思いながら部屋を出た瞬間だった。

―――ぐにゃり。

「!」

視界が揺れる。
思わずふらついてうっかり階段を踏み外し背中と頭に大きな痛みが走った。

私の記憶は、そこまで。
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